見出し画像

琉球戦レビュー~確かな変化と引き継がれた課題~

変えてもらうではなく、変わるべき試合

灼熱の地・沖縄で行われた名波体制の初陣。
就任から練習期間は4日。何かが大きく変わる予感は誰もが感じていたはずだが、実際に細部まで詰めていこうと思うとあまりにも短い準備期間。
「何かを変えてもらう」というよりは解任を受けて「(自分たちが)変わったことを見せる」試合にしなければいけなかったが、結果は完敗。

相手があることなので結果や点差だけでは四の五の判断できない(これは仮に完勝していたとしても同様である)が、これまでの常識では考えられないような起用やプレー、ピッチ上の変化は確かにあった。そこは今はポジティブに考えていいだろう。

ただ抱えていた課題を新体制初戦にまで引きずってしまったのも事実。
樋口体制3年目で成熟期を迎え、上位争いを繰り広げている琉球との完成度の差は如実に出た。良いところも見られた反面、見事に今のチームの悪いところも出た試合となったのをプラスにできるか、ここでのチャレンジ→大敗をこの先のチーム作りの糧にできるようにしていきたい。

すぐに結果を求めるのは酷ではあるが、それでもまずは1勝。
チャンスを貰った選手たちの中から、ヒーローになれる選手が出てくることを期待したい。

画像7

<勝手にMOM>

MOM:星キョーワァン
→最近、星ばかりをあげている気がするが、DFの個が晒されやすい試合展開が多く、チームを救うビックプレーの数や成長度合いを考えると自然と行き着いてしまう。攻撃陣に期待。

次点:河合秀人
→こちらも定番。ここ数試合は自身も空回り感があるプレーもあったが、少しだけ輝きを取り戻した感がある。チームとしてもう少しアタッキングサードで勝負させたい。

<戦評>
■注目のスタメン

中4日といっても紅白戦で1通りメンバーの動きを見るなど、誰もが入れ替えの予感は感じていた今節。監督交代後初戦のスタメンは注目度は高かった。そんな中でスタメンは4人変更。

これまでも4人の変更は珍しくなかったが、特筆すべきは2点。

1つは"プロ初スタメンの山田真夏斗の起用"。
他の選手にはないサッカーセンスと展開力を持つ一方、プレー強度と守備面では不安を残していたので監督交代ならではの抜擢となった。

もう1つは"起用法の変化"
前貴之の右CB、鈴木のCF、表原のシャドーはこれまでの主戦場とは異なり、さらに浜崎のボランチでの初先発、宮部の最終ラインでの起用など新たな試みが見られた。

もちろん素質を見込んでの起用ではあるが、現実的には適正チェック的な意味合いもかなり強いのではないか。これまでとは異なる起用法・ポジションで求められるタスクも変わってくるが、ここで良いプレーを残せれば一気に自分の存在価値を上げるチャンスである。中断期間までの数試合、ぜひとも積極的なアピールを見せたいところ。

■この4試合で準備したことと変わったこと

・ここ4日で手をつけてきたものは?

「就任後初戦」。一般論的に結果ももちろん大事だが、実際の成熟度は前体制のものから大きく積み上げることは難しく、あくまで選手の新たな組み合わせやメンタル的な変化で勝利を掴み取らなければいけない試合となる。

今後を見据えてこの試合を精査する時に「選手にどのような変化が起こったか?(起こらなかったか?)」が一番重要かもしれない。

事前情報として、この4日間のトレーニングで着手した点は

①スローインでロストしない事
②DFを後ろに余らせず前に出る事
③攻撃で前方への配球を強く意識付け
④後方の選手が追い越す動き

名波監督がピッチ外から感じていた問題点から優先的に着手したこの4つのトレーニング内容を見てもまだ自陣ゴール前、敵陣ゴール前でのプレー……もっというと"結果に直結する部分"まで手を回すにはまだ時間がかかることが分かる。感覚的には1次~2次キャンプのような内容に再び手をつけていると言っていいだろうか。少なくとも対琉球を意識したトレーニングもこれを見る限りではほぼできていない。

大幅転換のために時間を費やし、シーズンが始まると最適な組み合わせの模索や目の前で出てきた課題に振り回されてきた今シーズン……。それほどまでに今の山雅の狂った歯車を正し、再建していくのは難しいことなのだと改めて感じられた。

・その成果はどうだったか?

結果は出なかったので評価はしづらいが、この4点についてはまた別軸で考えるべきだろう(先ほど書いたようにここ4日で行ったトレーニングは結果を1直線に求めた部分ではないのもある)。

1つ1つ、試合の中での課題解決がどうだったかを振り返ると
①スローイン:〇→△
データがないのであくまで印象論でしかないが、いつもよりも早さよりも繋げる事を重視し、無駄なロストをすることはなかったのでまずまず改善は見られた。ただ、スローイン以外にも話を広げると失点を重ねるにつれてプレーが切れた時に下を向くシーンが目立つことも。名波監督の声掛けが頻繁に行われていたことからもまだ自立には時間がかかりそう。

②DFを余らせずに前に出る:△→✖
ここは一番長く付き合っていきそうな悪癖である。最初は前貴之が敵陣まで出ていくなど改善がみられるシーンも見れたが、相手の阿部についていけずに清水1枚に対して3枚が残ってしまうシーンの方が多かった。失点後に改善されるのはこれまでもあったが、消耗してくるとまた戻ってしまいがちなのも変わらず。SBが時間と共に飛び出してくる回数が増えていったのもこちらにとってはマイナスに働いた。

③前への意識:〇→〇
前への意識は試合を通して高かった。
特にボランチの浜崎、山田はボールを受ける意識、縦への意識は高いものがあり、SPORTERIAのデータで見ても2枚で100越えは実は珍しい(しかも山田は55分間での数字である)。

また仮にタッチ数が多い時はCBとのパス交換が多くなる(=横や後ろが多くなる)のが常だったパスのベクトルも明らかに前方向が増えている。

多くの人がなんとなく感じていた前への意識の変化だったが、スタッツ的でもそれは裏付けられていることが分かる。ちなみに前貴之の後方へのパスが多くなっているのは保持時にプレー位置が高くなっていたことが起因していると思われる。

もしかすると浜崎・山田は守備面でエラーが起こるのは承知で組ませたのかもしれない。失点に絡んでしまった山田だが、試合を通してみると十分に特徴を出し、積極的にプレーをしていた。今後もチャンスはもらえるだろう。

④追い越す動き:△→〇
最初はそれほど多くなく、シャドーが持った時にWBが積極的に飛び出している程度だったが、失点が重なるにつれてCBからも追い越す動きが多く見られるように。それによってCFやシャドーの選手はボックス内に早く入るようになっていた。

順位が順位なので守備のバランスを見ながらだが、この日使われた宮部のようにCB/SB型の選手が序列を上げることは可能性としては考えられる。


以上の4点から見ても、この試合から名波監督が「手応えや収穫」、逆に「どこが足りないかの感覚」を得られたのも間違いではないだろう。それがどうピッチに反映されるかはインタビュー上では華麗に交わされていたが、今節のように分かりやすくピッチ上に出てきそうではあるのでどこを残してどこを壊すのかを次節以降注目していきたい。

あとは4つのトレーニングとは別になるが、ゲーム全体でのコミュニケーション。これは1つ1つのトレーニングやゲームの中で直すことになるだろう。気持ち・雰囲気のための声は最低限、声の質に関しては名波監督が就任してから改めて伸びしろを感じた。これまでは誰が声を出しているか?がフューチャーされることも多かったので、『声の質』がどう変わっていくかにも注目していきたい。

■付け焼刃ではなんとかならなかった琉球

・序盤に見られた変化

ここからは試合の中での両軍の変化を振り返る。
序盤ではプレスは自重気味に仕掛け、CBが持ち上がってきたところで片方のサイドに蓋をするというプレスを仕掛ける。全体を間延びさせないことと、成長著しい知念よりも(琉球から見て)右の李ヨンジサイドで閉じ込めようという意図は鈴木や表原の追い方からも感じられた。

画像2

体力がまだ消耗していないこともあり、守備の出足は早く、SBにはWBが、ロングボールには星や常田らが対応することで琉球も序盤はチャンスを作れない。

奪った後には素早く前線に繋ぐ意識が見えるも、無理だと判断すればしっかりと自制して足元でしっかり繋いでいこうとしていたのはこれまでとの違いではないか(これはもしかすると行くところと行かないところのルールを作ったかもしれない)。

・給水前後での琉球の変化

ただこちらの守備の出足にも慣れたあたりで琉球もいくつかの修正を加えてくる。

1つは起点をSBメインから2列目に変えたこと。

画像3

そこまではSBがWBを釣りだし、縦パスを入れることで琉球SHと山雅の左右SHのマッチアップを作る狙いが見えたが、給水前後あたりから主に風間が低い位置までおりてきてSBとポジションを入れ替え。マークのズレを作られるようになっていく。ここは山雅側も恐らくそれほど手が付けられていないように思う。

さらに厄介だったのが2トップの1角に入っていた阿部の存在

画像4

2列目の選手がズレを作り出すことで自身の得意とするボランチ脇のスペースが使いやすくなっていた。身体の強さがあってキープ力に長けた選手ながら、ゲームメイクもできる選手である阿部を捕まえきれないことが多く、付いてはいるが潰し切れないシーンも何度も見られた。

そして、山雅が密集を作るサイドを囮にして逆に展開するケースが増える。以前までと違い、GKまで無謀に追うことはなかったとはいえ、逆サイドでコンパクトな守備陣形を整えるよりも琉球の展開の方が早かった。

画像6

こうなってくると枚数のいる5バックのスライドは何とかなっても前線に行くほどスライドが間に合わなくなっていく。表原起用はこのサイドチェンジを見越しての意図もあったかもしれないが、シャドーが引き出されるシーンを作られたことで、2列目+阿部のコースを消す役がいなくなってしまう。

・ボタンをどう噛み合うようにしていくか

セオリーで言うならば……というより従来の山雅の5バックは基本不動。空いてしまう2列目の選手(画像でいう清武)に対しては驚異的な運動量と予測を持つタイプのボランチの選手がいち早くスライドして消していることが多かった。それでJ2を制し、J1でも崩壊することはなかったが今はそうではない。この日ボランチに入った浜崎も運動量自体はあるタイプだが、ここをいち早く消せるポジション取りできていたかと言われるとそうではない。

ただこれは個人だけの問題だけではなく、ボタンの掛け違いのようなもので、『5バックが極力動かない反町体制のやり方を踏襲しているが、その手前にいる相手を消す選手はいない』というのは柴田体制の守備崩壊の理由の1つとなっていた。名波監督の話す「こびりついた後ろ体重の意識」にも表れているかもしれない。

ボタンを変えることでハマるようにするのか、かけ方を変えるのか、はたまたボタン自体をハマる形に作り替えるのか……。これはしばらく付き合っていくテーマになりそうだ。

話は逸れたが……この琉球のこの修正により密集は作れず、消耗もしていき、ワンタッチパスを織り交ぜる琉球らしい繋ぎが生きてくる。

■琉球が相性の悪い相手である理由

結果4失点。1つ1つの失点や個人のプレーについても議論の余地はあるが、とにかくこの日はもっと大枠の部分が大事で、名波監督も相手よりも自分たちにベクトルを向けて采配や支持の声をかけていたように思う。指揮官の感じている「問題点」ともたらそうとしている「変化」に着目して、普段とは少々違う切り口でレビューを書いた(つもり)。

最後に少し本筋とは外れて、琉球に着目したデータと考察について。
琉球は今年の対戦で磐田・甲府・栃木・相模原・松本と3バックのチームに全勝。かなり得意としている。今シーズン5戦5勝15得点と結果を残している(ちなみに対4バックは7勝4分け4敗19得点)。

画像6

①前線2枚or3枚ではGKを含む4枚のプレスをハメられず、
②撤退せざるをえなくなる。すると両SBは高い位置へ。
③大外のSBを見るのはWBしかいないので下がらざるを得ない
④SBが空けたスペースやWB脇など使えるスペースが増える
⑤結果、サイドで数的優位に

という琉球お得意の流れが、対3バック(5バック)だと非常に作りやすく、能動的にひっくり返すことができなければタコ殴り状態になりやすい。

それをひっくり返すためには、SBが上がれないように前線が相手の最終ラインを追い込む(ただしGKも参加&可変してくるので数的不利を作られても追い込めるプレスの質は必要)、琉球SBとWBの個人勝負で上回って攻め上がりを自重させるorカウンターでそこを突く全体の運動量でスライドを頑張る……など手はあるが、3バックのどのチームも実現できていない。琉球の地だとさらにそのハードルは高いだろう。(反町山雅だったらシャドーにとことんついていかせて塩漬けにしそう……笑)

今シーズンも折り返しになるが、3バック殺しの琉球スタイルを打ち崩すチームは現れるのか?どのように打ち勝つのか?また10月のH琉球戦では山雅はどのように変わっているのか?楽しみにしたい。

■絶好調の難敵を相手にヒーローは現れるか!?

そして、次節は東京V戦。
プレビューは書けそうにないが、ざっくり言うとまたしてもポゼッション型、そしてポジションに捉われず柔軟に変化していく掴みどころのないスタイルのチームとの対戦となる。

成熟度がまだまだなチームが対戦するには難しい相手なのは事実な上、現在5連勝中。対戦相手を見ても栃木、相模原、千葉、秋田と”持たせてくるチーム”に勝ち切っているのは不気味なところではあるが、自分たちの課題にしっかりと向き合い、選ばれた選手が結果を残すことができれば必ず勝ち点3もついてくる。

(ポジティブなデータも出しておくと、東京Vはホームでは7勝1分4敗と得意としている一方でアウェイは3勝2分3敗と五分。対して山雅はホームの成績の方が良く、3勝4分3敗と五分。東京Vのスタイルからしてもピッチコンディションはかなり左右してくるかも……)

記念すべき名波山雅の初ホームゲーム。初得点&最初のヒーローが誰になるかを楽しみにしつつ、アルウィンの意地を見せていきたい。

END


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?