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北九州戦レビュー〜ここを伝説の始まりに…〜

<両チームスタメン>

・松本山雅

スタメンは3名変更。

GKはここまでフル出場を続けていたビクトルに代わって村山が今季初出場。さらに途中出場から良い動きを続けていた龍平も初先発で左SBに。右SHには村越に代わって滝が2試合ぶりに先発に復帰した。

・ギラヴァンツ北九州

スタメンは1名変更。

前節復帰してボランチに入っていた永野がベンチ外に。大卒ルーキーで開幕までこのポジションに入っていた高吉1試合で先発復帰。

<記録>

・ゴール(11)
5:小松
2:菊井、村越
1:パウリーニョ、鈴木

・アシスト(5)
1:小松、下川、鈴木、野々村山本

・警告(6)
1:野々村、パウリーニョ、菊井、小松、住田(、武石C)

<戦評>

■今年イチ機能不全となった前半

・山雅対策がハマっていた北九州

試合が始まると序盤から両チーム縦に早い攻撃を見せ、いきなり両ゴール前までボールが運ばれる展開に。

その中で開始4分、最初にチャンスをモノにしたのは北九州
ひとつ前の流れでも右サイドで孤立した藤谷を2人で囲ってボールを奪いかけたシーンがあったが、今度は左サイドで孤立した山本のドリブルを読み切ってトランジションが発生、北九州がボールを奪って繋げたところから。

サイドの攻め残り、菊井が右サイドまで守備に流れていた影響で、左サイドで1対2の状況に

急いで国友がフォローに行くもそのまま上げられたクロスは常田がかろうじて逸らしてコースを変えるも、中央に侵入していたフリーの左SB乾のもとに。そのままほぼどフリーの状態でシュートを流し込まれ、先制されてしまう。

孤立するSBからボールを奪う流れ、そのあとの右サイド(山雅の左サイド)での2対1の作り方、WGがついていかないSBの中央侵入とデザイン性が高く、山雅のここ数試合での構造的欠陥を見事に狙いついたような攻撃。

山雅にとっては厚みのある両サイドからのカウンターで数的不利の状態を作られ続け、サイドからの確率の高い崩しをされたという意味でもお株を奪うような先制点を献上してしまった。

・偶然では無いロストからの2失点

前半はその後も北九州の時間が続く。

プレスの手を緩めない北九州は2トップが背中でボランチを消しつつ、サイドに誘導SBやSHに入れたところで圧縮、囲いこんで奪うor中に入れたところを潰すという流れがハマる。

山雅もその圧縮を交わす対角への意識は前節より改善されていた。が、エネルギーをかけてくる北九州を相手にサイドを変える余裕を作らせて貰えず、無理に展開しようとして奪われるというシーンも少なくなかった。

2失点目もまさにそんな形。住田のトラップが大きくなったところから、展開しようとしたボールを奪われカウンターに。北九州視点ではSHに入れるパスとそこからの落としは終始狙っており、2度追いが功を奏した結果となった。

個人でミスを減らすというのは当然必要だが、その前のシーンで相手のプレスを察知した常田が一度GKを使うように促しており、一度戻してやり直す手もチームとしてはあった。苦しい時に苦しいままボール回しをすることだけがチャレンジではないので、結果論ではあるが一度やり直して"再チャレンジ"することで防げたミス、失点かもしれない。

・前節の改善が見れた縦選択

ただ、山雅も対角への意識以外にも、ビルドアップで前節の反省を受けての良いチャレンジもいくつか見られる。

1つは2ボランチが捕まった時のサリーダ(3バック化)。
それまでの時間は4-4-2に対して2-2-5-1のような形でボールを回そうとしてハメられ続け、前節だとSBが低い位置に戻って4-2-3-1に戻ってしまうことが多かったが、

今節は極力SBを下げずに3-1-5-1に。CBがHVの役割を担うことで攻撃の起点になっていた(2点目はまさにその象徴といえる)

それでも前半はSBが戻ってしまうことも多かったが、その時は2つ目のチャレンジとして、2列目(特にトップ下の国友)がサイドに流れて縦のコースを作る動きも。

そこから受けた国友が孤立するorクロスをあげる役になる問題も新たに浮き出てきたが、こうした1つ先の課題が出てくるのはむしろポジティブだと捉えたい。

このように、特に前半は試合としては理想とかけ離れた内容にはなったが、前節の反省を受けて改善してきたポイントもいくつか見えた試合だった。

■試合を分けた最後の質

・勝ち筋があったセットプレー

そして、得点シーン。
1点目はセットプレーの流れからであったが

―その中で今日はセットプレーとクロスという形でも点が取れました。キャンプから狙っていた形、さまざまな仕組みから点が取れるのは今後にもつながるのではないでしょうか?

プレシーズンからずっと準備をしてきた形で点が取れるというのは非常に僕はうれしいです。

ヤマガプレミアム 監督コメントより

と話すように今年は去年に引き続き、セットプレーには力を入れてきた。その中でもこの試合は、先制点の直前のCKで常田がニアで合わせてあと一歩のシュートを放つなど序盤からキッカーのフィーリングと中の選手の動きがうまくマッチしていたように見えた

逆に得点シーンはキック自体は相手のクリアに引っかかってしまったが、相手のクリアミスをしっかりファーで待っていた野々村が叩き、完璧な形で小松のゴールをお膳立て。しっかりと味方の足元に落とすだけの余裕を持てていたことが得点に繋がった。

・2点目をお膳立てした2人の左足

そして、2点目は形という意味ではこの日……もっと言うと今シーズンで初めて保持からの流れの中からの得点に。

まさに先ほども書いた、後ろを3枚にした流れから常田が余裕を持って顔を上げ、裏に走り出していた龍平目掛けて正確なフィード。前線を5枚にすることでSBのマークにつかれることなく抜け出した龍平がそのまま左足で"あとは決めるだけ"の正確なクロスを上げ、完璧に小松が押し込んだ。

まさしく霜田監督が狙う、"優位性を作りながらの前進"→"確率の高いフィニッシュワーク"が再現された形となった。

もちろんこのフィードやクロスは彼ら2人のスペシャリティに近いものになるので、そうそう誰にでも再現出来るものでは無いが、こうした攻撃のパターンを増やしていくことが1年を通して戦っていく上で大切になってくるのだと思う。

・「伝説の始まり」になるか?

ここまで来ると小松のハットトリックも見たくなってくるのが"サポーターの性"というものだが、その待望の3点目はそんなサポーターの期待を上回るまさかの形で生まれる

1vs2で前半を折り返したところから、後半早々に同点に。相手も再び息を吹き返して3点目を狙いに来ていた60分台。

改善した点として見られた国友の縦への抜け出しから龍平がクロスをあげるとこれが相手に引っかかってしまい、大きく頭上に。そこで流れが切れてしまうかと思われたが、そのボールを小松がバイシクルでゴールに叩きこむ。戻りながらなので身体も流れてしまいがちだが、ボールはGKの手が届かない絶好のコースに飛び、年間最優秀ゴール級の得点が決まる。

彼にとってはこれがキャリアハイに並ぶ5ゴール目。FWが得点を取りやすい仕組みを目指している影響もあると思うが、このゴールは彼自身の状態の良さを示すようなスーパーゴールだった。

このハットトリックは間違いなく山雅史に残るゴールにはなるだろう。
しかし、この試合が"伝説"で終わってしまうことなく、"伝説の始まりに過ぎなかった"と後から振り返れるような活躍を今後とも期待していきたい。目指せ得点王。

■勝った時こそ冷静さも

・後半問題は解決されたのか?

そして、終盤になるにつれて山雅がペースを握る。
これまで交代選手がなかなかいい形で試合に絡めず、残り15分はシュートすら打てないという試合も多かったが、途中から入った下川や村越、國分も短い時間で流れの中からシュートを放つなど見せ場はそれぞれ作れていたのはプラス要素。さらに村越はFKから意表を突く形で今季2得点目を記録した。

交通の便はいいとはいえ、長距離移動となったアウェイ北九州の地で、これだけ運動量で勝ることができたのは、3得点という結果を受けて足取りが軽くなったなども考えられる要素ではあるが、個人的に一番大きかったのは"前半からエネルギーをかけていた相手の運動量が先に落ちて、相対的に山雅の選手の運動量が勝った"という印象が強かった。

それもそのはず、北九州の1点目がSB→SBの得点だったことが示すように前半は北九州が多くの時間、山雅陣内に押し込んでボールを支配し、プレスからの回収もハマっていた。

ざっくりいうと「山雅のやりたい展開」を掴んでいた北九州が後半ガス欠した結果でもある。恐らく山雅もこの展開は全く狙っていたわけではなく、逆に北九州の立場に立つと、自分たちで仕掛けて10本を超えるシュートを放った展開的にも、使ったエネルギー的にも、前半をリードされて折り返されてしまったのが大きな痛手となった試合だった。

・「設計図」の先に結果がある

ただ、チームスタイル次第では、"良くない前半自陣で耐えて少ないチャンスをゴールに繋げ、疲れてきたところでダメ押し"という展開も問題ないし、1つの理想ではある。結果を拾いながら選手のベースアップをし、チームの最適解を探っていくのも時には正解。

しかし、今年の山雅の理想像を考えるとそれとは真逆の時間が多くなってしまったのは今後に向けて反省点として大きい。穿った捉え方をすれば「(これまでのような)理想と反した展開の方が結果は出やすい」という見方もできるので、この結果を受けてここを拠り所にするのはチーム作りの上ではマイナスにもなりうる。

あくまで今年は「理想とする設計図を完成させることが結果に繋がる」という発想なので、結果が出ない時に"勝敗に囚われない"ということの逆もまた然りというのは頭の片隅には留めておきたい。良い部分は血肉にしつつ、冷静に地に足をつけながら自分たちのスタイルを完成させていきたい。

■次はホームで初勝利を

さて、次節は再びホームに戻り、沼津との対戦に。
アウェイでは3勝1分けと勝利が大きく先行しているが、ホームでは2分けと(まだ試合数が少ないのもあるが)まだ勝利を見せられていない。今度こそ3度目の正直で初勝利をモノにしたい。

沼津はここまで1勝3分け2敗で14位。
6試合で5失点(リーグ2位)、平均10.2本(リーグ3位)と失点や非シュート数は少なく、4得点(リーグ18位)と得点数で伸び悩んでいる。一方で、30m侵入はリーグ3位、ペナルティエリア侵入も6位、シュート数も14.3本(リーグ6位)と悪くなく、試合を見ていてもチャンスシーンは多く作れている。

SBが内側に入ってゴール前まで侵入してきたり、IHが飛び出してきたりとリスクをかけてのアクションも多く、どちらかというと攻撃面(保持時)で良さが見られるチームなので今は結果が出ていないだけで数字は当てにならない(どこかで爆発する)可能性もある。恐らく試合を通して相手に持たれる展開は長くなるかと思うが、山雅側が能動的なプレスで試合の主導権を握りながら素早くゴールを脅かすような展開に持ち込みたい。

END

(データはfootball labより)。

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