3/13(日)

坂道で智慧の実

『私』が急な坂道を上っていると、頂点が見えたあたりで。上の方に紙袋いっぱいの林檎を抱えている女の人がいた。
気づいた刹那、紙袋の底が抜け、林檎が一斉に坂を下り始めた。

『私』の元に来た数個は難なくキャッチしたが、十個以上は坂を駆け下りていく。
女の人も必死に追いかけるが、靴が動きづらそうだったので、スニーカーを履いた『私』の方がが早かった。

『私』は坂を下りきって、全ての林檎をかき集めて両腕に抱えた頃、女の人も辿り着いた。
「ありがとうございます!」
女の人はひどく恐縮しながら頭を下げた。
「全然、大丈夫ですよ」
『私』もそう返した。
「じゃあ、紙袋ダメになっちゃったんで、そのまま坂の上の家まで持っていってくださる?」
『私』は数秒、逡巡して答える。
「全然、大丈夫です」

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