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京都戦レビュー~大敗の先で得たものは~

この勝ち点1がどのような意味を持つのか……

降格圏から脱出するにはまだ物足りず、勝ちきるチャンスも十分にあった。ここで引き分けたところでまだ19位。一寸先は闇……どころかまだ闇の中にいるままである。

だが、愛媛戦、大宮戦、磐田戦とこの3試合での悪い流れを1度止めるには大きな価値のある引き分けとなったのではないだろうか

内容としてはトライアンドエラーのエラーを多く繰り返している段階ではあるが、その中でも勝ちに値するようなプレーも多く見られた。完璧にはほど遠くても今できることをやりきって、後は”結果”を残していきたい。

<勝手にチームMVP>

MVP:セルジーニョ
圧巻の2アシスト。高クオリティのクロスや背後へのボールで、昨季の1ゴール1アシストに続いて今回も2得点に絡む活躍を残す。セットプレーキッカーや果敢なプレスバックなどでも存在感を示すなどウタカ・バイスらJ2最強の外国人部隊に負けない反則っぷりだった。

次点:橋内優也
伊藤や河合を入れたいところだったが……4失点が続いたチーム状況の中、久々の先発で高い統率力を示した橋内を次点に。チームとしては2失点はしたものの、彼の働きがなければこれでは済まなかっただろう。クリア5・ブロック5というスタッツにもよくあらわされている。

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<戦評>

■大敗から中2日。苦しみの先は……。

8月15日の試合の延期分となったこの試合。
勝ち点57で勝てば首位という京都、勝ち点25で勝たなければ降格圏からは抜け出せない山雅。同じ「昇格」という目標を掲げながら、稼いだ勝ち点は2倍以上の差がある明暗の分かれるシーズンを送る両者だが、週末の試合では山雅は磐田に0-4、京都も昇格争い中の甲府に0-3と揃って大量失点&無得点で大敗。立て直すには両者あまりにも時間がない状態で、この”今シーズンを決定づけかねない試合”に挑むことになった。

山雅側は前節からスタメンを5人変更。
負傷した星の代わりにはしばらくベンチで戦況を見守っていた橋内が中央に入り、同じく久々となった大野、不動の左CB常田と去年の後半戦でスタメンを勝ち取った選手たちで3CBを組む。さらに嬉しいトピックスで言えば、ボランチに入った安東の復帰。主に守備面&運動量でテコ入れが必要だったこのポジションでいきなり先発に名を連ねることに。さらに右WBには普段はCBに入る宮部が入るなど全体的に守備への意識の強さが強く見えたスタメンになった。前節途中投入された外山と河合も運動量が求められる過密日程で納得の起用といえる。

対して京都も同じくスタメンを5人変更。黒木が今季初先発に抜擢されたほか、本多、宮吉、白井、福岡が甲府戦からの変更となった。クロス対応に問題を抱えていた山雅にとっては両SBの荻原が欠場、飯田がベンチスタートになったのは日程延期の恩恵を受けたと言っていいだろう(一番の恩恵は伊藤翔・セルジのコンディション面だと思うが……笑)。

それぞれ指揮官の立場に立ってみると、やりくりが難しい中でのスタメン選択になったことが伺える。

■狙い通りの先制点

・伏線は2度あった

序盤から高いインテンシティでゲームに入った両者。
いつもと少し形の違った陣形を京都側は若干様子を見ながら、色んなところを突くように攻撃の形を模索していく中、山雅側は外山ーセルジ間のサイドの縦関係から2分、6分と二度ほどチャンスを作る。

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伊藤はCBのバイス・本多間での抜け出しを狙い、ピン留め。外山(またはセルジ)は相手のSBを押し下げるように縦に走り、もう一人のスペースを作る

前節も一応近い形は作っていたがまだ即興感が強く、この味方のスペースを作る動きの方が中途半端でスペースが高い位置に作れず、ボールを貰う選手の位置も低くなるという現象が起きていたが、この試合では意図を持ってはっきりとSBを押し下げることができていた(加えて磐田とはシステム上の違いもあるが……)

この山雅のビルドアップに対して、慎重なチーム(相手の良さを消すことを優先するチーム)であれば、ラインを下げたり、WGを下げて対応するのが修正の定石ではある。そもそも2度のチャンスと言っても山雅はシュートにすらいけてないので放置でも良かった。だが、ここはさすがアグレッシブな京都である。ここで全く引くことなく、後ろのスライドでそれに対応しようとした(後述)。

だが、それ故に山雅の狙いと京都の修正がガチっと噛み合う、出会い頭のような形で先制点が生まれる。

1度引いて相手の良さを消すのではなくアグレッシブにそれに立ち向かう、京都のこの姿勢によってお互い良さをぶつけ合う展開になり、対山雅に関して言えば相性の悪さに繋がっているように思った(シーズンを通してみれば山雅に2失点を喫してもリーグ最少失点なので皮肉でも何でもなくさすがである)

・狙い切ったラインブレイク

しかし、そんな京都の姿勢や相性云々があったとはいえ、このアグレッシブに戦ってくる京都を裏返すような答えを山雅は事前に用意しており、一発回答で先制点に繋げる。

先ほど書いたように京都は外山-セルジの縦関係に対してSB黒木-CBバイスの最終ライン2枚がそれぞれ対応。

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ここで、山雅側は開いたCB間に伊藤がラン。これを見た本多は伊藤の動きを見て、ラインを上げてオフサイドトラップをかけにきていた。だが、これは罠。その裏で河合がワンテンポずらしてCBーSB間を抜けるランでオフサイドにかかることなく、裏に抜けることに成功。

元々はアンカー脇をウロウロしていた河合のこの大胆な動きは想定していなかったかもしれない。川崎周りから離れ、抜け出していく河合に白井が気づいた時には時すでに遅し。

序盤ということもありこのリスキーなスライドはチーム全体で共有できていなかったのか、最終ラインのメンツがいつもと違ったためか高いラインを裏返されてしまう結果になった。

ちなみに終盤あたりには途中から投入された鈴木が、同じく交代で入った麻田にオフサイドトラップを仕掛けられたシーンがあった。京都側は普段からこのオフサイドトラップを想定しているのだろう。

山雅側もそれを踏まえた上でのこの策だと思われるが、今後を考えるとこの河合の役割を違うタイプの鈴木や阪野、表原あたりもできるようになれば相手に応じて選手の使い分けが可能になる。4バックのチームだと特にこの形を山雅に作られると、逆SBの対応が難しくなってくる。

この先の3戦は東京V、金沢、北九州と4バック、かつサイドバックに攻撃的な選手を置くチームが続くため、セルジがサイドで起点を作り、CBーCB-SB間を残りの2枚、もしくは大外のWBも加えた3枚で狙う形は1つの武器として生かしていきたい⬇

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■一定の成果を得た修正と課題

・中2日での守備の修正

こうして久々に待望の先制点を得た山雅はここから勢いづく。早い時間だったこともあって京都はそれほど慌てることもなかったが、山雅は安東を中心にアグレッシブにボールを奪いに行き、これまであまり見られなかった敵陣の高い位置からのショートカウンターの形もこの時間帯は作り出す。

セットディフェンスでは、磐田戦では敵陣でシャドーが広がりすぎて、なかなか前に奪いに行けなかったところをCBにセルジがプレッシャーをかけにいくことで、前線を数的同位にする修正が見られた

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基本的には(山雅から見て)左に誘導し、特にハーフスペースや縦にボールが入った時には厳しめに寄せに行くということが序盤はできていた。

この試合では普段と違う5枚の組み合せになっていたが、チーム全体が左へとスライドしたい意図が見え、宮部は多くの時間で右SBのようなタスクに、大野と橋内が中央にいる時間が長く、常田はサイドまでスライドし、外山は一列前に前線に迷いなくプレスにいけていた。特徴的だったのは宮部で、ポジション的には右WBに入っていたものの、守備では右HV時と似たようなタスクに見えた⇩

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大宮戦(磐田戦)までは右肩上がりでSB役は宮部、中央は星、常田で挟んでいることが狙いとして多かった中で⇩

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大宮戦(磐田戦)では同じ並びで、そのまま左肩上がりにしようとして後ろのスライドが重くなっていたが⇩

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短時間で人の並びをリセット、再構築して見事に修正した(もしかすると宮部はサイドとしての評価なのかも)

中2日で、戦術的な積み上げが難しい中で伊藤・セルジのようなホットラインを生かし、左スライドがスムーズになるような組み合わせを見つけたのが監督自身か、コーチの助言があってかは分からないが、属人的な修正に長けているのはこういう時には強みになってきそうだ。

・重労働すぎるシャドーのタスク

ただそんな時間も長くは続けることはできない。
疲れや相手の速攻により、こちらの守備の陣形が整わないうちに京都が攻めてくる機会が増え、541で構える時間も徐々に増えていく。また、ウタカにも得点こそ許さなかったものの、抑えてたとは言えず、圧縮を保てないで何度もラインを押し下げられることも多かった。

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⇧こうなると自陣で仮に奪えても選択肢は前線に残る伊藤と近いサイドにいるシャドーしか縦選択がなくなり、相手に挟まれて、また攻撃を喰らうというループに陥りやすくなってしまう。また、カウンターを発動するにしてもシャドーの2枚が長い距離を走ってフォローに行き、ゲームを組み立て、仕掛けていかなければいけなくなるので攻守ともにタスクは多い。

伊藤や河合も個人で身体を張ってキープしたり、散らすのが得意なタイプではないので、このあたりは一長一短。特にセルジがいなくなると戦術そのものが大きく破綻する危険性もある。相手によって選手を使い分けをするなり、チーム全体で補い、底上げしていく必要が出てきそうだ。

この組み合わせ・戦術を絶対解とするのではなく、これまで新体制で取り組んでいる可変ビルドアップや3412のトップ下システムもうまく組み込みながら、特定の選手への負担は減らしつつ、少しずつ戦い方の幅を増やしていきたい(残り試合で完成するかは極めて微妙なところだが……)

■一難去ってまた一難、アップデートし続けろ!

今回のレビューは良い部分に多くフォーカスしたが、まだまだ課題は多く、1つ直ると1つ元に戻るという道のりの険しさを余計に感じる試合でもあった。

特に守備への意識は高くなった一方、奪ってからのビルドアップでは秋田戦、愛媛戦の時よりも「ボールを貰うためのスタートポジションにつくスピードが遅く、中途半端なポジションでボールを回しているため、その先で選択肢が作れない」という従来の問題点は強く感じてしまった。これは反町さんが言っていた「守り切って一息ついてしまう」という悪癖でもある。それによりこの試合では守備への意識は担保されたものの、その先の殻は結局破れない。どこにベースを置くにしろ、試合を重ねていくうちにこうした「意識」のキャパシティは広げていかなければならない。

ネガティブになっても仕方がないが、秋田戦のように最適解を見つけたかと思いきや、付け焼刃であるが故に新たに生まれた弱点を突かれてしまうということはこの先も起こりうる。そこはキャンプからここまでで自らが起こしてしまったことなので仕方ない。この先のシーズンではそこの弱みの部分はうまくぼかしつつ、良い部分(強み)が強く出ているうちに勝ち点を積み上げ、この難局を乗り越えていければと思う。

ただ、意識やチームの在り方について話したが、四の五の言っても試合数は限られてきているので、まずは目の前の結果、東京V戦の勝利である
日程的には山雅の方が圧倒的不利だが、この良い感覚を次に繋げるには早いうちに試合があるのも悪くない。今の形がハマっている内に勝ち点3を取りたいところ……。

前回の5連勝中に戦った東京Vとはお互いに状況は変わっているが、今シーズン初のダブルを達成して、降格圏からの脱出を目指したい。

END

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