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米国VCがESGを重要視する理由、スタートアップ3社の実例ーPlanA、canvas、vaayu

こんにちは、サイバーエージェントで藤田ファンドを担当している坡山 里帆です。特定のサービスやトレンドについて「20代女性」の視点から発信してみようと思いnoteを書いています。
今回は、「米国VCが推奨するアーリステージのスタートアップ自体がESGに取組む事の重要性」と「海外のESGソリューションを提供しているスタートアップ3社」を紹介していけたらと思います。そもそもSDGs/ESGの背景から知りたいという方は、前回書いたnoteをぜひご覧ください。

そこで今回はESG領域で先進的な取り組みを行なっているVC及びスタートアップについて調べたので簡単にですが書いてみます。
<読了までにかかる時間:7分程度>

もし読んでくれた方で、「この企業の取り組みがおもしろいよ!」など共有してくださる方は是非Twitterでお気軽にDM(@hayamaritter)やメンションをして下さい。



海外VCのESGに関する取り組み

海外VCがどうESGに対応しているかについて調べていく中で、500 StartupsがESGの取り組みを投資判断にも取り入れ、かつ積極的に投資先へ勧めていることがわかったのでご紹介したいと思います。

■500startups
2010年に設立された500startupsは、アーリーステージのスタートアップへ投資を行うサンフランシスコのVCです。彼らは経営におけるリスク回避の観点から、スタートアップがESGに取り組むための入門書を自社のHPで公開しています。

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入門書には、なぜ「アーリーなスタートアップがESGに取り組まなければならないのか?」という疑問に対する答えをデータに基づいて解説している章や、「ESGって実際に何から取り組めばいいのか?」という方法について書かれた章なども含まれています。

さらにESG Annual Report(2020)も発行しており、投資分析・意思決定・ポートフォリオ管理のプロセスに同VCがいかにESGの観点を取り込んでいるか、ESGの各項目における投資先の現状はどうか、2021年に特に重要視されるテーマが何かなどについて記載されています。

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レポートを参考にすると、初期段階のスタートアップは、無数の経営上の課題に直面しており、自社が環境に与える影響や社会的意義などを考える事は最優先事項ではないかもしれません。しかし、倫理的で持続可能性のあるビジネスモデルや企業を消費者が支持する傾向が強まっています。そのため経営初期からESG基準を重視した行動を積み重ねることが、将来的に競合優位性となり、顧客や投資家、人材を惹きつける要因となり得ると同VCは信じているそうです。初期のスタートアップがESG基準を考慮した経営を行うためにも、VCが投資基準としてESGの観点を重要視する事が大切だとレポート内で触れられていました。

さらに、レポート内には500startupsの投資先93社からESGに関連する項目についてのアンケートも含まれています。同VCが女性の創業者の支援を特に重要視しているため、アンケート内では、投資先企業において女性がどれくらいの割合で参画しているかも明らかにされています。回答の結果によると、VPやCXOクラスに女性がいないと49.5%の企業が回答しており、さらに管理職に女性が全くいないと46.8%の企業が回答したそうです。

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この数字からも分かるように、テクノロジー業界のおける創業者や経営陣に占める女性の割合はまだ十分ではなく、同VCは女性の起業家を増やすために、下記の活動を行っているそうです。

①自社のプログラムへの参加者における女性の割合を増やす
②女性が先導している優れた企業をグローバルで探す活動を拡げる
③女性起業家支援に関心のあるメンター・アドバイザー・投資家へのアクセスを可能にする

VC側が新たな富と雇用の創出を可能にする存在として、初期段階からこのような体系的なアプローチを取る事が、テクノロジー業界に女性の割合を増やすために重要であると彼らは主張しています。

投資の意思決定のおいてESGの観点がどれくらい重要視されていくのかを考えるにあたり、SequoiaのパートナーであるBryan Schreier氏のツイートを一例にとってみても、サスティナビリティや気候変動関連のスタートアップへ投資する意思を明確に示すなどESGへの関心の高さが表れています。初期のスタートアップにもESGの観点から経営を行う事が、以前より求められていきそうですね。

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海外のESGソリューションスタートアップ

そうは言ってもまだまだ馴染みの薄いESG領域の課題を解決するスタートアップがどれくらいあるのでしょうか?Mediumにてエンジェル投資家のZecca J. Lehnさんが公開していた記事から、SocialTechとSustainableTechのランドスケープを参考にすると、すでに数多くのスタートアップがこの領域で事業を展開していることが分かります。

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さらに、TECH FOUNDERSの記事によると、SDGs/ESGへの関心が高いヨーロッパでは、サスティナブル領域スタートアップ(BtoB)が下記の図のように、すでに約150社ほど出てきています。150のスタートアップは、今後大きな展望がありそうな4つのカテゴリーに分類されており、①排出量管理②サプライチェーンの透明性③循環型経済④サステナビリティレポートが該当します。

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このようにスタートアップ増えている中で、私が調査した企業を3社ほど取りあげてみたいと思います。

■PlanA
1社目の企業は、ベルリンを拠点とする自動化SaaSを展開するB2BスタートアップPlan Aです。企業が環境フットプリントを測定・監視・削減・報告できるプラットフォームを展開しています。直近のTechcrunchの記事によると、同社はソフトバンクを含むVCから$3Mの資金調達をしました。競合他社がカーボンフットプリントを単発で測定するのに対し、同社は自動かつ継続的にモニタリング可能なのが強みだそうです。一部の見立てでは、CO2の排出管理ソリューションの市場は、今後5年間で $10Bから$26Bほどの市場になる可能性もあるそうです。

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2017年に設立された同社ですが、既存顧客にはSociété Générale(フランスのメガバンク)、GANNI(デンマークのアパレルブランド)、AlbionVC、BMW Foundation、BCG Digital Ventures、サッカークラブの Werder Bremenなど有名企業が並びます。
外部環境でいうと、米国の新政権とEUの昨今の方針変更により、企業はCO2排出量に関する透明性を大幅に高める必要に迫られています。例えば、オランダでは、90を超える銀行が CO2 排出量の透明性を高める協定に署名しました。そのため出資を受けたいと考えている企業は、CO2排出量を証明する必要に迫られており、同社のニーズはさらに高まっていきそうです。

■canvas
2社目は、ダイバーシティーリクルーティングプラットフォームを展開するcanvasです。同社は2017年にJumpstartという社名で、BenHermanとAdamGefkoviczによってサンフランシスコにて設立されました。

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同社は、自己申告データに基づいた "完全にバーチャル "な採用プラットフォームをSaaSとして提供しています。このプラットフォームを利用する候補者の約87%が、自分のデモグラフィック情報を開示しているそうです。(これは業界標準の7倍)また、自己申告してもらう事で集めた75以上の候補者データをフィルタリングすることで、企業が重点的に採用したいグループや人材を絞り込むことができるという。
実際に登録してみると、企業ごとのページがあり、その中に現在募集中のポジション、今までこの企業で働いた事がある人の情報が掲載されていて、その人物にメッセージを送る事ができるようになっています。候補者側から自由に会社のリファレンスをとる事ができそうですね。

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(参照:canvas)

顧客には、Airbnb、Bloomberg、Coinbase、Samsung、Lyft、Pinterest、Audible、Stripeなどの数百の有名企業名が並びます。Lyftに至っては、2020年のインターン生の3分の1をcanvas経由で採用し、82%が社会的弱者の候補者グループからの採用だったという。
同社は、2021年5月に$20Mの資金調達を完了し、そのタイミングで社名を『canvas』へと変更しました。Stripe社の初期の従業員でエンジェル投資家のLachy Groomと、Sequoia Capitalが共同リードの形をとり、Four Rivers Capitalも参加しました。今回の資金調達により、canvasのこれまでの調達額の合計は$32.5Mとなりました。
前回のシリーズAラウンドでは、Sequoia Capitalがリードで、Snapchatの親会社であるSnap Inc.の会長であるMichael Lynton氏、Castleton Commodities International LLCの共同会長であるJoshua Steiner氏等が参加しています。このような株主構成は、彼らのように社会的にも影響力がある人物たちがいかに採用におけるD&Iの課題に目を向けているかを物語っていると言えそうです。

Vaayu
上記の2社はtoB向けにサービスを展開するスタートアップでしたが、3社目はtoC向けのESGソリューションを展開するVaayuを紹介したいと思います。2020年にベルリンで設立された同社は、小売業者に特化したカーボントラッキングプラットフォームを提供しています。

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Techcrunchの記事によると、小売業者の中でも特にファッション業界でのCO2の排出量を削減することが早急に必要とされているそうです。というのも、ファッション業界は世界の年間CO2排出量の10%を占めており、これは国際線と海運業で排出される二酸化炭素を合わせた量よりも多いそうです。

小売業では年に一度二酸化炭素の排出量を計測する事が主流でしたが、それでは精度が落ちてしまいます。そこでVaayuは、ShopifyやWebflowなど、さまざまなPOSシステムと連携し、ロジスティクス・オペレーション・パッケージングに関するデータを取り込むことで、二酸化炭素の排出量を自動で監視・測定・削減することを可能にしているそうです。創業して1年ほどで、すでにMissoma、Armed Angels、Organic Basicsなど25のグローバルブランドを顧客としています。

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写真中央:CEOで共同創業者のNamrata Sandhu氏
(参照:vaayu)

同社は、2021年7月にプレシード期で$1.57の調達を行い、CapitalTがリード投資家として参加しました。CapitalT社の創業パートナーには、女性でありシリアルアントレプレナーであるJanneke Niessen氏が名を連ねており、Vaayu社の「世界中の小売業者の二酸化炭素排出量を削減する」というミッションに共感し、出資を決めたそうです。

日本におけるVCの取り組み

日本では現状どのようなESG関連の取り組みが行われているのか簡単にですが、見ていきたいと思います。日本でも去年あたりからESGの観点を取り込み投資判断を行うと宣言しているVCが登場している印象です。たとえば、ANRI社は4号ファンドの投資先の女性の経営者比率を最低でも20%にするという目標を掲げています。

ほかにもキャシー・松井氏らは約160億円規模で、日本で初めてESGの観点を重視して投資判断を行う「MPower Partners Fund」を設立しました。投資対象は、ヘルスケアやフィンテック、次世代の働き方、教育、環境とリリースに記載がありました。同ファンドは女性3名で共同創業した事も特徴として挙げられます。

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さいごに

私は本記事を書いていく中で、上記で紹介した500 Startupsの「倫理的で持続可能性のあるビジネスモデルや企業を消費者が支持する傾向が強まっていて、スタートアップも初期からESGを重要視することによって長期的に大きなメリットをもたらす」という部分にとても共感し、素敵だなと思いました。

私のような、恥ずかしながら今までさほどサステナビリティに興味がなかった若輩者にも本トピックが浸透しつつあるのは、スマホ社会が成熟したゆえに生まれた共感エコノミーが益々力を増しているなぁとぼんやり思っています。この流れがどんどん強くなっていくと、上記のSequoiaのパートナーが言う通り、「莫大なビジネス機会」が生まれると思うので、日本のVCやスタートアップにとっても新たなビッグチャンスになると思います。

ESGの中でもカーボンテックなどの「環境」部分はまだまだ勉強不足でわからないので、もっとリサーチが必要ですが、ESGの「ソーシャル」部分で、ダイバーシティや女性の健康などの課題を解決するサービスがもし出てくれば、私でも分かる事は多い領域なので、今後積極的に投資検討したいと感じています。

もっと理解を深めて、私もこの領域で貢献したいと思っていますので、「こんなESGサービスがあるよ。」、「私とESGトークがしたい。」などあればお気軽にTwitterなどでDM頂けると嬉しいです。

ここまで読んでくださりありがとうございました!

皆様に新しい発見を届けるためのリサーチにまつわる事に使います!