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68の事例から見るスマートシティの現在地【市民生活編】

hayashoと申します。
コロナを機に長野県の小布施町という人口1.1万人の町に移住し、まちづくりの仕事に携わっています。

このnoteでは、未来の地方自治体がどうあるべきなのかを考えるにあたって、最近よく耳にする「スマートシティ」って何ぞや?という問いを調べながら、分かったことを備忘録的にまとめています。

第4回は、「Smart Living」と称して、技術を使って市民の生活における課題解決を目指す取り組みについてまとめてみました。

【 Smart Livingとは?】

Smart Livingとは、医療や教育などの生活に関わるデータを活用することによる、生活の利便性の向上、情報共有の強化、新たな観光価値の創造を理念としています。つまり、市民の生活をデータとITツールを使ってより便利なものにしようということです。

Smart Economyなどとも内容が一部重複しますが、この連載においては特に医療福祉や防犯等の公共性の高い領域での施策を中心に取り上げたいと思います。よりビジネスに近しい施策については以下の記事の「②具体施策」をご覧ください。

今回のまとめ記事では、これまでの調査で見つかった日本国内の15個の事例を総括し、「平常時における市民生活の向上・改善」「非常時における市民生活の担保」という2つの切り口で事例を紹介しようと思います。

①平常時における市民生活の向上・改善

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平常時における市民生活の向上・改善においては、市民の中でも特に高齢者の生活をよりよいものにしようとするため、自治体では介護・医療見守り・安全といった2つの観点が見えてきました。手段としては、オンライン診療見守りセンサーの導入AIを用いた介護システム健康状態のポイント化が挙げられます。以下で説明したいと思います。

①-a)オンライン診療
福島県会津若松市では、2019年からオンライン診療を導入しています。会津若松市では高齢化率が31%と高い上、広範囲に高齢者がいる市内では、高齢者が直接病院に行くことは困難となっています。さらに、地方なので専門医が少なく、市内の病院に行けたとしても適切な治療が得られるとは必ずしも言えません。そこで、遠隔医療が役に立ちます。IBMが開発した診療デバイスを利用し、料金は5000円と患者が病院に行くタクシー代とランチ代の値段を想定してつけられています。

①-b)見守りセンサー
兵庫県加古川市
では、ALSOKと連携して市内に見守りセンサーを設置して「見守りサービス」を提供してきましたが、高齢者の認知症を予防する実証実験が2020年7月から9月まで実施されました。この実験では、65歳以上のモニターが「見守りタグ」を携帯し、市が設置した約1500台の見守りカメラセンサーなどを使い、日常的な行動の変化から認知症を予知・検知する仕組みです。また、子どもが安心して登下校や移動ができるようにしています。子どもにBLEタグを携帯させて保護者がアプリから子どもの現在地を把握する仕組みです。

さらに高齢者を街中(家の外)だけでなく、家の中でも安心して見守ることができる取り組みも行われています。

①-c)AIを用いた介護システム
京都府 精華町・木津川市の「スマートけいはんな」では、AIデバイスを高齢者の住宅に在住させ、日常の話し相手や健康相談、薬の服用や食事管理を支援する計画が立てられています。(参考資料

兵庫県神戸市では、高齢者を介護するのではなくデジタルデバイスを使って自立支援を行っています。株式会社ポラリスPanasonic株式会社と連携し、センサーを活用して蓄積されたデータや介護メニューについて学習したAIによるケアプランの作成をし、利用者に生活のアドバイスをします。それによって利用者となる高齢者が自発的に生活を考え、実装することで受動的な介護ではなく高齢者が活き活きとして生活を担保できます

①-d)健康状態のポイント化
千葉県柏市では、住友生命のVitalityと連携し市民の運動機会を活発にさせようとしています。健康を保つには、運動不足の解消が求められます。なので、市民が運動しやすい、身体を使って行動しやすい空間が施策として行われています。Vitalityは、世界17 の国と地域で提供されグローバルに評価を得ている健康増進プログラムであり、 “住友生命「Vitality」”発売が日本初上陸です。アプリで計測された運動量に応じてポイントが付与されるもので、ポイントはがん検診や健康診断でも獲得が可能です。
獲得したポイントは、保険料の割引や様々な特典につながります。さらに柏の葉parkrunという、柏市の公園で5キロを個人のペースで走るイベントを提供し、利用者に運動機会を提供しています。これに参加することで運動量以外にもポイントが加算されます。

①-e)中心部への都市機能の集約
北海道札幌市
では、スマート・プランニングを用いて市民が歩きやすいまちづくりを目指しています。それによって、中心市街地の賑わいを取り戻そうとしています。スマートプランニングについては、モビリティ編でも挙げましたが、個人単位の行動データをもとに、人の動きをシミュレーションし、施策実施の効果を予測した上で、施設配置や空間形成、交通施策を検討する計画手法のことです。効率よくかつ歩行者のニーズに沿った都市計画で、市民と行政のミスマッチをなくせます。(参考資料

②非常時における市民生活の担保

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日本は地震が多く、地震大国と言われますが、近年では豪雨が引き起こす自然災害も増えています。そこで重要になってくるのが、災害による被害をいかに減らせるか、そして未然に災害を防ぐことです。なので、防災と減災の強化が求められます。

②-a)デジタルデータでの被災情報の把握
静岡県熱海市・下田市では3点群データを基に地震対策を進めています。
3点群データとはレーザスキャナ等で取得した3次元座標データで、位置情報と色の要素を持ち再現性に優れた高精度なデータであるため、様々な分野への利活用が期待できます。それを分析し、被災前のデータと被災後のデータを比較することにより迅速な現況把握による早期復旧が見込まれます。(参考資料

②-b)河川水位の観測・予測
静岡県藤枝市ではAIを用いた水位予測によって水害を未然に防ごうとする実証実験を2020年11月まで実施していました。過去の河川水量、河川雨量、天気予報データから水位測定地の水位を予測して情報を可視化し、早期の情報把握と事前の避難準備に役立てる仕組みです。

②-c)除雪作業の自動化・効率化
北海道札幌市
は、スマートスノーと称して除雪の効率化を行う予定です。人流ビッグデータと気象データ、道路幅員データの活用し、歩行者の多い道路から除雪作業を重点的に進められるよう計画をしています。(参考資料

おわりに

以上、Smart LIvingについて述べてきました。理念が市民の生活を対象としているため、Smart Mobilityなどの他の取り組みよりも「いかに市民に利用してもらえるか」が重要になってくることが分かりました。

センサーの導入は市民を見守る一方、監視とも考えられます。市民のプライバシーを守りながら、まちの中での生活をスマートにするには責任と説明責任が必要です。施策を実施する上でその二つに留意していくことがより良いスマートシティ化につながるはずです。次回は、第5回Smart Governanceについて紹介します。お楽しみに!

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