見出し画像

「夏目アラタの結婚」に撃ち抜かれた話

最近、Xとかで漫画の広告が入ってくることが多くて時折気になる作品を読むことがあるんですが。その中の一つに表題のタイトル「夏目アラタの結婚」というのがありましてですね。ちょっと気になって読み始めたらもうこれが面白くて。中盤に差し掛かることにはもう止まらなくなってて。終盤の展開はもう見事としか言えない展開で。見事に撃ち抜かれたわけです。致命傷です。
とにかく最終話が素晴らしくて。最終1話前でストーリーはほぼ完結を迎えるのですが、その最後のページを捲って最終話のタイトルが出てきた時の体の震えは久しぶりの感覚でした。


夏目アラタの結婚とは?

ビッグコミックスペリオールにて2019年6月から2024年1月まで連載されていた全106話からなる作品です。著者の乃木坂太郎さんは大ヒット作「医龍」の作家でもあり(原案は永井明さん)、平成から令和を代表する漫画家の代表格の一人になっていくんじゃないかな(もうなってるよ!というツッコミはさておき)と個人的には感じています。

※残念ながら医龍はまだ未読(ドラマはちょっと見た)

※全12巻、恐らく映画の宣伝も兼ねての漫画の広告だったのだと思うのだけど、その御蔭でこのタイミングで出会えた。本当に運が良かった。

ただ、この漫画に激ハマりした私が果たしてどんな漫画に趣味嗜好がある人なのかというのは結構大事な気がしていて、一度漫画のバックボーンを整理しておきたいと思います。興味ない方は次の段落は全飛ばしでOK。

私が漫画遍歴を少し話しておくターン

一応、どんな漫画が好きな人なのかというのを表明しておいたほうがこの先の「夏目アラタの結婚」にどう共感したのか?みたいなところも伝わりやすいのかなと思うので簡単に私が読んできた漫画や好きな漫画の傾向を軽く触れておきたいと思います。興味ない方はこの項は完全飛ばしでOK!(大事なことなので2回言いました)

・小学生 時代(~1990頃)

コロコロコミックを購読。コミックボンボン「やっぱ!アホーガンよ(柴山みのる)」が下品なのとどこか怖い雰囲気を感じていたのがあって敬遠してましたね。同様の理由で「おぼっちゃまくん(小林よしのり)」が苦手でした。週刊少年ジャンプが世の中に溢れていて歩けばジャンプ漫画はどこかで読めた時代でした。

(この頃に読んだ主に好きだった作品) 
・「つるピカハゲ丸」のむらしんぼ
・「あまいぞ!男吾」Moo.念平
・「キン肉マン」ゆでたまご など

・中学生~高校初期 時代(1990~1995頃)

当時アニメ放映されていた「YAWARA!!」にドハマリし、購読紙をコロコロコミックからビックコミックスピリッツへジョブチェンジ。少年誌を通らずいきなり青年誌にランクアップしたのはジャンプがまだ世の中に溢れていたからどこでも読めたという背景もあったかもしれません。また、当時憧れていた女子が漫画をたくさん持っていて毎週のように漫画を貸し借りして読んでいた時代。過去の名作や少女漫画、青年誌など幅広い作品に触れた時代がここ。1日10冊ペースで漫画を読む中学時代でした。

(この頃に読んだ主に好きだった作品)
・「めぞん一刻(高橋留美子)」
・「ドカベン(水島新司)」
・「ぼのぼの(いがらしみきお)」
・「YAWARA!(浦沢直樹)」
・「コージ苑(相原コージ)」
・「りびんぐゲーム(星里もちる)」
・「月下の棋士(能條純一)」 など

あと、私が一番好きな漫画家安達哲先生の作品に出会ったのもこの頃でした。
・「キラキラ!(安達哲)」
・「ホワイトアルバム(安達哲)」
このあたりの作品は当時何度も読みまくって「青春」みたいなものに憧れを抱いたものでした。

天才が女の子と仲良くなる為に芸能科に入り奮闘と苦悩する物語
「キラキラ!(安達哲)」

・高校~大学時代(1995~2010頃)

Windows95が発売し漫画に触れる機会が徐々に減りネットに傾倒してくる時代でした。ドラゴンボールの連載が95年に終わり、スラムダンクの連載も96年に終わり、ジャンプ1強の時代に幕を下ろし始めたのもこの頃だったように記憶しています。私はといえば安達哲先生の強烈な作品たちにまだ酔いしれている時期で、安達作品の匂いのする作品を強く好む傾向にあったように思います。

(この頃に読んだ主に好きだった作品)
・「さくらの唄(安達哲)」
・「バカ姉弟(安達哲)」
・「プラスチック解体高校(日本橋ヨヲコ)」
・「極東学園天国(日本橋ヨヲコ)」
・「DEATH NOTE(大場つぐみ(原作)、小畑健(作画))」
・「極道ステーキ(工藤かずや(原作)、土山しげる(作画))」
・「密・リターンズ!(八神建)」※古い作品ですがこの頃改めて読んで好きだった
・「LIAR GAME(甲斐谷忍)」
・「BLOODY MONDAY(龍門諒(原作)、恵広史(作画))」
・「Fine.(信濃川日出雄)」
・「真・異種格闘大戦(相原コージ)」 など

・大学以降(2010以降)

押見修造さんの作品「漂流ネットカフェ」を読んで以降、追いかけていたのですが、「惡の華」のどことなく暗く鬱屈した青春を描いている感じは、安達哲作品の影をどこか追い求めていた私にとって最高の作品であったと感じたのを覚えています。

(この頃に読んだ主に好きだった作品)
・「バスタブに乗った兄弟~地球水没記~(櫻井稔文)」
・「惡の華(押見修造)」
・「漂流ネットカフェ(押見修造)」
・「志乃ちゃんは自分の名前が言えない(押見修造)」
・「少女ファイト(日本橋ヨヲコ)」
・「メダリスト(つるまいかだ)」
・「ドンケツ(たーし)」 など

それぞれの形で自我を見つけていく物語
「惡の華」

夏目アラタの結婚とはどんなお話?

さて、話を「夏目アラタの結婚」に戻したいと思います。「夏目アラタの結婚」には二人の重要人物がいます。一人はタイトルにもある主人公夏目アラタ。児童相談所に務める公務員という設定。そしてもう一人が品川真珠。3人を殺して死体をバラバラに解体して隠したという連続殺人事件の被疑者の女性。この品川真珠(ピエロの扮装をしていたことから品川ピエロとも呼ばれる)がバラバラに隠した死体の部位が果たしてどこにあるのか?そしてこの殺人事件はいかにして起こったのか??がストーリーの軸でこの物語は走り始めます。

遺体をバラバラに解体して隠した連続殺人犯

主人公夏目アラタがとあるきっかけからこの品川真珠に会いに行くことになるのですが、そこに現れたのは事前に報されていた歯並びの悪い太ったピエロのイメージとはかけ離れた、童顔で痩せ型、どちらかといえば華奢な女性だったのです。

品川真珠初登場シーン

かくして、夏目アラタ品川真珠から話を聞き出すために「結婚」を持ち出し、稀代の殺人鬼とのコミュニケーションに入っていき・・・そして二人の会話劇が始まる、というようなストーリーなのですが。

品川真珠が魅力的すぎる!

そのストーリーの重厚さや会話の中での駆け引きがめちゃくちゃ面白く、1コマ1コマ見逃せないお話に仕上がっているのですが、何よりこの作品の中に生きているキャラクターたちの一人ひとりが魅力的であるということがこの作品を愛してやまない理由の一つです。

中でも殺人犯「品川真珠」の魅力は群を抜いています。その知能の高さ、人との関係値によっても少しずつ変わるその多彩な表情。一言一言の虚実が有耶無耶な危うさ。ひとつひとつ物語のピースが加わってくるとそんな彼女を構成している複雑な心の中がどうなっているのかが整理されていき、その行動の理由が明らかになっていきます。

実に表情が多彩な品川真珠

物語上では夏目アラタがこの連続殺人の真相に迫るべく行動をしていくわけなんですが。彼女から発せられるメッセージを丁寧に拾い、事件の真相に少しずつ迫っていく中でエキセントリックな彼女の言動に振り回されつつも、時折見せる子供のような純粋(のようにみえる)な眼差しや彼女が背負う哀愁のようなものに徐々に惹かれていきます。そう、徐々にこの品川真珠という女性の魅力に取り憑かれていくわけです。

無感情と感情を使いこなし、他人を翻弄する

夏目アラタのフィルターを通じ、我々読者も彼女の数奇な生い立ちや、それに立ち向かう彼女の強さと、そして弱さ。自分とは何者なのかを幼少期から問い続けなければならなかった彼女の境遇を少しずつ知ることになります。それを知れば知るほど、読者にもまた、この品川真珠の毒が体に廻ってくるのです。

エキセントリックなヒロインの魅力

男性なら共感してもらえる人少なくないと思うんですが、エキセントリックなヒロインって魅力的ですよね。破天荒だったり、芸術性に飛んでたり、そういうヒロインに魅了されます。そしてそのエキセントリックさを生んでいるコアな部分が闇深ければ闇深いほど、その魅力は増します。環境が故にそうならざるを得なかったというか、その才能が故に現実にぶつかるというか。現実と己とのギャップ(格差)に悩むからこそ態度や言動に乱雑さのようなものがでるわけです。なのですべからくそういったキャラクターは皆、頭が良いです。バカだったら悩まないし、バックボーンのないエキセントリックもそれはただのバカなので。

そしてこの品川真珠ですよ。とにかくめちゃくちゃ頭が良い。育児放棄気味の母子家庭で生まれた品川真珠は小2の冬に保護され施設に入れられるわけですが、その際のテストでは標準的と言われていたIQが逮捕時の精神鑑定では幼少期よりも30以上高くなっていたという謎がひとつあるわけです。確かに夏目アラタとの面会室での会話の節々一つとってもその知性は際立つものがあり多くの大人を翻弄します。

しかしながらその頭の良さは一体どこからくるものなのか?そして彼女が時折見せる感情や表情の豊かさは一体なんなのか?それらがひとつひとつめくれていくたびに、この品川真珠というキャラクターを愛さずにはいられなくなるのです。

こんな表情まで持ち合わせる

キャラクター一人一人に対する愛

ここまで熱く品川真珠への愛情を語るとそれだけに見られてしまいそうですが、この作品のいいところは細部に出演するキャラクター一人一人の個性もしっかりと描かれているというところです。基本は夏目アラタ品川真珠の二人のやりとりで話は進行していくのですが、その周辺に登場するサブキャラクターたちの個性も本当に見逃せません。

死刑囚アイテムコレクターの藤田さん

私が特に印象的だったのは死刑囚アイテムコレクターの藤田さんですね。夏目アラタが留置所に面会に行くときに出会い、以降裁判のシーンでは度々会うことになるわけです。藤田さんは超有名殺人犯品川ピエロのアイテムを奪取すべく、夏目アラタと接触を図ってくるというキャラクターなのですが。中盤から終盤に掛けて藤田さんの動きやその彼がこの物語で最後に迎えるシーンはまさかこんな展開になろうとはと驚きや感動をなしには読み進めることが出来ません。一番好きなキャラクターかもしれません。あ、品川真珠好きの概念を通り越しているので好きなキャラからは除外されてます。

もちろん他にも夏目アラタの職場の同僚、上司、品川真珠に殺害された被害者の家族たち、担当弁護士、裁判長、検事、挙げたらキリがありませんが、それぞれのキャラクターの生き様や見せ場がこれでもかというくらい用意されており、一人ひとりのキャラクターが躍動しています。

最終巻、品川ピエロ事件を担当する桜井検事も最高にかっこよかった。

終わりの素晴らしさ

冒頭にも書きましたが最終話に向けての1話1話の収束が本当に凄まじく、そこまでも感動しながら読み進めているのですが、最終話のタイトルが出てきたときの鳥肌の立ち方はなかったです。頭の中が真っ白になって、動けなくなるくらい、それくらいのパンチが私にはありました。もはやこれは詩(うた)です。タイトルだけで打ちのめされたのは本当に衝撃的でもちろんストーリーもそれに違わず最高の最終話だったのですが、これ以上何があろうという最終話でした。

張り巡らせた全てが集約してキレイに終わっていく

夏目アラタという男の結婚のストーリーは果たしてどのような結末を迎えるのか。漫画好きな人は読んでみてほしいし、読んだ人と2時間位語り合いたいと思える作品です。

私の話だけでは信じられない人へ

と、ここまでふんわりとした感想をただただ熱量だけで書きなぐってきたわけですが、どうしてもサスペンス的な要素があるのでネタバレなことはあまり触れられず、じゃあこの話の一体何がいいねん!?みたいなことをお思いになられていると思います。

もう、ここまで文章読んでくれたなら付き合うと思って一度読んでみてよ。

もちろん人によって合う合わないはあるというのは理解しています。特に漫画はストーリーだけじゃなくて絵柄が好きとかそういう複合的な要素があるので人によって好みが結構分かれるわけなので。

でもね!最終12巻のAmazonさんのカスタマーレビューが現在4.9点。その他の巻も2024年9月25日現在で概ね4.8点を出しています。そしてそのレビューを読んでもらえたらどれだけの人の心の琴線に触れている作品かがわかると思います。

テキストレビューは一部ネタバレもあるので最初に読んでからレビューを見てほしい!

この作品は後世に残したほうがいい。直感的にそれを感じるので是非漫画が好きだという皆様には読んでみてほしいし、漫画をあまり読まないという人もコレだったら勧められると思うし、世界中が品川真珠の虜になってほしいと説に願うわけです。

12冊セットで購入しても1万円でお釣りが来ます。是非一度ご覧いただけましたら嬉しいです。

最後に、この作品を世に生み出してくれた作者の乃木坂太郎さん、そしてスタッフの皆さん、出版社の方、全てに感謝します。

私は人生の中であと何度このクラスの作品と出会うことが出来るのだろうか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?