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創作

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詩とか、小説とか。ノンフィクション、フィクションごちゃまぜ。
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#現代詩

完璧な仮面

周りがみんな 怖いひとだらけだった だから僕は 僕を守るために 自分の顔を削ぎ落として 代わりに仮面をつけたんだ けれど仮面をつけても 怖いひとは怖いまま 「この仮面じゃダメなのかも」 周りの顔色伺いながら 仮面をつけては壊しつけては壊し そうしているうちに 心は鈍くなっていった 色んな人の顔を観察して 真似て作るのだけはうまくなった 完璧な仮面だと褒められたりもした でもある日、きみが 「はずしたほうがすてきだよ」 なんて言うから 勇気を持って外してみたんだ け

ペット

飼育箱に入れて 自由を奪って 名前をつけて 餌を食べさせて ずっと見ていて 愛でて欲しい どこにも行かないって約束して わたしの方が先に死ぬから 死ぬまできっとそばにいてね 自由なんていらないよ ここにいるだけで満足なの どこにも行きたくない だってお外は危険がいっぱい あなたもいない

観察日記

誰か私の観察日記をつけて 私がどこまでおかしいのか 私がどこまで狂っているのか 観察して 研究して 名前をつけて もう自分がまともかどうかすら わからないんだ 数値化して カテゴライズして 箱に押し込めて 口ではおかしくないって言ったって 身体が動かないんだもの 僕の立ち位置はどこ 居場所はどこ 教えて お願い 居場所をください

水面の空

空を見上げる勇気もなく 水面に映った空を見て 全てを知った気になっていた 水面の空は掴もうとしても歪むばかりで 本物はいつまで経っても掴めやしない 人間は空を飛べないってわかってた けれど認めるのが怖いから 下ばかり向いていた 「飛べなくても見上げていい」と 言ってくれた人がいた 「飛べないなら地を歩けばいい」と 言ってくれた人がいた 「飛べないなら飛べるものを作ればいい」と 言ってくれた人がいた 「飛べないなら飛ぶ夢を描けばいい」と 言ってくれた人がいた 「飛

境界線と器

わたしを理解したつもりで わたしを奪っていかないで あなたが見ているのは あなたの中のわたしに似たあなた自身 あなたの中にわたしは収まらない 人ひとりの器には ひとりぶんの魂しか入れられないの あなたの器に収まるような ちっぽけなわたしじゃないの でも、あなただって 誰かを入れられる余裕があるほど ちっぽけじゃないはず

未熟

「 」を食べたいのなら まずは味見から 「 」はまだまだ熟してないのよ まだもぎ取る時期じゃないの 青田買いだって勘弁願いたい 「 」はあなたのために育てたんじゃない 「 」を丸呑みしたらきっと あなたはお腹を壊しちゃうかも 実を言うと「 」は 毒性も致死量も不確定 まだわかっていないし 人によって違うかもしれない でも気をつけて 「 」の毒に当てられても ごめんなさいは言えないよ だから「 」を食べるときは 覚悟の上で来てくださいね もしくは適度に味見くらいが

ふたりきり

わたしにはきっと あなたの愛が必要だった たとえ歪な形でも あなたのやさしさが 欠けた愛があたたかい けれどあなたの愛は 欠けているから 決してあなた自身には向かない それが悲しくて仕方ない あなたに向けるはずだった愛を わたしが残さず飲み干して いつかわたしの愛として あなたに返せるように頑張るから それまでどうかそばにいて

ひとりぼっちはさみしいよ

「結局きみは孤独が好きなんだろう」 何度言われたことだろう わたしが助けてと嘆くたび 差し伸べた手を拳に変えて 彼等は言葉で殴ってくる 「好きで独りになった訳じゃない」 殴られたくないから 孤独の檻に閉じ込もる 孤独が好きなんじゃない 孤独の温かさの方が 拒絶される痛みに比べたら ずっとずっと楽なだけ 本当は愛される暖かさに憧れるし 明るい場所にだって行ってみたいんだ 孤独以外の選択肢がなかったのに 好きなんだねって そんなわけないでしょう ひとりでいるのは嫌い

一人じゃないと思いたい

一人で何でもできるように 一人でも大丈夫なように 一人でも生きていけるように そう思って生きてきたし 今もそう思って生きている 無意識レベルで 気付くと思考は一人に向かうし 気付くと行動も一人に向かう 一人がかっこいいとすら思っている 人に頼るのは恥ずかしいことで 信頼はいつか裏切られるもの だって最愛の人はきっと私より早く死ぬし そのための心の準備をしておかなくちゃ 死ぬときは誰にも迷惑をかけないように 一人でひっそりと死ねるように でもやっぱりそんなの寂しいよ

物足りない

優しいだけじゃ 物足りない 気持ちいいだけじゃ 物足りない 愛してるだけじゃ 物足りない 痛みをください 傷をください 身を焦がすほどの憎しみを 独善的な愛をください 浅ましい女と 蔑んだ目で見つめてほしい 憎らしい奴だと 突き放すように吐き捨ててほしい それくらい強くしてもらわなくちゃ あなたの愛を感じられない 首を絞められなくちゃ 息ができないって気づけない 息苦しいのが当たり前だから 殺される寸前が一番 生きてるって感じがするの ねえ、そんな悲しい顔をしない

化けの皮

わたしの化けの皮を ゆっくりと、ていねいに 一枚ずつはがして 時に荒っぽく 無遠慮にめくって 露わになった 柔らかいところに その爪を突き立てて 感じさせて、痛みを 生きているという実感を わたしにも 赤い血が流れていると 知らしめてほしい