2/20(日)

無縁バター

家のチャイムがなったので出ていくと、警察が来ていた。
『私』に用があるという。

「先日、通報された人喰い虎の件でお伺いしました」
「ああ、この前の」
「非常に残念なお話ですが、追跡の過程で、あの虎がバターになってしまいまして……」

話はこうだ。
警官隊と猟友会を動員して行われた山狩りの末に見つかった虎は、ある警官から逃げる際に、大きな木の周りをぐるぐると追いかけっこする形になったらしい。
その結果、次第に虎は溶け始め、終にはバターになってしまったという。

「それは残念です」
「つきましては、被疑者脂肪という形で書類送検となりましたので、そのご報告に伺いました」
「なるほど……。ご苦労様でした」
警官と二人、虎を想いしばし黙り込んだ。
静寂を破ったのは、またしても警官だった。
「それで、こちらなのですが」
警官はビン入りのバターを差し出した。
「こちらが、虎だったバターです。虎の方から、ぜひあなたに、と」
『私』はしばしためらったが、やがて受け取った。
「ご足労いただきありがとうございました。頂戴します」

『私』はトーストにバターを塗って食べた。
無縁バターだったのであまり味がしなかった。
しかし、虎の無念を思うと、少しずつ涙が出てきた。
涙の塩分を足すと、こころなしか、優しい味がした気がした。

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