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いわきFC~ベストバウト!?~

前節、愛媛戦で久々に敗戦した山雅。戦術面や練度で後手を踏んだ鹿児島戦と比べて、前節は真っ向からのぶつかり合いで敗れた感があったので、結果はもちろん、パフォーマンス面でもしっかりとした「違い」を見せなければいけない、分岐点になるような1戦だった。

そんな重要な1戦で、ホームに迎えたのは今シーズンのJ3で旋風を巻き起こしているいわきFC。球際や走力の部分ではリーグでも抜けた存在で、若くて個々の能力が高い選手たちが揃う強敵中の強敵。試合前まではわずか1敗のみという点を考えても「直接叩かなければならない」相手。

間違いなく「大一番」となる試合で、先制を許し、退場者を出すなど厳しい展開もありながら横山を中心に選手たちが躍動。守備面でもいわきのシュートを6本に抑えて、2-1で勝利。まるで格闘技のような熱いぶつかり合い、そしてシーズンが終わった後に今季のベストバウトに選ばれても不思議ではないような熱い試合となった。

書き上げるのが金曜日になってしまったが、熱く、そして冷静に試合を振り返っていこうと思う。

<両者のフォーメーション>

・松本山雅

前節・愛媛戦で今季2敗目。スタメンは2人変更(TPJ・住田→横山・パウリーニョ)。浜崎は第5節の宮崎戦以来、パウリーニョは第9節の長野戦以来の復帰となった。

GKはビクトル、サブには神田が今季初のベンチ入り。
後ろ5枚は前節と変わらず、左から外山・常田・大野・下川・前の並びに。

中盤はパウリーニョが底に入り、その前に安東と菊井が並ぶ。

前線は前節ベンチスタートだった横山と6試合連続先発出場中の小松の2トップとなった。

・いわきFC

前節は北九州に2点差を追いつかれたものの、7試合負けなしが続くいわきはスタメンを4人変更(家泉・有馬・有田・古川→遠藤・山口・谷村・鈴木)。ここまで途中出場のみだった山口と新潟から期限付き移籍で加入したばかりの遠藤は初のスタメンとなった。

それに伴い、最終ラインでは家泉が初のベンチスタートに。去年まで山雅に所属していた星は古巣戦となった。GKの鹿野は菊井・薄井と去年までチームメイトだった大卒ルーキー。チームの看板でもある嵯峨・日高のSBはここまで全試合先発中。

中盤はボランチの宮本、山下コンビ、右の岩渕は全試合先発を継続。流動的だった左SHには山口が抜擢された。

前線はこれまでは古川・有馬コンビが多かったが、この日はこれまで左サイドに入ることが多かった鈴木と谷村の2枚となった。

<記録>

・ゴール数

7:横山
5:外山
4:小松
2:住田、榎本
1:常田、菊井、宮部

・アシスト数

3:外山
2:常田、菊井
1:ルカオ、佐藤、住田、濱名、ビクトル、小松

・累積

3:パウリーニョ
2:村越、佐藤、前、菊井、榎本
1:米原、住田、浜崎、宮部、外山、安東(退場1)

<戦評>

■ブレない・止まらないいわきの強み

・想像を超えてくる圧

異なるメンバーで挑んできたいわきFCだが、やることは変わらない。SHの選手も積極的に中央に絞ってきて圧縮を作る。

これに対して山雅は中盤3枚(もしくは小松が下がり気味で4枚で)中を締め、密集している中央に縦パスを刺されないようにポジションを修正しつつ、高い位置を取るSBにはそのままWBが対応する形で対抗。

ただ、いわきも中やサイドが消されているからと言って、最終ラインから繋いで左右に揺さぶるチームではないので、前線の強さ・早さをシンプルに使ってスペース(深さ)を作り、セカンド回収を狙う。

山雅ももちろんこれは織り込み済みで、むしろそこでの回収勝負を狙う。ここ最近の3421ではなく、352に変えてきたのはこのセカンドボールを拾うのに一番パワーを持ったパウリーニョをアンカーに置き、中央に鎮座させるような形を意図していたはず

しかし、この形を作ってもいわきの当たりの強さやセカンド回収は強さがあり、次第に重心は低くなっていく。このあたりはさすがいわきというべきか、今季なかなか見られないような当たりの重さは画面越しにも伝わってきた。風でボールが止まるのもあって、序盤のシンプルな蹴り合いでの「陣取り合戦」はいわきが優位に立っていく。

・ハイラインの裏をつきたいが……

しかし、山雅側が一方的にやられていて防戦一方だったかと言われるとそういうわけではない。高い位置から攻撃を始められないながらも、あえて引き込んでハイラインのいわきの裏を突くような攻撃を序盤から何度か見せる。

この試合の狙いとしてはっきりしていたのは1つは「相手の前線を釣りだしてからのSB裏へのロングボール」。

もう1つは相手の密集を分解する「強引なまでの一発サイドチェンジ」

相手の密集崩し、プレス回避、ハイライン守備に対して、かなり分析・対策を立ててきた印象を受けたが、これまでやってきたことの延長線上であり、それをより忠実にはっきりとやっているに見えた。

ただ、前半の前半は強風やスリッピーなピッチに苦しみ、強気なハイラインを敷いてくる相手の最終ラインと飛び出す前線とのタイミングがなかなか合わない時間も長かった。

これがうまくいかないと相手にボールをそのまま渡すことになるので、前半の失点シーンまでのような耐える時間が長くなるのも必然といえる。

・押し込んで生まれるいわきの優位性

そして、いわき側が押し込むことで生きてくるのがこの試合でも先制点を生んだ、いわきのストロングポイントの両SB。

山雅側は5枚で構えているとは言っても相手の前線4枚の裏へのアクションが多く、まずは中を締めること、セカンドボールを拾うことに重きを置いていたようなので、どうしてもサイドへは出た後に迎撃に行ったり、IHがSBに出ていくという対応に。

そして、左サイドは特に、菊井と外山がそれぞれ嵯峨との1対1からクロスをあげられてしまっていたこともあり、次第に2人で対応するような形になっていった。妥協策としては妥当な選択ではあったが、マークは少しずつボールサイドにずれていくのは新たな弱点となってくる。

嵯峨に意識が向けられたことがいわきの先制点の"伏線"となることに

失点は菊井から前線のボールが奪われた後のカウンター返しから①⇩

②中央を締めて、サイドに一度出された後も外山が遅らせて味方が戻ってくる時間を作り、③菊井と2枚対応にすることで完全に遅らせたかと思われたが④再び攻撃のギアを上げたのはまたしてもSBの嵯峨。⑤一気に岩渕に鋭いパスを入れるとそれを受けた岩渕から左SBの日高に。中央の選手に最終ラインが引っ張られていたため、⑥安東がスライドするしかなかったが、これも間に合わず、非常にスムーズなトラップからのミドルがサイドネットに突き刺さった。

通常、1トップ2シャドーなら右シャドーが、3ボランチなら右のIHが日高のところは守備範囲になるはずだが、先ほども書いたように、それまでの時間帯で山雅の左サイドでチャンスを作られてIHの菊井がサイドに出ていく2枚対応を選択。逆のSBのところで時間と空間が生まれることも必然だったといえる。

それを理解してか、自分のサイドで無理に勝負せずにスイッチになるようなパスを入れ、逆サイドに素早く展開することを選んだ嵯峨が上手(うわて)だった

■今シーズン最大の絶体絶命

・絶望の流れを断ち切った同点弾

連敗は許されず、順位表を見ても絶対に勝ち点3が必要という状況で、これまで先制すると6勝4分で負けなし、しかも後半勝負を得意とするいわきに先制される。「今シーズン1番の絶望的な状況」に陥ったことで、少なからず動揺もあったかと思うが、そんな逆風をこの日の山雅は結果で跳ね返す。

その時間わずか7分。

後ろの回しで相手の前線を引き付けたところで常田からの内巻きのロングボール。相手の右SBの嵯峨のカット狙いの一か八かのスライディングのすぐ横を抜けてラインギリギリに止まる絶妙なボールに。その直前にも同じような場所にロングボールを通しており、横山とともに、常田もいわきのハイラインキラーと化していた。

そこからは横山の独壇場。
ドリブルで右足にボールを持つ横山にはこれまで①スピードで中にカットイン、②左に持ち替えて持ち出してクロスの2通りがあり、その少し前のシーンでは①から前のミドルに繋げているのでこれを警戒してCBの遠藤、SHの岩渕、そして右SBの嵯峨も引き付けられる(ファーサイドは3VS3に)。

しかし、そこで横山が選択したのはそのどちらでもない右足でのアウトサイドクロス。星も日高もボールに引き寄せられるのは当然の反応だと思うが、DFの視界から消えるのを得意とする小松の動きを捉えるのは大変困難になった。

折り返しのボールに対してはゴールマウスを守るので手一杯。横山がボールを持っていた時は外山の前に入っていた宮本も折り返されると当然外山より後ろに位置することになるので、ほぼドフリーで押し込むことに成功した。

先ほどは嵯峨に山雅の2人が引き付けられて、ファーが空いたが、今回は横山に2人、3人が引き付けられ、ボールサイドにスライドせざるを得ず、ファーサイドは手薄になっていたという点では共通している。

この得点直後に前半終了の笛。1点ビハインドでのHTと同点に追いついてのHTでは雰囲気が全く異なるのは想像に容易い。

・自由と信頼が生んだ柔軟性

そして、追加点も同じく左サイドから。
横山とのコンビネーションから外山が仕掛け、クロスをあげるとファーサイドは再び3vs3の状況に。再び相手のSBの頭を超え、再び安東がクロスをあげるとこのボールは一度はクリアされてしまうもしっかりとボックス内に人数をかけて押し込めていたため、これを楽々回収。

左サイドに残っていた横山、そして、菊井で2人ずつ引き付けて、シュートを放つとボックス中央は4vs4に。シュートを弾いたのはそのうちの1人の星なので山雅の選手が先に拾ったのもボックスに人数をかけていたからこその必然。得点を挙げるべくして挙げたといってもいい。

ファーサイドに人数をかけて、CBの頭を超えるようなクロスをあげるというのが今日の約束事として明確にあったように思う。

さらに

横山(歩夢)選手がサイドでボールを持った時に必ずクロスまで行くのがわかっていたので、後ろのサポートではなくゴール前に入っていくという選択をしたことが、まず1点目のゴールに繋がったと思います。2点目も横山選手がサイドでボールを持ちました。中に入って、相手にぶつかって運がいい形で僕のところに来ました。ゴール前に入っていったことが取れた要因ではないかと思います。

外山凌選手 公式コメントより

と外山も話している通り、横山のサポートではなく、ボックス内に入っていくことを選択したことで、相手は誰が外山を見るのかを明確にすることができず、どちらもほぼドフリーでシュートを打つ事ができた。

選手の判断力や自主性を高め、互いの相互理解を上げていくことで、選手個々のレベルアップやユニットでの崩しが見えるようになってきているので(藤枝戦の菊井→外山→小松のゴールもまさにそう)、一定の成果と選手のスケールアップには繋がっているのは間違いない。

逆に「選手の積極性やキャパが保てないと誰も仕掛けにいかない」というマイナス面も確実にあり、パフォーマンスの安定は戦術よりも選手個々に依存することになるので、選手の自主的な動きがないと同じシチュエーションでも中の人数が5人になったり、1人になったりする。今の方針を貫いていくためにも前向きなチャレンジやコミュニケーション、そしてマネジメントを行っていくことで良いバランスを取っていきたい

■終わらない試練

・安東の退場で再び逆境に……

これで2-1。直後にいわきが3枚替えをするがこれもそれほど効果的にはハマらず、10分が経過。ようやく慣れてきて、こちらも交代カードを切ってギアを上げる、あわよくば3点目を取って勝負を決めたい……。

そんな中で恐れていたファールトラブルが。
安東が相手のリスタートのボールを至近距離で止めてしまったことで"遅延行為"の反則を取られ、この日、2枚目の警告。直前のファールもかなりギリギリの攻防だったが、最終的には相手のしたたかさもあり、退場に追い込まれてしまった。リスタートへの意識は大事にしていたと感じるが、すでに1枚貰っていたので軽率なプレーだったのも否めない。が、チームとして中盤の守備を支える安東・パウリーニョがともにイエローを貰っていた状態だったのも考えていかなければならない。

ただ10人になったことで1人1人守備意識と「1点を守り切る」というチームの共通認識はより強くなる。また、ベンチワークも的確だった。

直後に小松に代えて宮部をWBに投入して前をボランチに投入。

中に絞ってくる前線、高い位置を取るSB、縦関係がはっきりしているボランチに対応できるような陣形に。

そこからあえて日高が低い位置を取って、途中投入の永井の走り込むようなスペースを作るような時間もあったが、ここは下川、そして、まだまだ元気な宮部でシャットアウト。前のスペースカバーも的確で、2人が完全に置いて行かれた唯一のシーンでは素早く駆け付けてピンチの芽を摘んだ。

左右のSHだと岩渕がストライカータイプ、永井が動き回ってガンガン仕掛けていくチャンスメイカー色が強いタイプになるので、相手は山雅の右サイドから仕掛けてくることが多かったが、ベンチ含めてこちらの対応が上回っていたので次のフェーズに入る。

・10人の要塞といわきの伸びしろ

75分あたりを過ぎても、サイド攻略からチャンスを数作れないいわきはしびれを切らし、パワープレーに移行。85分にはFWの鈴木に代えてCBの江川を投入し、CB家泉を最前線に。これまであまり行ってきた形で無理やりゴールをこじ開けようとしてくる。

山雅も疲れの見えた菊井に代えて住田を投入し、運動量や高さを補充。86分に外山に代えてCB橋内、横山に代えて榎本を投入して最終ラインを左から下川-常田-橋内-大野-宮部、その前にパウロ、前、住田が並ぶという盤石の布陣に。榎本も最前線で嫌らしい(時にはあからさまだったが……)プレー選択で時間を作ることに貢献した。

結果2-1のまま、試合は終了。いわきはめったにないシチュエーション、さらに得意のサイド攻撃で崩せないとみてパワープレーに踏み切ったがほとんど決定機は作れなかった。

この試合では有馬の欠場や新加入CB遠藤の初先発など様々な変化があったいわき。ここまで研ぎ澄ませてきたサッカーはぶらすことなく貫き、実際、山雅が今年取り組んできた球際や走力の部分でも後手を踏むことが少なくなかった。この試合は試合展開やこちらの対策もハマり、山雅側がそれをうまくいなした形になったが、昇格1年目で、若い選手も多いのもあって、J3の中でも伸びしろや可能性を感じるチームだった。

山雅は意図的に貫く部分と変化させている部分を作っているので、全部を真似することはできないが今後に向けて刺激になるような1戦、そして成功体験だったと思う。良いところは盗んで1か月後の再戦に備えたい。

■「停滞=死」混沌とするJ3

そして、避けなければいけなかった「連敗」も回避。

6連勝中で上り調子の富山と一時的に順位が入れ替わっていたものの、どうにか3位の座を取り返して上位戦線にも踏みとどまることができた。

しかし、これで第1グループは勝ち点1差で完全に4つ巴状態に。岐阜や愛媛の「本命組」もここからさらにギアを上げてくることだろう。連敗の福島が9位まで順位を落としていることからも分かるように一度の「停滞」は命取りになる。かつてないほどハイレベルと言われていたJ3は後半戦に向けて面白みも増してきている。

そして、次節はいわき-宮崎、北九州-鹿児島、福島-富山、岐阜-今治、藤枝-愛媛と山雅以外も注目カードが目白押し。ー波乱ありそうな週になっている中で、山雅は16位・八戸との試合。自分たちで状況を難しくするか、しっかりと勝ち点を詰めるかが試される。

山雅は直近のアウェー戦、長野に0-0、鳥取に0-0、愛媛に2-3と3戦勝ちがなく、長距離のアウェー試合ではパフォーマンス自体も低調。7月~9月はいわき、鹿児島、北九州、福島と遠距離アウェイが続くがその前にしっかりと勝ち星をあげたい。

また、現在4勝9敗1分けの八戸だが、ホームだと4勝3敗0分と勝ち星は全てホーム戦。全14試合で10得点21失点している中、ホームでは7試合で6得点、8失点と特に失点がかなり少ない。攻撃の核・萱沼は累積で出場停止、監督交代後2試合目の前節は初の4バックを導入するなどどう出てくるか読めない不気味さもある。スカウティングがハマらない可能性も少なくはないのでピッチ内外の柔軟性も出していける試合にしたいところ。

まだまだ自動昇格圏にも入れていない現状があるので、結果・内容に満足することなく、向上心を持ってしっかりと勝ち点3を松本に持ち帰りたい。

END


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