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第一夜-お告げ

日常に軽い絶望と、それさえも形骸化させる惰性を抱えて生きている。

そんな時たまたま、あまり話した事の無い同僚と、帰り道が一緒になった。

彼女は「ありがとう」を一日千回言うと、運が開けるとか言うけれど、ウチら、毎日仕事で死ぬほど言ってるのに、開運した覚えなんかないよね、とか仕事の愚痴を面白おかしく話した。

面白い人だった。
こんなに面白い人なら、前からもっと話せば良かった。

「カルマなんじゃないのぉ? 前世で悪い事したせいとか。あと、魂のステージが低いとか若いとか、前にテレビでよくやってたの見たわ」

私が思いつきの戯言を言うと、彼女はやけに澄んだ目をして、ただ口元はにやりと笑って言った。

「カルマなんて無いよー。魂にはステージなんて無いし、年齢も無いよ。魂はね、みんな平等。って言うより、みんな均一なの。対等なのよ」

え? っと思って問いただそうとしたら道が分かれて、彼女は、お疲れ様と手を振って、私と別方向にどんどん行ってしまった。

その後、彼女とはシフトが合わず、ゆっくり話す機会が無いままだったが、ある日、他のスタッフから急に辞めたらしいと噂を聞いた。

連絡先も聞いていなかったので、結局彼女と私的な話をしたのは、その時が最初で最後になったわけだが、あの時彼女が言った「魂は対等」と言う言葉と、その夜、空にかかっていた中途半端な半月が忘れられない。

そして、人間関係で挫けそうになった時、その時の彼女の言葉が、小さなつっかい棒のように私を支えてくれている。

彼女に「ありがとう」なんて言ったら、きっと渋い顔をして笑うだろうけれど。


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葉山ユタ 掌編小説集「十三夜」より抜粋
まとめてお読みになりたい方は、こちらをどうぞ。http://p.booklog.jp/book/17290
http://hayamayuta.wook.jp/detail.html?id=214512

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