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ただ友達になりたかった(1/3)【feat.メガネくん】



 男女間の友情は成立するか。不毛だと分かっていて尚、そんな問いを何度でも繰り返す。
 どうこねくり回した所で正当化、言い訳に過ぎないのではないか。そんな後ろめたさは、完全に白と言い切れないがため。「そもそも自分と異なる要素で構成された相手に共感、影響し合うことで変わらない色なんてあるはずないじゃないか」と言いたくても、実際に胸を切り開いても分からない以上、指差されて「ギルティ」と言われたらおしまいなのだ。その感覚自体は健全な社会を維持するために必要なのかもしれない。ただ、感性を殺しにかかるそんな漂白された社会に息苦しさを覚えた所で、その他諸々によって生かされている以上、この首輪は外せない。甘んじて三つ指をつく。莞爾。

 オリエンタルラジオの藤森と福田萌さんが、相方であり、旦那である中田について話していたのがすごく印象的だったので書き残す。
「これまとめると、中田敦彦が異常なんじゃなくて、我々が異常なんですよ」
「いやあすごく良き共感者と理解者が現れたわ」
 中田のあっちゃんのYouTube大学が面白くて最近よく見ているのだけれど、その近くにいる人達の話。相方だから知っていること。奥さんだから見せる顔。同じ対象を別の角度から見つめて話す。その楽しそうなこと。
 振り回されるし傷つくし、もういっそ捨ててしまいたいと思うこともある。けど、根っこは好き。代えがきかない。次に同じ深さのものに出会えるという保証はない。深みにハマればハマる程進むマイノリティ化。だからこそ深海数百メートルで笑い合える二人は既に特別。これは対象が中田敦彦なだけで、同じものを愛でる行為は、何を間に置いても成立する。実に楽しそうに話しをする。分かる、と言って叩く手。
 言語化。体内にあったけど、形を成さなかった思い。自分ではない誰かに言い当てられる感覚は、占いで「あなたはこうですね」「何で分かるんですか」のやりとりに似ている。理解者。その深みは確実に心を豊かにする。さらに、その深みは能動で成長する以上、現在進行形で今も尚深度を増していく。ただでさえ狭い共感の入り口、加えて深度。深まる程に孤独になっていく。そんな時隣に誰かを見つけること。この楽しさを、苦しさを分かってくれる相手がいたとして、そこに発生する結びつきは決して第三者には分からない。分かってたまるか、とさえ思える。



なくても読めるけどあるともうちょっと楽しめる前提↓




 2月下旬。テニススクールにて。ふと前のクラスの女子高生がそろそろ卒業という時期で、久しぶりに前のクラスに顔を出す。元々この日祝日で、昼の時間帯のクラスが全埋まりだったのと、買ったばかりのシューズをすぐにでも使いたかったのも関係していた。クラスを移って半年。ごくたまに代理で顔を合わせていたコーチは「あれ、いる」という、まるで先週会ったばかりのテンションでこっちを見た。そうしてその時まで全くもって忘れていた。
 その姿を目にした瞬間、そうだった、と両手に抱えていた箱をぶちまけるようにして思い出す。開始10分前、そこには変わらずストレッチをしているメガネくんがいた。

 アップ、打ちっぱなしのサーブ練習を終えて、サーブからのクロス半面勝負。勝負と言うからには制限があり「リターン側のみ各々点を持ち、5点取られたらサーブ側に回」る。点をなくしてサーブ側に戻ってきた人の分だけ、交代でサーブ側にいた人がリターンに回るのだ。
 いつまでも続くかに思えたラリー。メガネくんと打つのも実に半年ぶりだった。私がサーブ、メガネくんがリターン。再会。それは勝負と名のつく状況下。
1st、相手フォアサイド。リターンは私にとって丁度いい打点に返って来た。インパクト。グリップの切り替えで若干戻し過ぎた分、球足が短くなる。サービスラインでバウンドしたボール。ベースラインを想定した強打は、元々フラット。低い打点で打ち返されたボールはこっちのベースラインを割った。
 アドサイド。1stを回り込んでフォアで返される。こっちのバックに低い弾道の打球。この高さのボールは得意。ドンピシャ。ネットすれすれを抜けたボールは、相手のバックハンド。ボールはネットにかかった。

 その後、私自身リターンに回ってしばらく。今日はやけに長いな、と思うと同時にメガネくんに「あと何点ですか?」と聞いてみる。メガネくんはいつになくピリッとした空気で「3」と答えた。驚く。通常「あ、3点」と言う所だ。全くもってカオ●シ感ゼロ。集中し切っていた。交代でコートに入る。グリップがじわりと滲んだ。
 ウソでしょ、と思う。
 リターンは3人、計7人。既に前2人はサーブに戻って久しい。前の人達だってストレートで5点失っている訳ではない。感覚として15回、いや、20回弱対戦して2点しか失っていない計算になる。メガネくんは淡々と自分のテニスをしていた。足元に残る打球痕。ボールひとつ分広いコートを守る男は、まるで輪郭を変えない。それは可視化した異常だった。タイムキーパーも兼ねているコーチが「メガネくんあと何点?」とサーブ側から尋ねた。
 その後、30にも届くかと思った防衛記録がようやく途切れる頃、私のライフは残り1だった。逆クロス。ようやくネットを挟んで向かい合う。メガネくんのサーブ。リターン後の一打。ゆるく高めの弾道をバックハンドに。うまく押し返せない。ボールはこっちのネットにかかった。コーチが「もう時間ないから、ちょっと早めだけどゲームにしよう」と言った。







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