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海月の骨をみつけて

現在、2023年12月31日、21時51分。

今年のうちにどうしても書いておきたいことがあって、キーボードを叩いている。節目節目にはそれ相応のものを書き残しておきたい気持ちがあって、こと年末となるとその1年のまとめじみたことを書きたくなる。その年の出来事で、忘れたくないと思うことを書きたくなる。


今年は、友人が海月(くらげ)の骨をみつけたという話をしたい。


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その友人とはもうすぐ30年になる付き合いで、常日頃からよく話しているからお互いのことはわりとよく知っている。そんな無二の友人である彼に今年、恋人ができた。


ちょうど約1年前、12月30日早朝の京都駅で、彼は彼女にメッセージを送った。LINEの「非表示リスト」から名前を探して、「お久しぶりです。元気にしていますか」ということを手紙のような文章にしていた。彼と彼女は絶縁状態にあって、ずっと連絡を取ってない上にお互いのSNSも知らないから、本当に近況が何もわからない状態で、突然連絡をしたということらしい。

どうして突然連絡しようと思ったのかと聞いたら、「京都駅でバスを降りた時、思い出したんだよね。昔、同じように京都に早朝に着いた時に、ちょっとしか会えないのにわざわざ来てくれたこと。そこからいろんなことを一気に思い出して、ああ、もう連絡しようって思って」とのこと。

でも、連絡が返ってくる確証はなかった。むしろ、返ってこない方がいいんじゃないかとも思っていた。当時は京都に住んでいた彼女だったけど、今どこでどんな暮らしをしてるかは全くわからなくて、結婚したり子どもがいて幸せな家庭を築いているかもしれない。もしそうであれば、彼女にとってその友人は邪魔者でしかない。

そもそも、絶縁状態だったのは彼が「そうしよう」と告げたからだ。それを数年が経ったのちに彼の方から連絡をしているのだから、連絡を受け取った彼女に「自分勝手だ」と思われて無視されてもおかしくない。むしろ、無視された方が仄かに残り続けていた未練に決別できるかも、とすら思っていた。その発想も、いささか自分勝手だなあと呆れるところだけれど。

でも返事は返ってきた。「お久しぶりです。元気にしています。連絡くれて嬉しいです」と。そして彼女は「もしダメじゃなかったら会いたい。ダメなら諦める」とも。ダメじゃないからメッセージを送っている彼は「僕も会いたい」と返し、2人は年が明けてから、京都で再会した。ここから今年の話になる。

1月、再会した2人は京都の街を並び歩きながら「今、どこでどうしているの」という話から始める。友人の地元は関西だが、学生時代から今も変わらず茨城にいる。そして、彼女は地元の京都を出て神戸で暮らしていた。最後に話した時にはお互い学生だった。大人同士で再会して話すのが、気恥ずかしく嬉しくもあったと彼は言う。

そして2月、今度は彼女が茨城にやってきて落ち合い、再会に縁を感じていた彼がそこで「お付き合いしましょう」と申し出て、晴れて恋人同士となった。立春の日だった。


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「ちょっと待って、時間軸がよくわかんなくなってきた」という人もいると思う。僕もそうなので彼に尋ねると、彼と彼女が最初に出会ったのはSNS上で、彼が高校2年生、彼女が中学3年生の時だった。それだけでも驚きだが、初めて対面で会って顔を見た時はお互い大学生だったというので、そこから少なくとも4年は経っている。

その後、友人が関西に帰省するときに会ったり、彼女が茨城に遊びにくる時に会うようになっていたが、彼はそこで恋人になることには踏み切れずむしろ「都合のいい子にしてしまっているな」と思い、電話で「もう会うのも連絡するのもやめよう」と持ちかける。これが最後。2017年の秋。

それ以来だから、2人はおよそ5年半ぶりに再会したと言う話だ。しかもその間のお互いの情報は、ほとんど何もなかった。

ただ友人は、彼女のことを時折思い出していた。趣味で彼が続けている写真を、最初に彼に教えたのがその彼女だった。写真を撮っていると、ふと「今どうしてるんだろうか」と思い出すことがあったらしい。最後の電話の時に「忘れてほしい」と言ったくせに。そして彼女も、彼のことをなかなか忘れられずにいたらしい。

「そんな話、なかなかないよね」と言うと、彼も「なかなかないよねえ」と繰り返す。

いや、もうちょいなんかあるやろ。気の利いたコメントとか。



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友人は茨城在住で彼女は神戸だから、当然なかなか会えない。それでもこの1年は、なんとか月1回くらいのペースでは会えていた。

つい最近も彼に、「最近どうなん?」という感じで話を聞いてみた。

「彼女の機嫌を何かと損ねがち(苦笑)だけど、仲良くしている」らしい。そもそも彼は彼女に何かを求めるということがなくて、彼女に「何かしてほしいこととか直してほしいところとかないの?」と聞かれた時も、「大変だ、何もない…!どうしよう!」とどうでもいい相談をしてきた。今の彼にとっては、自分のことを特別に思ってくれる人がいるということだけで、何よりの支えになっているみたいだ。

「じゃあさ」と付け加えるように尋ねる。「彼女のどういうところが好き?」…我ながら話の引き出しが下手すぎる…という僕の反省よりも、彼の回答の方が早かった。「芯があるところ。あと頼りになるところ。」

「昔はそうは思ってなくて、年下の子だなあと思ってたんだけど、再会したら印象が違っていて。ちゃんとしてるなあ。芯があるなあって。」

「それから、、、」と彼が続ける。「あの子が、『なんとかなる』って言うと、本当になんとかなるって思えるところ、です。」

だそうです。この場を借りて、彼女に伝えておきます。

***

友人は自己紹介で「苦手なことは恋愛です」なんていうほど、成就しない片思いばかりでまったく上手くいかないこれまでだった。

「本当にいい出会い、というか再会があったんやね。縁があったんやなあ」と言うと、

彼は「本当にね、『海月の骨』をみつけたみたいだ」と返した。


海月の骨。

くらげには骨がないことから、転じて「ありえない物事や非常に珍しい物事」を意味する言葉だという。


友人は、長い時間がかかってようやっと結ばれた縁を、有り得ないほど貴重で、尊いものとして海月の骨に喩えた。

彼は今、運命みたいにみつけた海月の骨を大事に、大事に手の平で包み込むような面持ちで、

「いつもありがとう。来年もよろしくね」と彼女にLINEを送っている。

それはそれは、どこにでもよくある話のように。



2023年12月23日 23時58分

All photo by Hayabusa Itaya


(思ったより難産だった。。。)



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