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岐阜戦レビュー~デザインされた"静"と"動"~

先制しながらも苦しい試合内容が続き、同点・逆転と地獄のような展開となった中で何とか意地を見せて同点に追いついた前節・宮崎戦。

鹿児島戦後の相模原戦に続いて、"ここで踏ん張らなければ厳しい"という状況で迎えた優勝候補とのアウェイ戦。活動休止明けでも富山相手に勝ち点3をあげているJ3屈指の層の厚さを誇る相手に、降格組として気持ちの強さと負けない層の厚さを見せたい試合だったが、試合は3-1で快勝。

これによって6戦で勝ち点13を積んで3位に浮上。アウェイは4戦全勝と調子の良さを見せている。メンバー発表からこれまでの戦い方との違いが明らかで、見方が難しい1戦となったが、ピッチの状況や監督コメントも踏まえながら試合を振り返っていく。

<両者のフォーメーション>

・松本山雅

GKはビクトル。
4バックは左から下川・常田・大野・前の並びに。以前の4バックから宮部と大野が入れ替わった形に。宮部は開幕から5試合連続フル出場だったがここで初のメンバー外に。これによりフル出場継続組はビクトルと下川のみに。

中盤、ボランチでは住田が本職のボランチとして初先発に。パウリーニョとコンビを組む。左SHは佐藤が3試合ぶりの復帰。右SHには菊井が4試合連続先発出場、この試合でプロでは初のフル出場となった

2トップは開幕5戦で5発の横山、そして3試合ぶりに復帰した小松がいきなり先発に復帰し、前線に並ぶ。

・FC岐阜

先発は前節富山に勝利したメンバーから変更なし。
ベンチには中断明けでメンバーから外れていた畑、藤谷が復帰。

<記録>

・ゴール数

5:横山
3:外山
2:小松、住田
1:常田、榎本

・アシスト数

2:常田
1:菊井、ルカオ、佐藤、住田、濱名

・累積

1:佐藤、米原、パウリーニョ、住田、村越、前、浜崎、宮部

<戦評>

■意外だった試合を殺す選択

・これまでと異なる「相手に合わせた戦い」

この試合まで5試合で11得点7失点。複数のシステムを使いながら、試合中も形を可変させて相手とのズレを作り出し、縦への行き来も多いため、得点も多いが失点も多い"動"的な戦いをしてきた山雅。

対して、4試合で6得点3失点。非保持時は4-4-2、保持時でも極力その形を崩さずにボールを支配し続けることでトランジションを起こさせない、得点も少ないが失点も少ない"静"的な戦いをしてきた岐阜。

対照的な特徴が多いだけあって「保持して自分たちのペースでゲームを進めたい岐阜に対して、山雅がハードワークとスピーディーなカウンターで上回れるか?」がおおよその戦前予想となっていた。システムも岐阜が4-4-2(4-4-1-1)で来るのはほぼ確実だったので、これまでの戦い方を踏まれば"相手に合わせて3バックにして、非保持時にはWBをあげてプレスに行く"というのがセオリーだった。

が、前半の山雅は岐阜に対して、4-4-2でシステムを合わせた上であえて自陣に引き込み、奪っても縦に早く急ぐことなく、一貫して"静"的な戦い方を続ける(開始数分からハーフウェーラインあたりまでプレスをかけておらず、監督コメントでもそのような戦い方を示唆していた)。

これにより
①サイドで優位性が取れる(1点目のような形)
②スピードを苦手とする岐阜CB陣の弱点を突く

③ロースコアで試合を進めやすい

などのメリットを得られたが、個人的には③で前半はまず無失点に重きを置いてこの試合に挑んだ側面が強いのではないかと個人的には予想している(後半の戦い方の方が今の山雅の良さが出るのは監督も分かっていたはずなので)。

また、岐阜は低い位置に人数をかけてビルドアップをする傾向があるので、もしかすると前半プレスを交わされ続けて、宮崎戦のように後半ガス切れするのを考慮したかもしれない。

・引き込む守備は一定の手応え

試合が始まると岐阜がボール保持する時間が長くなる。
序盤から山雅がハイプレスをかけないことで岐阜は中盤あたりまでは自由に運ぶ。小松・横山の2トップも片方はプレッシャーをかけにいくことはあってももう一方はアンカーを必ず捕まえておくことを重視しており、CBにはほぼ自由を与えていた。ロングボールが山内に収まることはあったが、FP10人が全員前向きの状態でセットしているのでそれほど崩される形は作られない。

岐阜は特に庄司がボールを受けに下がってくるため、低い位置での保持力は強まっていたが、この日の山雅は第1節、第2節と違ってSHをあげて3枚に合わせることも特にする素振りは少なく、あくまで相手を引き込むことに徹していた。

枚数に関係なく、岐阜はボランチの1枚が下りてくることがほとんどなので山雅的には前線が数的不利になるのも後ろで回されるのも織り込み済みだったように思う。

その先でも山雅の右サイドでは監督もコメントでも触れていた通り、前が相手のサイド2枚を相手に、立ち位置で2人を消すようなポジショニングを取っており、岡村も左への展開はそれほど得意ではないのでそれなりに何とかなっていた。

対して、左サイド。こちらは射程距離が広いフレイレが一発で柏木に入れるパスやCF山内のロングボールなど1つ飛ばしのパスを出してくることもあったが、1対1もしくは2対1での対応はできていて、「明らかに相手の誰かが浮いている!」ようなシーンはほぼ見られなかった。

自分たちのやってきた、今シーズンの望んだ戦いだったかと言われるとそこは疑問は残るがこの試合に向けて用意してきたプランや意思統一に関しては(守備の難易度が下がった状態とはいえ)これまでよりできていたように思う。

■「出来すぎの前半」から一転…

・泣き所を突いての先制点

対して自分たちの攻撃面。
一番のチャンスと見ていた引き込んでからのロングカウンターもそれほど無理に狙うことはせず、慎重にビルドアップも低い位置に人数をかけて時間を作る。相手が靴ひもを結んで1人少ない状態でもそこを突いて急いで攻めに行く様子はなかったので、前半はほとんど急がず、固い展開をお互いに望んでいたのではないかと思う。

個人的には「あまりにも慎重すぎるのでは!?」と思うシーンも多々あったが、それでも前半のプラン的には悪くなく、時折見られた横山へのロングボールも少ないながら可能性は感じた。

先制点が生まれたのもその横山のスピード絡み。
しかし、そこに至るまでのチームとしてのイメージの共有・周りの動き出しも、岐阜の弱点・急所を突いた見事なものだった。

⇧菊井・前のIQコンビの関係性からボランチの山内彰を釣りだして、背中のスペースにパウリーニョが侵入。菊井にワンツーで返したところで横山がDF間のギャップでボールを要求。ボールを受けて素早くターンするとそのまま岡村もぶっちぎり、中にクロスを上げる。中は逆サイドからニアまで入ってきていた佐藤、横山に縦パスを刺したままスピードを緩めずにゴール前に入っていた菊井、ずっとファーサイドで我慢して待っていた小松の3人でゴール前で数的優位を作れていたのでボールが転がってきた時点で勝負あり。小松がGKに当てることなく、しっかりと決めきった。

ボールを貰った選手個々の質はあれど、総じて周りの選手たちが足を止めずに、前への選択肢を与え続けた結果と言える。岐阜の選手たちは一番締めなければいけない4-4ブロック間に通されてからはなかなか的を絞り切れず、最終的には流れの中では最も警戒していたであろう"横山とCBの1対1のスピード勝負の形"に持ち込まれてしまった。このあたりはまだ戦術の浸透段階なのかもしれない。

・避けなければいけない失点

ロースコア・岐阜のスローペースに合わせての前半、シュート数もこの時間まで2本ずつで、「内容・戦い方ともに0-0ならプラン通り、リードが取れれば出来すぎ」といった感じだったが、見事に流れの中から先制。

(AT含めて)残り10分ほど守り切るという方向性もしっかりしていたが、下川・窪田の1対1からボールがファーサイドに流れ、前がクリアしようとした背後から突っ込んできた菊池に先に触られてしまい、同点ゴールを許してしまう。

ここは監督もコメントを出しており、SNSでも多く議論がなされていたので詳細は割愛するが、起点となった宇賀神からの見事なサイドチェンジがあっても先ほど書いたような2vs1、最低でも1vs1の形は作れており、それほど崩されてはいなかった。逆に岐阜視点で言うと1対1で最も勝機があったのは窪田の仕掛けということになるのでこちらは警戒しとかなければいけなかった。そこ以外は概ね順調に回っており、個人的には守備の仕方を変えるほどではなかったと思うので、クロッサーへの距離感・限定の仕方やクロス処理のところで解決したかったところ……。

いずれにしろ、この失点によって出来すぎの前半から、岐阜に心理的に優位に立てれた状態でHTを迎えてしまった。それを後半で取り返し、快勝できたので致命傷にはならなかったが、失点の仕方も時間帯も良くないやられ方だったと思う。

■狙い通りの(?)ギアチェンジ

・外山の投入で"動"のスイッチを入れる

そして、HTを挟んでの後半、山雅は失点直前に相手と接触した前を大事を取って交代。代わりに左には外山を入れ、右に下川を移す。

前半は左サイドで下川が窪田への対応に苦労していたが、ベンチから指示を受けたのか、外山はドリブルに対して縦切りで対応。これによって中には切り込みやすくなったが、窪田は左足でそのままクロスを上げ、そのままボールは誰もいないところに流れていった。窪田が良いイメージで入った前半とは違い、この最初のプレーでこちら側が対策に手応えを得たことでその後もほとんど仕事をさせずに時間を進めることができた。

さらに攻撃面でも前半になかった本来の「味方を追い越す動き」や「縦に早い攻撃」が見られるようになっていく。特に外山が入って活性化した左サイドは"槍で槍を制する状態"。フレッシュな外山が球際や走り合いを制するシーンは後半多く見られた。

具体的には50分、52分。立て続けに大外にいる外山の推進力を殺さないまま、攻撃を仕掛けて相手のSHを守備に走らせる。

相手の最終ラインは横山のスピードへの警戒心は強く、ブロック間で佐藤や菊井、下りてきた小松が受けるとなかなかラインの高さを保つのが難しそうだった。さらに岐阜の2列目のプレスバックよりも、後半からギアを入れた山雅の追い越しが上回っていたので、特に左では余裕をもって外山がボールを受けることができる状態が作られる。

ボールを受けたあとも外山が加速した状態で勝負を仕掛けたり、外山が仕掛けるそぶりを見せておいてさらにその外を常田や住田が追い越していったりと選択肢は多かったので、外山を使う以前のブロック間の圧縮を広げるプレーが効いていたのも試合を通して大きかったように思う。

これまでの山雅視点で見た時にも、去年だと外山が受けた際に前線の選手が流れてきて渋滞&中が足りなくなっていそうなシーンが多かったが、出し手のテンポ良い展開&後ろからの追い越しで厚みのある攻撃で渋滞することなく攻撃を繰り出せていた。

・セットプレー2発から再びギアを変える

そして59分、73分セットプレーから勝ち越し&追加点を奪う。

細かいところはこぼれ球への反応や切り替えの早さなどで上回った結果だったが、高さのある岐阜に対して変化をつけてきた"チームの準備の良さ"とそれを"実現した精度の高さ"無しにはこの試合の得点は語れない

前半、セットプレー時は常田が猛マークされていたが、その対策を逆手に取ったような得点となった。

そして、2点のリードを得た直後の75分には橋内を投入して3バックに変更。守り切りのメッセージにも見えたが、直後の76分には常田・住田が高い位置から奪い取り、外山のクロスに繋げるなど、後半からの前体重の姿勢は変わらず。自陣まで引くことなく、橋内を中心に高いラインを保ちながらゴール前まで運ばれるリスクを減らす選択をした。

81分には榎本と濱名、86分には村越と前線にフレッシュな選手を入れて前からの運動量を補充するメッセージ性のハッキリした交代
自陣に引き込んでの守備とは打って変わって、前はプレス、後ろは5枚のスライドで相手の保持に対応。それぞれのハードワークありきだが、岐阜の運動量が落ちるのはこれまでの試合でも見られ、逆に山雅は意図的に前半は飛ばさずに入ったので後半の試合運びはこの試合でのプラン通りだった気がする。

流れの中からの大きなチャンスは作らせずに試合を締めることができた。

■銀河系集団から大きな勝ち点3

"優勝候補"・"J3の銀河系軍団"と言われていた岐阜を相手に終わってみれば3-1で快勝。

相手は主力が数名欠けている状況があったとはいえ、柏木や宇賀神ら有名選手を相手に臆することなく、優位に戦えたのはまだプロ経験の浅い若い選手にとっては大きな刺激になるだろう。前半のようなもどかしい展開が続いてもバラバラになることなく、しっかりとゲームプランを遂行できた試合だったという意味でも前進できたように感じる。

まだまだ"無失点勝利"という宿題は持ち越しになったままだが、それぞれが経験を積みながら攻守のスタンダードを高めていければその結果がついてくるのもそう遠くはないだろう。
このまま成長曲線が水平線をたどるようなチーム状態ではなく、この試合で住田が2得点をあげ、横山や菊井のビックプレーが得点の起点になったようにまだまだ成長の余地を秘めているチームだと見ているので、シーズンが進む中でしっかりとトライ&エラーを繰り返せる、そんな体制&順位を続けていきたい。

1週空いてしまうが次節は再びホームで沼津戦。これまでとはがらっと違うタイプの相手となるが、何としても初勝利をあげてホームでの悪い流れを断ち切りたい。

END

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