短編物語「夢の中の人」
ふと気づくと、私はどこだか知らない道のまんなかに立っていた。
深い緑色をした歩道橋。うっすらと青みがかった車道。白い鉄骨でできた背の高いビルが立ち並んでた。
なんだか雰囲気のちがうこの場所で、私は落ち着いた表情であたりを見渡していた。
両側にある歩道にたくさんの人がいた。音がとても静かだったので、こんなにたくさんの人がいるのに気づかなかった。
だけど、誰も喋っていないし息をしているのだろうかと思うくらいに、彼らからは鼓動を感じなかった。
風もにおいも感じない。なんだかずっと耳鳴りがしているようだ。あたまが痛い。
耳が詰まるので、耳抜きをしようと思ったが、私は息を吸っていなかった。
あぁ、そういうことか。
私は夢を見ている。
あぁ、そういうことか!
この世界は私がつくったんだ。
そう思うと、なんだか気分が良くなってきた。とても楽しい気持ちがあふれてきていた。
私は歩道を歩いた。色んな人とすれ違ったが交差点の信号待ちをしている年上の男性がいた。
「ねぇ、これは僕の夢だよ!」
『あぁ?何言ってるんだ?』
その横を自転車で通り過ぎる年上の女性がいる。
「これは僕の夢だよ!知ってた?」
『え?あなたの夢ってどういうこと?』
どうやら私の夢の中の人たちは、じぶんたちが私の夢の中の人と気づいていないみたいだ。
あぁ、なんだか退屈だ。
私の作った世界なのに、なぜここにいる人たちはこんなにもつまらないんだろう。
また私は歩道を歩いた。
年下の女性が携帯を見ながら道の横に立っていた。
「ねぇ、この世界は僕の夢なんだよ。」
私は、どうしてわかってくれないんだろうという感情で話しかけた。
『え?あなたの夢?』
「そう、僕の夢。」
『え?それなら・・・』
『わたしってだれ?』
「だれって・・・。名前はなんていうの?」
『え?わたしの名前?わたしの名前って・・・』
『なんだろう』
名前のわからない彼女は悲しそうな顔をしているが、クスリと笑った。
『わたしって本当にあなたの夢の中の人なんだね。だって、わたし』
『じぶんの名前知らないんだもん』
『あなたが起きたらわたし』
『きえちゃうのかな』
「あぁ、うん。ごめん」
なんだが自分が傲慢な人間に思えて、心が痛くなってきた。
『フフッ大丈夫だよ。つぎはわたしの名前も考えてね。』
『じゃあね、バイバイ』
私はめざまし時計の音に気付いた。なんだかいつもよりも耳障りに聞こえる。不満げに体を起こして、音をとめた。
なんだかとても悲しい。私は、自分の世界に入れたことをうれしく思ったけど、私は私の夢の中の人たちに名前を与えていなかった。
自分の世界を優先して優越にひたり、かかわる人を雑にあつかっていたことに気づいた。
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