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わり、好きになっちった(『KICKBACK』米津玄師)


「Aマイナーは進藤ヒカル、Bマイナーは塔矢アキラだよ」と旦那に言ったら「分からん」と言われた。じゃあ、と例えを追加する。
「『可愛くてごめん』がAマイナーで、『アイドル』がBマイナー」
「『夜空ノムコウ』の中居、稲垣、香取、草彅がAマイナーで、キムタクがBマイナー」
 やっぱり「分からん」と言われた。感性死んどるんかと思った。


 始まりは超学生だった。ウソ。
 なんか流行りのボカロ集めたやつを作業用BGMとして使ってたら耳に残る曲があって、それが『over dose』で、そのテンポと脱力感が好きでしばらく聴いていた。中でも超学生の歌うものが好きで、きっとそこから勝手に超学生シリーズが自動再生されてったんでしょうね。昨年秋に流行ったという『KICKBACK』に当たる。これが今の私にすごくフィットした。この疾走感が気持ちいい。
 あまりの気持ちよさに誰の楽曲か検索をかけると、さすが。米津玄師(敬称略)。「いい曲」からの米津。これが本物なんでしょうね。編曲、King Gnu常田(敬称略)。おお。純愛砲でお馴染みの『逆夢』こちらも作業用で延々聴かせてもらいました。
 楽曲考察を覗けば、1997年舞台が出てくる漫画本編に合わせて、同年デビューのモー娘。の楽曲の一部を拝借しているというもの。考察自体もすごいが、そこまで配慮していること自体にも感動した。やっぱり本物は本物たらしめるバックボーンがあるのだ。

 そんな楽曲の母体である漫画本作はさぞかし面白いのだろうと、続けて『チェンソーマン』に向かう。まず作品の概要から。
〈女を抱くことは高望みとして、胸を揉むことを目標に頑張る野郎が云々〉
 マジかよ。だいぶ振り切った設定は、何かあれば「セクハラ」「パワハラ」で無害を強要される男性の(割と本気の)抵抗だろうか。いや、それにしても乳揉ましてもらえる関係なら抱けんだろとは思ったが、違った。そうじゃない。なるほど「責任」は負いたくない模様。ギブアンドテイク。あくまで利害関係の一環であって、それ以上踏み込まない。ネット上にメインの自分を置く若者の姿が投影されるかのようだ。別に「下らな」くなんかないよ。少なくともアニメ化されるくらいには需要はある。


 さて、一周回って戻ってくる。最近のオススメ機能はすごいね。やっと冒頭に戻るのだが、「絶対音感を持つ人がキーボードで『KICKBACK』を弾く」というのに辿り着く。そこでAマイナーBマイナーの話が出たのだ。

これな



 これがめちゃくちゃ面白い。やりとり自体も面白いし、言葉選びも、本家へのリスペクトも実に私好みだ。ただ「いい!」と言っても伝わらないが、こうして「どこがいいのか」「何がいいのか」解説を挟んでくれることで得られる気づきがある。胸踊る「好き」の正体を知ることができる。言われてみれば確かにバックにこんな音聞こえてた、とか、感覚としてそんな感じ、とか。

 感性、である。
 音を聞いて、曲調から雰囲気、風景を想像するように「それ」は媒体になる。
 表現は自分の気持ちを形を変えて発散させたもの。曲でも絵でも文字でも何でもいい。受けた刺激を変換する。受け手の感性にもよる以上、まあ実際思い通りに伝わらないことも多いのかもしれないが、「影響力」という、本体そのものが持ち得るエネルギーは何ものにも代え難い。良くも悪くも、そこで波立つかが決まる。

『KICKBACK』という楽曲の持つエネルギー。超学生が音に込めたエネルギー。『チェンソーマン』を生み出したエネルギー。そして「カッケエ!」と楽しそうに楽曲を分解していくエネルギー。どれも人を動かし得たもの。

 最近の作品は入り口がどこか分からないものが多い。私自身、以前も同じように歌から入ったことがある。『ブルーピリオド』だ。間口が広いのはいい。芋蔓式に全体が潤う。

 作品理解。
 能動的共感。

「絶対音感の友達に『KICKBACK』初見で弾かせたら〜」個人的には冒頭のだべりと「タイムマシーン」の解説してるところがお気に入り。是非一度見てみて欲しい。

 実はこれ、書こうと思ったきっかけは「肺の音聞くために服あげてもらったちびっ子の患者さん(男)の胸に『チェンソーマン』の引っ張るやつがマジックで描いてあって、思わず笑ってしまった」からで、何かを好きになったりハマったり生み出したりするきっかけなんてどこにでもあるんだなと思った。

 そんな些細なことから生まれたこの2000字もまた、この作品のどこかにひょいと引っかかるといい。






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