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琉球戦レビュー~瓦解と執念の勝ち点1~


<両チームスタメン>

■松本山雅

前節宮崎に2-1で勝利した山雅は前節から3名を変更。

GKは神田が継続、最終ラインも変わらず。
ボランチには山本康、その相方は住田に代わって安永。2列目は滝と菊井がベンチ外になり、2列目には前節途中交代だった山口、村越。最前線にはそのまま浅川が入る。

控えはGK村山、DF山本龍に代えて、DF藤谷、MF國分、米原。

■FC琉球

前節奈良に2-1で勝利した琉球は前節から2名を変更。
CB森、FW岩渕に代わって山内、高木がそのまま入る。

控えはGKパク、DF鍵山、MF富所に代えてGK東、DF増谷、MF岩本、決勝点の起点となったルーキーのFW庵原。

<総評>

■噛み合わせと配置の戦い

・早速の試練

宮崎相手に勝利を収めた山雅だったが今節は開幕スタメンに名を連ねた菊井、滝がメンバー外。(試合後の情報によると軽傷のようだが)長期離脱中の高井を含めて2列目の主力級が3人離脱となり、いきなり試練が訪れる。

代役は村越と山口。2人とも昨年は主力だったのでそれほど問題はないが、注目だったのは「普段菊井が務めるトップ下は誰になるか?」と「控え組を含めた90分でのゲームマネジメント」。

山口という予想も多かったトップ下の答えは開幕戦で右サイドに入った安藤。これまでのチームでは一応ここでも起用されていたが、気質はストライカーでゴール前に入っていく迫力や競り合いもトップ下としては強い。菊井とは違ったタイプの選手がこの位置に入る。

また、それにともなって結果的には前節の樋口-滝、馬渡-安藤の縦ラインも解体することに。「誰が出ても変わらない」を1つのテーマに掲げているとはいるものの、今年はキャンプからおおよそ主力やユニットは固めて準備してきたので2節にしてイレギュラー気味のメンバーで戦うことになったことはメンバー選考の上で苦労したはずだし、開幕戦とは違ったぎこちなさも見て取れた。その分、昨年の主力と新加入選手との成熟度を上げる方に振ってるので言い訳はできないが難しいシチュエーションなのは間違いなかった。

・奪うか刺されるか

そして、もう1つこの試合の大きな注目点が『流動的な5-3-2との戦い』。まずは「山雅の生命線であるプレッシングでどう相手(特に3-1ビルドアップの部分)を捕まえていくか?」が序盤のキーポイントだった。

当然、琉球のシステムややり方はスカウティング済みなので捕まえ方も共有されていただろう。後ろは"CB+アンカー"で繋いでいくので山雅の前線は4枚捕まえやすかったがネックなのがWB。特に低い位置に関わりながら裏抜けも果敢に行う右の上原はもちろん、開幕ゴールを挙げた18歳の左WB幸喜は新境地を開拓中。逆足配置で、攻撃時には中外柔軟に動き、ボールを隠すような持ち方で落ち着きどころになれる厄介さがあった。

捕まえに行く場合、WBに余裕を持って持たせないためには最終ラインでSBがスライドする、そのためにもSBがWBへ詰める距離を縮めるために後ろを上げて圧縮することが必須となる。

もしも奪えば高い位置で、前線は4vs4。綺麗に取りきれば数的優位の大チャンスを迎えられるという理想があったはず……。

だが、試合が始まるとそれとは全く関係ない所から、わずか数秒で山雅が大決定機が訪れる。

キックオフからのロングボールに安藤が競り勝ち、相手CBの裏にボールを落とすと浅川がドフリーで1vs1の絶好機。ここはGKが飛び出すタイミングの秀逸さもあり、惜しくもポストに阻まれる。もしかすると今シーズン全て終えても"最速"の決定機だったかもしれない。DAZNのCMを見ていたら見逃してしまいそうなほど突然やってきた。

「これはもしかして幸先が良いのか……?」と思ってる内に次は1分半ほどで大ピンチが。

セカンド回収の流れからすばやく前線が4vs4でハメに行こうとするも

下りてきたWB幸喜を使われて、馬渡が高い位置までスライド。しかし、できたSB裏のスペースに佐藤が走り込んできた。安永がそこについていくが。。。

次は高木がその安永のスペースへ降りてきたのでそのまま高橋が潰しに行くも、アンカーの岡澤がそこへ素早く寄っていきスイッチで入れ替わる形に。

岡澤がそのまま持ち上がると、その前には高橋の空けた裏のスペースがあるのでIH(佐藤)とCF(白井)がそこを突くという狙い。実際のゲームでもいきなり佐藤にCB裏を取られてしまう。

先ほど山雅の守備の狙いを書いたが、早くもそれをひっくり返すような圧縮の裏を取る攻撃。その前の安藤の競り合いからの浅川の形とは違い、琉球は最初から最後までこの狙いを続けてきた。

開始1分で出てきた問題が「①下りていくWBにどこまでSBが出ていくのか」「②出て行ったCBやSBのカバーを誰がするのか」「③飛び出してくる後方の選手に誰が着いていくのか」。

このシーンでは①は馬渡がとにかく着いていく、②は安永が着いていき埋めるという動きは見えたが、解決策が収支曖昧で問題になっていたのは③

前向きにプレスに行く時は人に人を当ててマンマーク気味にプレスに行くので"形としては"ハマっているが、WBを使われて一度その矢印をかえられた時にそのままマンツーマンでついていくわけではないので、例えばこのシーンのようにアンカーが攻め上がったり、レイオフでボールを受けに来ると誰も着いていかない(着いていけない)。そのまま前を向いた状態で運ばれ、局地的に+1を作られてしまい、数的不利状態になってしまう。

アンカー以外にも幸喜や藤春がポジションを崩して攻めてくるのに対して、前線の選手が頑張って戻るのか後ろに受け渡すのか、受け渡す場合は誰が引き取るのか?そこが曖昧になった結果、CBがその数的不利の尻ぬぐいをするような場面が何度も生まれていた

・5-3-2を突破せよ

ただ前半はまだ運動量は残っており、後方の選手たちも元気だったので運ばれた後にも数的同位、時には不利ながら何とか粘ってシュートの前で防ぎ続けた。

また、琉球も少し誤れば一気に大事故、ミドルプレス気味の守備時も前半は特に抑え気味だったのでどちらかというと山雅が保持で支配する時間が目立った

宮崎のようにガンガンプレスをかけてこない琉球だが、前線4人がそれぞれを前向きでCBとボランチを監視できるような位置取りは徹底

ボランチ+CBで2-2を作っても

3-1を作っても前線の枚数合わせは整理されており、前向き監視の約束事がある以上、簡単にはエラーは起こせない。

山雅のビルドアップ隊4人は相手のIHを引き出せる3-1の方が多く見られたが、前進や相手とのずれができないと前線との距離が遠いままなのでこの流れを脱しようとピッチ内でいくつかのチャレンジが見られる

具体的には馬渡が最終ラインまで下りてきてWBからのプレス距離を広げてみる、安藤や山口が菊井のようなロールで組み立てに加わってみる、一発で浅川の裏抜けを狙ってみるなどなど……。選手ごとのアイディアや対応力は見られたが、それと同時にチームとしての探り探り感も感じられてもどかしい時間が続く。

思ったよりこのフェーズに入るのが早かったのは琉球の守備との噛み合わせか、2年目で相手も構造を分かってきているのか……。「終盤のガス欠」が継続的な課題になっており、「キーマン依存」も若干見られる山雅にとっては前半のこの試行錯誤感が余計にそれらを加速させているような気も……。

まあ、まだシーズン序盤なのであえて試してる部分もあるかもしれないし、もう少し継続的に見ていきたい。

■響いた不協和音

・見えそうで見えない解決策

もちろんやっていく中で解決策はいくつか見れた。
その中でも一番再現性を持って相手を引きだしてチャンスを作れたのは最終ラインからアンカー脇のスペースを刺す攻撃

早い時間から左の山口は(恐らく個人判断で)狙っており、高い位置で起点にはなれていたが、左の特徴上、相手の陣形のズレは生じにくく、その分そこからのスピードアップは起こりにくく、素早い展開で連携を取れるほどまだ意思疎通が取れてない。浅川や樋口が抜け出しても相手のマーカーがついてくるという状態でもあった。

一方、右は構造上のズレは作りやすく、何度か大チャンスが。
こちらは低い位置からのゲームメイクも得意とする馬渡が頻繁に下りてきて起点役として機能。本職はWBではない対面の幸喜が「迷ったら行く」というスタンスなのか、周りからそう言い渡されているのか、けっこう距離があってもスライドしてきて、その際に起きたズレを突ければ”なぜか村越がポッカリ空いている”という現象がちらほら。

もしも藤春が村越についていけばその背後のスペースを浅川らに使われてしまうので琉球側は撤退を選択していた

ただ山雅にとっても若干ネックだったのは村越も間受け→チャンスメイクというプレーが特徴的なプレイヤーではない点。しかも逆足配置でピッチの内側に運ぶ特徴も相まって、狭いスペースに突っ込んでいく形になり、それほど位置的優位性を生かせないということもあった。

もちろんアンカー脇を突く攻撃など試行錯誤の結果、相手より多くのシュートを打ち、チャンスも作れたので純粋に前半の収支という点では取れていたかもしれないが(得点は0なのでそこは別として)、「再現性」や「その先の形」で左右それぞれの苦労が見られた点はユニットの組み方も含め、反省点も少なくない前半だったと思う。

・必然の崩壊

後半に入ると早々に試合が動く。
安藤→馬渡→安永と繋いだ攻撃から相手のクリアミスを安永が拾い、村越に落とした所を左足でズドンと1発。先ほど組み立ての際のデメリットも挙げたが、逆足配置をすることによるアタッキングサードに入った時のカットインミドルはやはり雰囲気がある。馬渡が高い位置を取れたのも大きかった。このエリアまで運べれば彼のこの配置は生きる。

こうしてようやくリードを奪うことができた山雅。だが、ここからの戦い方は安定しない。その象徴となった1失点目。

GKからのボールを高橋が競り勝つまでは良かったが、そのボールが渡ったのが琉球。そこから4本も中盤でショートパスを繋がれ、後半からIHに入っていた岡澤がフリーな状態でラストパスを白井に供給されてしまう。

高橋が競り合いに出ていたのでまたしても常田が1CB状態のままの対応に。これだけ自由があれば裏抜け型のCFとしては勝負しやすい。そこまで耐えていた常田のギリギリの対応がついにPKを取られてしまう。

もちろんPKを取られない守備対応も求められるし、判定も際どかったのは事実だが、高橋が中盤の位置まで競りに出るのであれば中盤は当然拾いに行かねば苦しくなるし、ましてやその後パスを何本も通され、フリーでラストパスを出されていては尚更

あるいは高橋が出て行った穴はボランチのどちらか、もしくはDFラインで圧縮して穴を埋めなければならないはずだが、2枚のボランチはもちろん、最終ラインでも樋口がサイドの選手に釣られてしまい、相手の最大の狙いである白井の裏が剥き出しに。

後ろを数的同位で守ること自体は悪い事ではないが、中盤の競り合いに高橋が出てこなければならないのも含め、CBに負担が偏った状態で2トップと数的同位勝負させなければならないのはなかなかハードだったように思う。

さらに山雅の運動量が落ちたと見ると、庵原の投入を機に琉球は4-4-2にシステムを変更。前線の枚数を増やして仕掛けに出る。

その後もCKからのカウンターから裏抜けされて神田との1vs1を迎えたり、2点目も左右SBが前がかりになっていた(馬渡に至ってはセットプレーの流れで帰れていなかった)ことでCB2枚で白井に加えて途中投入でフレッシュな庵原の裏抜けに対応しなければならなかったり……。

たまにCBについて「チアゴマルチンスやジェジエウになる」という話を出すが、彼らも別に無敵無敗ではないし、PK与えることも当然あるので、1試合での頻度がさすがに多すぎ問題……というのが大元の問題な気がする。

・最悪の中での最低限

この失点の直後に馬渡・村越に代えて藤谷・野々村を投入。
SBに野々村、SHに藤谷を入れ、佐相や安永が中盤に入る変則型(それかチーム的には3バックだったのかも)に変更する。奇策と言ってもいいかもしれない。

保持時やセットプレー時はSBの位置から野々村が上がっていってパワープレー。奪われたら素早く戻り、戻れない場合は藤谷がそのままSBの位置に戻るという設計に。

結局、劇的な同点弾もSBの位置から飛び込んできた野々村を相手が捕まえきれずに自由を与えた結果、彼のストロングヘッダーが炸裂して奪えた形。

最初の安藤に始まり、1つ目のCK、最後の野々村の劇的弾などなど琉球側から見ると最終ラインの手前のスぺースの管理、アラートさに甘さがあるのは何度か露点していた。冒頭のシーンのように競り合いでも安藤が何度か勝てていたので、琉球が山雅の最終ライン裏を狙ってきたように山雅側も執拗にここを狙う攻撃を行うのも手だったかもしれない。

■反省と勝ち点4を持ってホームへ

多くの弱点を晒され、終盤の手詰まり感から苦渋の決断とも取れる奇策を取ることになったが、いずれにしても最低限の勝ち点1を取れた事は大きい。勝ち点上も、大事なホーム開幕戦に向けて士気を上げる意味でも意味がある。

そして、住田→常田→野々村と普段は守備での活躍が目立つ3人の連携や勝負強さが同点弾から伝わってきたのは好印象だった。攻撃陣はより奮起が求められるし、このゴール、勝ち点1を次につなげたい。

そして、次節はホーム開幕、YSCC横浜戦。
システムは3-5-2、GKや最終ラインからの流動的なビルドアップを得意とし、WBもそこに積極的に関わってくる点からも琉球との共通点は多い。前節の反省点を生かして改善していくならば絶好の相手とも言える。

さらに過去対戦は2勝2敗の五分。だがアルウィンでの対戦成績も過去2戦でYSの2勝。そんな悪い流れもなんとしても断ち切りたい。なんとしても1万人超えのアルウィンで勝ち点3を……!

<記録>

■ゴール

1:樋口、村越野々村

■アシスト

1:安永常田

■累積警告

1:神田、菊井

END

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