1/24(月)


青い顔の男

突然のことだった。
「私」が使い古した電気ポットを、たまには、と思ってふきんで拭いていると、注ぎ口から白い煙が出てきた。
もちろん電源コードは外していた。
壊れたかと戦々恐々していると、注ぎ口からおもむろに青い顔の男が出てきた。

まず断っておくが、これは電気ケトルではなく電気ポットで、コンビニのレジの脇とかにある、ボタンを押している間に真下にお湯が出てくるアレだ。まったくおしゃれ要素はなく、実用性に全振りされた湯沸かしポットだ。
そのポットの温度表示の液晶の真裏あたりから、青い顔の男が逆さまに出てきたのだ。顔が青いのは宙吊りの如く上下逆さまだからかもしれなかった。

「よぅ/俺は妖精/レペゼン電気ポット/そっと三回こすればぼっと/願いを叶えに現れ/どんな奇人も/きちんと/偉人に変わる」
青い顔の男は何やらラップらしいことをしていたが、あまりにもリズム感が悪く、文意を受け取るのがやっとだった。
「私」がぽかんと男を見つめていると、今度はリズムを取らずに話し始めた。
「私は何百年と電気ポットの中で、願いを叶えるために待っていた。さあ、三回まで叶えてやるから、なんか言え」
「私」がポットの裏を覗き込むと、『2007年製』と書いてあった。
ため息をひとつついて、「私」は願いを答えた。
「お引き取りください」
青い顔の男は、ちょ、とか言いながら電気ポットの中に消えた。

ほどなくして呼び鈴が鳴ったので出てみると、頼んでおいたリサイクルショップのお兄さんが来たので、「私」は電気ポットを彼に売り渡すと、昨日届いたばかりの電気ケトルでお湯を沸かし始めた。
おしゃれな電気ケトルからは湯気がもくもくと湧いていた。

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