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創作

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詩とか、小説とか。ノンフィクション、フィクションごちゃまぜ。
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記事一覧

弔いの冬

打ち捨てられ 堆く積み上がった たくさんのわたしの死体 一体一体、ていねいに 見つめて、確かめて、弔ってゆく 肌を刺す視線 身を焦がす渇望 絡みつく恐怖 耳をつんざく怨嗟の声 わたしがなかったことにした あらゆる痛み それらをもう一度受け止める 感じた痛みは光に還り 透き通る、冬の夜空の星になる

心地よいはやさで

目まぐるしく動く世界 過ぎていく時間 どんどん変わって 置いていかれそうになる 不安で、苦しくて 思わず走り出したくなるけれど からだは上手く動かなくて だからこそいまは わたしの心地よいはやさで歩いて 見えているものを見たらいいよ 焦りのむちでからだを打って 走ったとしても きっと一瞬で息切れ また立ち止まってしまうの みんながわたしを置いていく それは本当に? そう、見えているだけかもしれない 「止まって」 「ねえ待って」 きちんと声に出して そう言えたなら 振

愛されるために生まれてきた

愛されるために生まれてきたのなら どうして、はじめから愛されなかったの わたしが「ありのまま」で愛されるというのなら 過去に傷ついたのは、何故 嘆き悲しみに暮れた ひとりぼっちの長い夜をこえた今 それがわかる わたしがこれまで傷ついたのは それでも、愛されるためなのだと わたしたちは、あらゆる事を忘れて生まれてくる あらゆる事を知るために生まれてくる 初めから愛されていては愛に気付けない そういう風にこの世界はできているの だから、愛を受け取るためには 愛の素晴らし

ありのままで愛されたかった

ダメ人間でもいいって言われたかったな 笑っていて欲しかった 嗤わないで欲しかった 褒めて欲しかった 褒めないで欲しかった 泣き声がうるさくても 食べられなくても 身体が弱くても それでいいって言われたかった 周囲の目のために心配しないで欲しかった あなたの枠ではなく わたしの枠で心配して欲しかった 熱が出たならどこにいても何を置いても早く帰ってきて欲しかった 授業参観の日くらい、仕事を休んで欲しかった 代わりはいないのに 他の誰でもない あなたに帰ってきて欲しかった 私

ずっとそこにいる

他人にどれだけ尽くしても 外の世界をどれだけ探しても そこに「自分」はいない。 じゃあどこにいるのか。 あなたの中 すぐうしろ おなかの底の方、胸のあたり。 もしかしたら部屋の隅。 当たり前過ぎて気付かないかもしれない つまんない、みっともない 恥ずかしくて、痛くて、 思ったとおりに動けなくて バカみたいなことで泣いたり、笑ったり、 死にたくなったり、やっぱり生きたくなったり それが自分 他の誰でもない自分 成長できなくていい 前を向けなくてもいい 社会に馴染めなくても

真っ黒な泥の海の底で

消えて、しまいたい しんで、しまいたい どれだけ光を目指しても 光に照らされても 光に辿り着いても 満ちては欠ける月のように その暗闇はまたやってくる 静かに、確かに、手を伸ばしてきて いつのまにか動けなくなって 足首、ひざ、ふともも、腰 気付けば胸の辺りまで 真っ黒な泥に浸かって どうして、と問う こんなに癒そうと頑張っているのに 飽きもせず、何度もせりあがってくる いつまでもなくならない泥 真っ黒な、夜の海みたいに 果てしなくどこまでも続いているよう もう終わりに

さようなら、硝子のようなひと

あなたとわたしは別のもの そのことに今、ようやく気づいた あの日 夢で、もう終わっていた 夢の中のわたしはちゃんと選んで 終わらせた あなたを選ばなかったのは わたし自身だった 「過去」を諦め 「未来」の手を取った だっていうのに 現実のわたしは もうそこにないものを あると勘違いして いつまでも執着して いや、勘違いじゃない 本当はわかってた 握りしめた手のひらの中には もう何もないんだって この手を開けばそれを認めるしかない それが怖かったから ずっと、

孤独なままでも愛してほしい

「きれいすぎてつまらない」 面と向かって言って 「おまえは間違ってる」 そう面と向かって言って 拒絶するならはっきりと 静かに居なくならないで 痛烈な言葉を浴びせて 一突きで楽にさせてよ 「同じだと思っていたのに」 失望させてごめんなさい 「君が理解できなくて怖い」 わたしにも理解できないよ 曖昧な優しさの真綿をもらっても わたしはそれで首を絞めてしまう 孤独になろうとしてしまうから 君に振り回されるのは懲り懲りだと 多くの人が離れていく わたしが人を信じ

あなたの心音を、今でも憶えている

夏になると思い出す、ある初恋のこと。 遠く離れた距離と忙しい日々。 直接会えるのは半年に一度だった。 初めて恋人として会った冬の日。 「次は抱きしめてあげる」 世界の全てに怯えていた私に、あなたは約束してくれた。 それからちょうど半年後の夏、二度目の逢瀬。 電話では毎日話しているのに、いざ会うと緊張してか少しよそよそしい。 私も、意図的に距離を取ってしまっていた。 そして互いに触れられないまま、別れの時間が近づいた夕暮れ時。 あなたは私の手をぐっと引いて。 約

【小説】死にたがりちゃんとストーカーくん

 かなり昔に建てられたうちの学校の屋上の柵は、幸いにもわたしの胸ほどの高さしかなく、内履きの靴底の摩擦力を利用してよじ登ると、あっさりと向こう側に立つことができた。  しかしいざ立ってみると、当然ながら人が立つことを想定されていない狭い足場と、地面までの距離を生々しく感じ、先程まで興奮気味だったわたしの心は一瞬で怯んでしまった。けれど頭は至極冷静で、背後の柵を掴んでいる手を離して、十五メートルほど下にあるアスファルトの舗装路に自分が打ち付けられる瞬間のことを他人事のようにイメ

言葉で射抜いて

どこを探しても 僕の気持ちが見つからない 僕の気持ちを表現するのに 正しい言葉が見つからない だからもっと言葉をください いっそ言葉で射抜いてほしい 結局のところ僕は とっくに麻痺してしまっている この真ん中を射抜かれでもしなきゃ 自分の痛みにすら気付けないんだ

ある回顧

たにんとじぶんは、同じで同じじゃない。 付き合う人は選ばなくてはならないし、付き合う深さも選ばなくてはならないのだろう。 理解出来ることと気が合うことは別の問題。 理解できるからこそ離れた方がいいこともある。 どのようなものに興味を示し、どのようなものに重きを置くか。 それが違ったとしても仲良くなれる人はいる。 けれどやはり、それを尊重し合えないひととは、そばにいられない。 過去の出来事を表面的にとらえてその人をジャッジすることはしたくない。けれど、やはり紐解い

たったひとつのおもちゃ

書くことは楽しいよ おもちゃで遊ぶみたいで 楽しい 言葉は僕の唯一のおもちゃ 手放したくないよ 生きていくために必要だったから なんにも、なんにも 手に入らなかった ぜんぶ、ぜんぶ 置き去りきにした僕に たったひとつ 残ったおもちゃ

片道の恋

わたしがいらないときにくれて わたしがほしいときにくれない わたしのおもいはどうにも あなたに見透かされてしまう きっとちゃんと求めれば 応えてくれるんだろう でもちゃんと求めたら最後 わたしはたぶん これまでの過去を そのさきの未来を ぜんぶ捨てることになる その一線を超えたら もう後戻りはできない わたしを見て わたしを愛して わたしのこと、好きって言って そのためならなんだってできるし してあげる それくらいあなたが好き でも あなたに溺れてしまったら わた