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神戸戦レビュー~初めの1歩~

2月4日に行われた今年初の公開試合となったPSM神戸戦。
開幕を2週間前に控えたJ1のチームとこの段階で対戦できるチームにとっては非常に貴重な機会であり、サポーターにとっても約2か月のオフシーズンの期間で霜田山雅を目にすることができる数少ない場となった。

まだ現段階なので完成度はもちろんまだまだだったが、今年やりたい事や現段階で重要視していることなど見えることも多かったので、今更ではあるが自分も新シーズンに向けてのトレーニングも兼ねて、簡単に試合の感想をまとめていきたいと思う。

■両チームのスタメン

・ヴィッセル神戸

事前に報道があったように欠場者が多数。
まだトライするところ、新しいチャレンジをしてみたい。シーズン中のオプションになるし、見極めたりする時期」と話すなど2週間前の時点では仕上げというよりは山雅と同じくトライの段階であることが伺えた。

外国籍GK獲得の噂は常にあったが結局現在3人体制のGKは前川が先発に。
小林(友)や槙野がチームを去った最終ラインだが、さらに守備の要である菊池が不在。SB起用が多かった山川がCBに入り、新加入の本多が左CBに入る。
中盤は怪我明けのイニエスタやサンペールが欠場。夏移籍の小林(祐)も移籍したため、大崎・山口・新加入の齊藤とゲームメイカータイプが不在の逆三角形となった。
3トップは左から汰木・大迫・武藤。ポルティモネンセSCから加入した川崎やスピードスターの飯野らも欠場だった。

・松本山雅

対して山雅は主力の離脱者は極めて少なめ
PSMとTMを合わせても欠場者はビクトル・小松・藤本のみと離脱者については順調に進んでいる模様。多くの選手を見ることができた。

全試合を通して試されたポジションはこちら

GK:村山→薄井→神田
左SB:下川→山本→浜崎→稲福
左CB:常田→志村
(→二ノ宮)
右CB:野々村→篠原→橋内
右CB:藤谷→宮部→二ノ宮
(→志村)
左DH:喜山
(→安東)→住田→米原
右DH:安東
(→喜山)→パウリーニョ(→浜崎)
OH:菊井→鈴木→國分
左WG:榎本
(→滝)→濱名(→ヒアン)
CF:渡邉→田中→新井
右WG:滝
(→榎本)→ヒアン(→濱名)

ここにGKビクトル、左SB藤本、CF小松が加わるはず。
ポジションバランスを考えると左SBを務めた浜崎や稲福はボランチ、新井はWG兼用かも……。

<PSMで見えてきた取り組み>

ここまでのキャンプや今日のPSMで

まず「どう相手のボールを奪うか」ということと「奪ったボールをどう相手のゴールに運ぶか」をセットにしてキャンプから練習してきました。

と話していた霜田監督。まずはこの2点についてどのような取り組みが試合の中で見られたか?を振り返っていく。

PSMの出場メンバー

■「どう相手のボールを奪うか」

・「堅守」への第一歩

試合を通して見ると立ち上がりが一番拮抗していたかもしれない。
ただ、力関係やスタイルもあって神戸がボールを握り、それに対して山雅がプレッシングをかける構図になる。

神戸は予想システム通り、1-4-1-2-3でボールを回すことが想定されたので、山雅はトップ下の菊井を1列あげ、安東と喜山が縦関係になる4-4-2の中盤トライアングル型で試合に入る。

神戸は齊藤は高い位置を取り、底にいる大崎の代わりに山口が下りてくるのが決まりごとになっていた。中盤で浮く形になる齊藤は滝と野々村でカバーしながらという形になったが、彼の調子の良さもあり、少し自由にやらせてしまったのは課題に残ったように思う。後ろは枚数的にマンツーマンのようになる時間は長いので、1.5列目に位置するFWやトップ下(IH)がいるとCBではなかなか捕まえづらく、かといってSHが捕まえ続けるのにも限界が出てくる。

・可変システムで変化を加える神戸

さらに、試合が進むにつれて神戸は形を変えて右SBの酒井を高い位置に上げて3バック化してボールを動かすように。この「右上がりの可変とSBを使ったサイド攻略」がこの試合を通してネックになってくる。

試合を通して可変システムだったのですが、前半はあんまりで、ビルドアップの面が特に良くなかったと自分の中では思っています。ハーフタイムでいろいろとしゃべって意思疎通をして、後半はある程度ビルドアップの形はできたかなと思います。

ヴィッセル神戸公式 試合後コメントより

と本多が話しているように、神戸視点に立つと前半は左右のバランスが適切とは言えず、この可変システムをうまく使い切れていないシーンも多かったが、それでも山雅の左サイドは高い位置を取るSB酒井のところで数的優位を作られ、決定的なクロスをフリーの状態で2度3度とあげられるようになっていく。

対して山雅も4-4-2のプレスから4-2-3-1⇔4-2-1-3も併用

これは
①中盤(後ろ)の数的不利を危惧した
②相手が3バック化したのでプレスの形を合わせた

ほぼ同時にこの問題が起こったのでどちらが理由かは定かではないが、恐らく②の理由が強く、菊井がアンカーの大崎を監視し、3バックに対して3トップでプレスをかけるように形を変えたと思われる(①ではないと思った理由は後ほど)。

さらにIHは右の山口が必ず下りてくるということで、安東と喜山の左右を変更したり、アンカーは菊井に任せて喜山安東の2人でIHを見るように。

これにより、中盤は3vs3で同数になり、前線からのプレスも無事かけやすくなった。ただ、最大の問題であった左サイドの「酒井・武藤・山口のトライアングル」の数的同位の部分はそのまま。下川が釣りだされたスペースを酒井や武藤、時には山口が活用し、常田がカバーに向かう→そこでの勝負or中の枚数が足りないという形は終盤まで作られ続けた(先ほど①ではないと思った理由は後ろの数的不利問題はあまり解決されていなかったため)

※ハイライト(0:05~)

※ハイライト(0:48~)

・最終ラインに求められること

ただ、このやり方をする上でこの形を作られるのはチームとしては許容範囲のよう。

基本は後ろのセンターバック2枚で、相手が2トップでも同数で守れるようになってほしいです。その後ろにはGKがいるので、ハーフウェイライン50メートルを2対2でそのままぶっちぎられるということはなかなかないと思っています。

山雅プレミアム 霜田監督試合後コメントより

と話しているので、(結果的には多くのピンチを作られてはしまったが)今シーズンは後ろが晒されたり、CBが広範囲をカバーしないといけないのは常として受け入れないといけないかもしれない。

この試合で多く作られた先ほどのような形も

<裏抜けしてきた選手+CF>vs<常田+大迫>という構図なので、基本的にはCBの対応領域になってくる。リスク管理を徹底してやってきたこれまでの山雅はもちろんのこと、多くのチームでは後ろはチャレンジ&カバーは鉄則。ただ今年はそうではないので、カバーに気を取られるとファーに離れていく大迫のマークが外れてしまったり、1失点目のようにマイナスに残る選手から距離が離れてしまうので2CBには高度な判断と対人守備、また物理的なスピードも求められる。

さらにシーズン始まってからネックになってきそうなのは、この2対2の組み合わせがどうなるかは相手次第になってくること。去年の山雅のように横山やルカオのような選手をシンプルに使ってくるチームや、WGにドリブラーやスピードスター系の選手を置くチームを相手にしても、CBが対応することになるので、スカウティングでそうした選手を意図的に置いてくるチームが出てきてもそれに屈せずやっていかなければならないだろう。

そして、もちろんSBも、ボールサイドの選手は裏のスペースへの帰陣、逆サイドの選手は昨年以上の"ブラインドサイド対応の技術"が求められる。

「誰が出ても変わらない仕組みづくり」を理想としているが、失点を減らすことを考えるとレギュラー組ですら基準に達してると言い難いので最終ラインの人選はかなりシビアになってくるかもしれない。

■「奪ったボールをどう相手のゴールに運ぶか」

・ハイリターンを生かす発想

とは言っても何の狙いもなく、ただいたずらにハイリスクをかけているわけではない。その分のリターンは出すことはできるので、「ハイリスクの部分をどう対処するか」というより「ハイリターンを生かして、最終的にプラス収支にする」という考え方が今年のチームの鍵を握ることになってくる。

山雅はJ参入後は歴史的に"失点を抑えること"を重視
結果を出すためには戦術面&攻撃の再現性の部分はどうしても後回しにせざるを得なかった。ただこれ自体が「間違いだった」ということではない。松本山雅はそのやり方のおかげで結果を得てクラブとして大きな財産や成功体験を得てきたのも事実。しかし、その分、その後のかじ取りやチーム作りが他のクラブよりもハードになったのもまた事実。そこのバランスは最低でも1年、もしくは数年にかけてやってみないと分からない、かつ時代の流れによっても変わってくるのでチャレンジと忍耐の繰り返しとなってくる。

話は逸れたが、山雅はクラブとしてもリスクとリターンの部分のバランスがこれまでのやり方では難しいということがこれまでの試行錯誤の中で明らかになってきたので、クラブとしても次のフェーズに入っていくことに。

失点のリスクを負ってでも、得られるリターン。
このスタイルでやるならば、失点(リスク)を上回る「得点」を得られなければ本当の意味での「リターンを得た」とは言えないわけだが、この試合ではまずは『リターンを得るための仕組みづくり』は見られることになる。

・後ろが薄い分のポジトラ整理

では、具体的にどのような仕組みづくりが見られたか。
立ち上がり以外は基本的には神戸に押し込まれる時間が多かったが、その中でもポジトラ、攻撃への切り替えの部分は大事にしている印象を受けた。

先ほども書いたように、昨シーズンまではハードワークと人数をかけた守備を行っていたが、その一方で奪ったら前線に残るのは1枚か多くて2枚のみ。技術面やスタイルの問題もあるが、前線にラフなボールを入れるも「物理的にフォローが間に合わない」というシーンも多かった。

対して今のスタイル。奪った後に違いがみられる。
例えばサイドで山雅がボールを奪い、トランジションが発生すると

前線に残っている2枚うちの1枚(主にボールサイドの選手)が下りてきて、もう1枚は前線でFWと駆け引き。逆のSHも守備で自陣深くまで戻ってこないので、いち早く逆のハーフスペースに走り込む。

それに合わせて残りのSHやSBが左右の大外を駆け上がる。
ボランチはボールを奪った選手ではなく、その後のFWのフォローに。ボールを貰うと考える間もなく、味方がいる先へボールを展開するという流れがシステム化されていた。

・長年の課題を克服できるか…?

システム化することによるメリットは「奪った後の人・ボールの流れを整理」し、「前線の負担を減らす」ことや「パスを繋げる距離感を保つ」こと。これまで山雅が苦しんできた奪った後のボールを繋げることもこれによって改善には向かいそう。

ただし、これまでの山雅、これまでの監督はそこを仕込めなかった、手を付けなかったというよりもネックだったのはそれ相応のデメリットの部分

まずは「自陣やゴール前での守備の強度は下がってしまう」こと。例えば去年まで自陣まで守備に戻ることが多かった菊井は前線に残るし、逆SHもトランジションに備えて自陣深くまで戻らないのでブラインドサイドのケアはかなり疎かになっていた。

そして「パスが繋がらなければずっと自陣から抜け出せない」こと。去年までであれば身体を張れる高崎や小松のようなポストプレイヤーやスピードのある大然や横山のような快速FWが陣地を挽回し、個人での打開が難しくなれば後半フレッシュな選手を投入して何とかしていたが、今後はそれは難しくなってくる。例えば神戸戦はそこの最重要人物の菊井が潰されるようになってから自陣から抜け出せなくなってしまったし、さらに象徴的だったのは後半の選手交代やTMでメンバーが変わるにつれて、連携面が厳しくなり、自陣から抜け出せなくなっていった。

奪った後のボールを再び奪われると前がかりになっている分、大ピンチになる可能性は高い。最初はうまくいかないことも多いかと思うが、そこを乗り越えれば個人に頼ることなく、無理なく、攻撃に転じることができるチームになっていく(はずな)ので、厳しくも温かく見守っていきたい。

■霜田式ファイヤーアタックの片鱗

ここまではチームが重視した「どうボールを奪うか(非保持・ネガトラ)」、「奪った後どうゴールに運ぶか(ポジトラ)」を中心に話を進めたが、保持の面でも高い位置を取るサイドの選手を使い、霜田サッカーを体現するような攻撃が何度か見られた。

例えばこちらの保持の時間には相手の大迫、そして時には1列上がってくる齊藤に対し、野々村・常田に加えて喜山が時折下りてきてCBとボランチが2-2、3-1の関係でボールを回し、プレスを回避。

そして、特徴的なのが組み立て時にSBが両方高い位置を取っての「ほぼ5トップ化」CBの常田・野々村から対角のSBを狙うという攻撃や昨季のようにブラインドサイドを大外のSBが狙うフィニッシュの形も何回か見られた。

※ちなみにレノファ時代は4-1-2-3でSBに1アンカー(主に三幸)とゲームメイカー型のSB(主に前)がCBとともに後ろで組み立てて、同じように前線に5枚の選手を並べていたが……

山雅のSB・ボランチのキャラクターが違うためか、後ろ4枚の組み立てや前線の5枚の作り方が違ったが非常に既視感が感じられた。

■TMの課題と開幕に向けてざっくりと

最後にはサブメンバーを中心にTMを実施。

TM出場メンバー

後ろからのビルドアップで存在感を見せた薄井、ドリブルから存在感を見せた濱名、良くも悪くも異質感満載の日本デビューを飾ったルーカスヒアン、J1主力級のパトリッキとバチバチにやり合った宮部ら個人では存在感を見せた選手たちはいたが、組織としてはチグハグ感が目立ち低調な出来に

特に2本目はまだ連携を取るところまで行ってない前線のユニットが、プレス時に本来の持ち場におらず、持ち場に戻ったり、ポジションを入れ替えたりしているうちに相手に前進を許すというシーンが多かった。

2失点目はルーカスヒアンが靴ひもを結んでいる間に組織に穴が生じ、スライドが多くなったことで右SBの二ノ宮が中央の井出とWGのパトリッキの2人を見なければいけない過酷な状況に。

来日初試合なのでそこで個人を責めるようなことはしないが、"1箇所に穴ができるとかなりあっさりとゴールを背負っての1vs1に持ち込まれてしまう"という実例なので、そのあたりもオフシーズンのうちにしっかりと叩き込んでおきたい。ちなみに1点目も何もないところから個人技で突破され、誰もカバーにもブロックにも入る隙もなく、開始5分で失点してしまっている。

霜田監督も

なぜきょうこのメンバーがスタートのイレブンだったのかが証明されてしまったゲームかなと思います。

山雅プレミアム 霜田監督試合後コメントより

と厳しめなコメントをしており、この時点では出遅れてしまっているが、対戦相手以前にまずは組織の部分を仕上げていくことが必須事項となってくるだろう。

J3では特に1年目、2年目の新卒選手のブレイクは必須と言っても過言ではなく、総合力の差も如実に表れることになるので、このあたりの選手たちの突き上げが無いと厳しくなってくる。光る一芸を持った選手たちばかりなので今後の追い上げに期待したい。


神戸戦の振り返りは以上。
(執筆段階で)開幕までは残り2週間ほど。完成形は当然のこと、スタートダッシュを決めるための一定の基準を超えるのにもまだまだ達さない可能性は高いが、それでも1つのきっかけで大きく飛躍できる段階でもある。

チームの可能性を信じ、開幕まで、そして今シーズンを通しての成長を温かく見守っていきたい。

END

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