2/3(木)

アメじゃん

夕食の買い物を済ませて家路を急ぐ『私』は、初めて会った近所の子供に呼び止められた。

「ねえ、アメちゃんちょうだい」

どうして『私』が飴を持っていると思ったのかはわからない。テレビで誇張されている大阪のおばちゃんとでも思ったのだろうか。
しかし、『私』は飴を持っていた。
持っているのだから、あげない義理もない。

「ほれ」
と、『私』は鞄に入っていたのど飴を子供にあげた。
有名な薬の名がついた、よく効くのど飴だ。乾燥する時期には手放せない飴だ。
子供は嬉しそうに飴を口に入れたが、すぐに顔をしかめて、噛み砕いた。
「これは飴じゃない!」
「飴だよ。のど飴」
「だって、甘くないもん」
『私』はため息をついた。
「わがままだな」
「だって、子供だもん」
それもそうだ。
仕方なく、買い物袋の中から水飴を出して手渡した。
「ほれ、甘い飴だ」
子供は両手をベタベタにして一パックを食べ尽くすと、こちらを見て言った。
「これ、思ってたんと違う」
「なんで。甘いだろ」
「固くないもん」
「わがままだな」
「だって、子供だもん」

『私』は困った。
仕方がない。
買い物袋の奥から、自分へのご褒美の鮮やかなぐるぐる巻きのロリポップキャンディを取り出し、子供に手渡した。
子供はぺろぺろとキャンディを舐め、四分の一くらいを噛み割った。
「欧米か!」
「日本製だよ」
「そういうことじゃない!」
「じゃあ、どういうのが良かったんだ?」
「普通の、透明なビニールに入った丸いやつ」
「まったくもう、困ったやつだ」
『私』がポロッとこぼすと、子供は見上げて言った。
「だって、子供だもん」
そう言うと、子供はキャンディを片手に走り去って行った。

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