シンプルだからこそ、手になじむ文房具(尚貴堂さん)
こんにちは。
今回は本革の文房具メーカーである「尚貴堂(しょうきどう)」の大橋尚貴(おおはしなおたか)さんにお話を伺いました。
大橋さんの、熱い想いに、思わずあれもこれも聞いてしまいました。
自分が欲しいと思ったものを作ることに情熱を捧げる、大橋さんの生活をご紹介します。
1.「尚貴堂」は、見た目以上の機能性
「尚貴堂」は全てを一人で行っている、文房具メーカーです。
本革を使った作品を作っており、インターネット(Amazon、BASE)かイベントで買うことができます。
現在の主力商品3つをご紹介します。
◆テピシ
システム手帳用の厚手のマグネット着脱式下敷きです。
システム手帳は、リングや段差が邪魔をして書きにくい…と思っている人も多いはず。
厚手の本革の下敷き「テピシ」を使えば、スムーズに書くことが可能です。
強力なマグネットで着脱をしているので、右・左関係なく利用できます。
システム手帳が好きだけど書きやすさはちょっと…と思っているユーザーの力になれる商品です。
実際の書き味は下記の動画からどうぞ。
<テピシ>
ミニ6サイズ 2800円
バイブルサイズ 3800円
A5サイズ 5800円
※色はブラック
※時期によっては限定色が出る場合もあり
◆ツヴァイ
ペンシースというものをご存知でしょうか。
万年筆をしっかり守るための丈夫なケースです。
1本ずつ入れるぴったりしたものが多く、取り出すのが大変なようです。
「ツヴァイ」は万年筆をしっかり保護しながらも、机や膝などでワンクリックするだけで万年筆が取り出せます。
2本同時に入れられるのも嬉しいところ。
複数万年筆を持ち歩けて、しっかりと外部の摩擦や衝撃から守れます。
万年筆を持ち運んで使うのが、もっと楽しくなる商品です。
<ツヴァイ>
4300円
※色はブラック、キャメル、レッド、ターコイズブルー、ブルー
※時期によっては限定色が出る場合もあり
◆リヒト
ICカードの複数持ちに適したパスケースです。
手軽に開閉できることによって、重ねるとエラーが起きてしまうICカードの問題を解決しました。
パスケースを開けたまま改札でタッチすると、ICカードが重ならずスムーズに通過できます。
もちろんICカードとクレジットカードの組合せでも対応可能。
裏には深いポケットがあるので、大切な運転免許所や健康保険証を入れることもできます。
ICカードを2枚使っている人や、色んなカードを同時に持って荷物を少なくしたい人にぴったりの商品です。
<リヒト>
7800円
※色はブラック、ブラウン
※時期によっては限定色が出る場合もあり
どの作品も、見た目はシンプルですが、見た目以上に計算された使いやすさと機能性が魅力です。
それは、試作を重ねた成果によって産まれたものだからです。
2.リヒトを使ってみた。
リヒトを購入したので、使い心地をご紹介します。
女性でも手のひらに収まるサイズで使いやすいのが嬉しいです。
人差し指で、ぱかっ。
取っ手に板などが入っていないので、開く時も本革のハリ感を楽しめます。
皮の厚みのみでパカパカ開閉ができるように、縫い目や皮の硬さが緻密に計算されているそう。
タッチするのが楽しく感じられます。
シンプルだからこそ、軽くて、丈夫で、手になじむ。
自分用にもいいけれど、人への贈り物にもぴったりな上品さです。
3.よりしっくりくる使い心地を求めて
新しい作品のアイディアは常に考えているという大橋さん。
その根源には、より使いやすいものを作りたいという想いがありました。
書き心地の良いペンの一つにジェットストリームという商品があります。100均のペンでもジェットストリームでも、物を書くという点では一緒ですよね。
書き味が普通でも、物が書けるという最低限の性能さへ満たしていれば、成果はそんなに変わらないと思います。
しかし、日本の文房具業界は毎年良いスペックの商品が沢山出ています。
つい、良い性能を求めちゃうんでしょうね。
そう語る大橋さんも、「つい、良い性能を求めちゃう」人の一人です。
僕が作る文房具は、もともとあった文房具の悩みを解決するために考えた作品です。
僕の考えた作品を使ってもらって、文房具…例えば万年筆や、システム手帳をもっと好きになってもらえるといいですね。
より使い心地のいい文房具を作るにはどうすればいいか、日々考えています。
リヒトを使ったときに感じたしっくり感は、大橋さんの探求心の賜物でした。
4.革のメーカーを選んだワケ
↑エイジング前
↑エイジング後
文房具の中でも、なぜ革の文房具を選んだのか、大橋さんに聞きました。
革を選んだ理由は大きく2つあります。
ひとつは、革小物が純粋に好きだったこと。
プラスチックなどほとんどの製品はお店で買った時が完成品で一番良い状態で、そこから劣化していくだけです。
対して、革は使えば使うほど成長していきます。
長年使うと艶が増して、色味も深まって、自分にしっかりと馴染んでいきます。
革製品のそういう所が好きで、身のまわりのモノに革小物を取り入れていたのがひとつめの理由です。
↑エイジング前
↑エイジング後
写真のように、本革の小物は、使えば使うほど手に馴染み、艶と風合いの深みが増します。
使えば使うほど成長する過程を楽しむことは、自然の素材ならではです。
ふたつめは、革小物が作りやすかったのが理由です。
高校生の頃レザーキーホルダーなどを作っていて、制作の過程が分かっていたのがきっかけになりました。
文房具メーカーになるために学生の頃から下準備をしていて、山ほど試作品やアイディアはありますね。
「尚貴堂」さんの作品は、全て制作過程は外注です。
「テピシ」と「リヒト」はミシン縫い、「ツヴァイ」は手縫いでそれぞれ革職人さんに頼んで作ってもらっています。
外注との相性がいいのも、革製品のメーカーを選んだ理由のひとつです。
外注をすると、最小ロットという、最低の発注単位で注文をします。
プラスチック製品だと、金型から作らなければいけないので、1000個といった膨大な数を1回で発注しなければいけないんですね。
それに対して、革小物は「牛一頭から丸々使い切れる分」が最小ロットになることが多いので、大きい鞄だったら2個からでも、小物だったら10個からでも、発注ができます。
大橋さんは、革を始めとした材料を革職人さんにお届けして、作品を作っていただいています。
「革が好きだから、革製品を扱う人も増えて欲しい」
にこにこと語る大橋さんから、革が大変好きな気持ちが伝わってきました。
5.喜びは、イベントにて
「尚貴堂」さんの文房具の販売は、インターネットが主力ですが、今年はイベントにも力をいれていきます。
平均して月2回、イベントに出展していく予定です。
有難いことに、イベントで商品の説明をすると、「それ分かるーー!!」と言ってもらえることも多くて。
自分が本当に困っていたことを解決して出来たものですが、他の方にも共感して頂けるのがとっても嬉しいです。
イベントの出展では、アイディアだけではなく、感性の面で共感してもらえることも多いそう。
僕は、青緑色が好きで、青緑色の商品を出していたり、青緑同盟という青緑愛好者のグループを作っています。
「青緑色、わたしも好きです!」と言って頂けることが多くて。
同じ感性を共有できるのも大変活力になります。
イベントの情報はtwitterかHPから確認できます。
下記の「◆まとめ」にリンクを貼っておくので、ぜひご覧になってみて下さい。
6.青緑沼は万年筆から
色々な万年筆を買うものの、これだ!というものとはなかなか出会えなかった大橋さん。
ついに2・3年前に、運命の出会いを果たします。
ペリカンの限定色。M205 アクアマリン。
見た瞬間にビビッと感じるものがあり、即購入しました。
このM205 アクアマリンを購入したことがきっかけで、青緑色の文房具を集める幸せを知ったそう。
今では筆記用具も青色のものばかり揃えてしまいます。
そして、一番好きな青緑にフォーカスした「青緑同盟」を作ります。
twitterで青緑好きと交流するうちに、「青緑」と言っても色々な好みがあることに気づいたそう。
暗めの沈んだ色が好きだったり、ティファニーブルーのような鮮やかな色が好きだったり。
たくさんの青緑があることを知ったことをきっかけに、青緑同盟ではたくさんの色合いの缶バッチを販売しています。
側面には小さな文字で、#から始まるwebカラーと、CMYK、RGBのそれぞれの値が書いてあります。
自分でお気に入りの缶バッチの色を再現できるのが嬉しいですね。
7.青緑色と本革への情熱
せっかくなので、青緑色の本革のお話を聞いてみました。
青緑色は、革の色として発色が難しい色なのだそう。
皮を腐らず長く使えるように加工する工程を「なめし」といいます。
なめしには「タンニンなめし」と「クロムなめし」の二種類があります。
タンニンなめしは、植物の渋を使ってなめす伝統手法です。
時間も手間もかかるため、現在は少なくなっています。
本革を使い込むごとに変化を遂げる(エイジングといいます)のは、実はこのタンニンなめしの手法ならではです。
対してクロムなめしは、石油由来のクロム金属を使ってなめす手法で、伸縮性もあり、傷や変形に強く仕上がります。
ただし、革が育っていく様子を楽しむことはできません。
「尚貴堂」では、
パスケースの「リヒト」はタンニンなめしのルガト
ペンシースの「ツヴァイ」はタンニンなめしのティーポ
システム手帳用下敷きの「テピシ」はコンビなめし(クロムとタンニン両方使用)のモンタナを使っています。
どの作品も、エイジングを楽しめるように選んでいます。
色を入れる染色の段階では、「染色仕上げ」と「顔料仕上げ」があります。
顔料仕上げは、革の表面に色を塗るような手法です。
手間や時間、技術面の関係から、日本の商品の9割が顔料仕上げだと言われています。
しかし、顔料仕上げは、顔料で表面を覆ってしまいます。
そのため、艶が増したり色が変化したりという革の風合いの変化は楽しめません。
タンニンでなめした革は革の成長を楽しむために、基本的に染色仕上げの手法をとっています。
染色仕上げは、革を染料につけこんで、革の奥にまで染料を浸透させる方法です。
時間も手間もかかかり、均一に染めるのが難しく、技術が必要です。
染料仕上げされた革は、革本来の風合いが残ります。
また、革が呼吸をできるため、放湿、吸湿に優れています。
さらに、美しいエイジングを遂げるのは、染色染めが持つ魅力です。
手間がかかる分、希少だけれども、革本来の風合いの変化が楽しめる手法です。
「尚貴堂」では、どの作品も染色染めの本革を使用しています。
染色染めは、牛の皮の肌色に色を染み込ませるので、牛の肌の色合いによって、色の出方も変わってきます。
特に、青系の寒色は、色が入りにくく個体ごとに変化が出やすい色だと言います。
量産して販売するには向いていない色が、青緑色なのです。
暖色の肌色の革に寒色の青色を重ねると、色がにごりやすくなります。
きれいな発色の青緑色を作るのは難しく、革メーカーさんはなかなか作りたがらない色です。
ただでさえ少ない染色染めの革。
さらに、きれいな青緑色の革は希少でなかなか見つからないもの。
満足のいく青緑色の革と出会うため、大橋さんは、全国各地を探し歩いて好みの色を探し求めます。
浅草の革屋さんはよく行くスポットのようです。
革と青緑への情熱が、他では真似ができない作品を産み出しています。
◆まとめ
「尚貴堂」さんの革の文房具は、革と文房具への情熱がつまっています。
全国各地を探し歩いて見つけ出した革を使って、自分が使いたいと思った作品を作る。
自分にぴったり来る道具を作っている時間が幸せとのことです。
大橋さんは取材中、笑顔が絶えず楽しそうにたくさんのことをお話してくれました。
それは、大橋さんがこの仕事を心の底から楽しんでいて、常にわくわくしているから。
革小物の良さと、お気に入りの文房具を使うことがもっと好きになる、「尚貴堂」さんの作品を、ぜひ一度ご覧ください。
最後に、重大ニュース!!
「尚貴堂」さんは、2019年の6月から月に1作品ずつ、新作を発表する予定です!
第一弾はこちら。口にマグネットを仕込むことで万年筆の落下を防ぎます。さらにクッション性がアップした、「ツヴァイⅡ」です。
第二弾はこちら。タミヤ瓶を、最高にテンションが上がる方法で収納できる、「INK BOOK」。木製なのも素晴らしいです。
さらに、インクの情報も!
青色好きが考えた、青色好きのためのインクです。
それぞれ海にまつわる都市や島の名前がついていて、イメージが広がります。
まるで本物のはちみつのような、はちみついんく。
「アカシア」「レンゲ」「ボダイジュ」があります。どれも素敵すぎる。
はちみつの香り付きで、三種類とも香りが異なるよう。
透明な万年筆に入れると、キラキラとして綺麗です。
◆twitterなどで情報チェック
◆通販はこちら:BASE
※BASEの方が商品が充実しています
◆通販はこちら:amazon
※amazonは品薄な時もあります
◆HPには他にもいろんな情報が盛りだくさんです
ありがとうのご挨拶
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
このように「自分の想いがこもったモノをつくっている人」のストーリーを不定期に紹介します。
また、自分の話も記事にしてほしい!この人のお話が聞きたい!というご依頼があれば、コメントかtwitterのDMからお声がけください。
有形、無形問いません。基本的にわくわくすればOK!
(画家さんや、小説家さん、舞台で活動する脚本家や演出家や役者さんなどのお話なども聞きたいなと、思っております!)
ご依頼お待ちしております。
お問い合わせ:teshigoto.athene@gmail.com
又はtwitterのDM
最後に、大橋さんが初心者におすすめする万年筆と、参考にしたHPをご紹介します。
◆大橋さんおすすめ、初心者向け万年筆
パイロット 万年筆「カクノ」
書き味も良く、価格も1000円+税と万年筆を始めるのにお手頃な商品です。
◆参考HP
それでは、ありがとうございました。
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ありがとうございます。