1/26(水)

ずんぐりとむっくり

細々とした用事をひと通り終えた「私」は、東京の地下鉄をわけもなくぐるぐると乗り回していた。
何度目かの乗り換えの時に、たまたま座った席の隣にモグラがいた。

モグラ、と書くと、東京タワーで羽化した怪獣のようだが、サングラスなどかけずに目をしょぼしょぼさせている以外は、普通の茶色いずんぐりむっくりとしたモグラだった。

『ずんぐりむっくり』を、自分の名前を言いながらなにがしかの共同作業を行う二人組だと、子供の頃に誤解していた「私」は、その誤解が解けてから初めて見たモグラのずんぐりむっくりぶりに、なるほど、と得心していた。

「兄ちゃん、どこまでだい?」
いきなりモグラが話しかけてきたので、「私」はこれ以上面倒くさいことにならないように、正直に答えた。
「茗荷谷です」
「奇遇だな、俺も一緒だ」
モグラは背もたれにべったりと身体を預け、両腕を組みながら「私」の顔を見た。
「……モグラが地下鉄乗ってる、とか思ってんだろ」
「思ってないです」
あわてて「私」は否定する。
「モグラなんだから穴掘れ、とか思ってんだろ。本当のこと言っていいぞ」
「思ってました」
「私」は即答すると、モグラはため息をついた。
「まあ、いいよ」モグラはなぜか満足げだった。「けどな、疲れんだよ。穴掘るの。お前だって、二本足で歩けるからって新宿から東京駅まで中央線に乗るだろ」
え、ええ、などと「私」は適当に相槌を打った。
「だからモグラだって地下鉄に乗るんだよ」

それから数駅、「私」はモグラの奥さんからの扱いをずっと聞かされていた。
命あるもの、みんなそういうものなんだろう。
そんなことを思いながら。

茗荷谷駅に着いて、「私」とモグラは別れた。
きっともう会うこともないだろうと思うと、なぜか寂しくなり、「私」はホーム上で丸の内方面へ歩いて行ったモグラの方を振り向いた。

太陽の眩しさにやられたのか、モグラは倒れていた。
「私」は冷静に駅員を呼び、彼に後を任せて改札を出た。

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