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千葉戦レビュー~塩試合のその先へ~

大混戦の中で勝ち点1を生かせるか

まだまだ続く残留争い。今節はアウェイの地で10位の千葉と対戦、苦しい展開ながら勝ち点1を獲得した。

本来であれば試合数を重ねれば重ねるほど取れる勝ち点の幅は大きくなるので、差は広がって間延びするというのが順位表的には自然なことではあるが現実はそうはいかない。実際にJ2の残留争いは勝ち点4差に9チームという大混戦状態に突入。今節千葉を相手に勝ち点1を加えた山雅だが、再び降格圏に転落し、19位になっている。

ただし、数字上ではポジティブな面も。
今節の結果をうけて山雅は3戦負け無しに、直近5戦も1勝1敗3分。ここ5戦の成績を残り10節に当てはめると勝ち点43で残留できる数字でもある(ちなみにここ5戦の成績でいくと大宮53、栃木47、相模原45、北九州42、群馬41、金沢39、愛媛39、山口38)。

このように「1」がどちらに転ぶのか読めないのが今の残留争い。当然、「勝ち点3を取り続ける事」ができるに越したことはないがそれが簡単にできればこの順位にはいないので、次にしぶとく「勝ち点を取り続ける事」ができるかは重要な事項であり、それができるチームは『残留力がある』と評価されることが多い。

さて、千葉戦の話に戻ると、この試合では両者の熱さはピッチ上から感じる試合ではあったものの、内容としては完全にワンサイドゲーム。今節だけを"点で切り取ると"「ただただ退屈な塩試合だった」のはスタジアムのリアクションからも肌身で感じたが、これまでの背景、そして残留争いへの戦略まで"線で繋ぎ合わせる"と興味深い要素が多くあった試合だったと思う。狙いを持って戦った上で相手の攻撃を無失点に抑え、勝ち点1を持ち帰ることができたのはせめてもの収穫であり、大きな成果だったようにも思う。

これまで押し込まれると容易に崩壊していたチームにどのような変化を与え、どのように戦い切ったのか。この試合で起きたことだけではなく、いつも以上に背景に着目してまとめていく。

<勝手にチームMVP>

MVP→村山智彦
前節のミスを取り返すようなビックセーブを連発。ここが決壊していれば前節のように同点・逆転と持っていくのは容易ではなかっただろう。次節は栃木戦ということでリベンジに向けて良い流れはきている。

次点→橋内優也
櫻川ソロモンとの空中戦・肉弾戦で奮闘。ライン統率を緻密に行ったことで中央をシンプルに使われるという機会は最小限に抑えることができた。カードトラブル後のチーム内外での振る舞いもさすがだった。

<戦評>

■わずかな違いで劇的な変化

・3CHという苦渋の決断

山雅は逆転勝利を飾った北九州戦からスタメンを2人変更。
宮部に代わって出場停止だった下川、負傷交代したセルジに代わって前節その後に多くの出場時間を得た河合と順当な入れ替えだった。

だが、これまでとの大きな違いとなったのが中盤の配置。これまではトップ下やシャドーを置いていたのとは打って変わって、3ボランチ気味(実際は1アンカー2IHだったはず)の構成になり、中盤2枚でピッチの横幅・立幅カバーしきれていなかったのを人数を厚くすることで改善する策にでる。

相手の直近の試合を見ても「FW櫻川ソロモンにシンプルに当てた後のセカンド回収」、「CH田口のゴールに直結する抜け出しやミドル」が千葉の武器になっており、そこで1度でも隙を見せると致命傷になりかねないのがネックだった。今の山雅のウィークポイントであり、勝てるポイントと見られると執拗に狙ってくるチームなので、2ボランチはいつも以上にマルチタスクが求められるという試合だった。

そこの良さを消すためにどうすべきか。
現状、ボランチの主力の離脱・タイプの偏重もあり、今の山雅にできることが「枚数を増やして3枚で中盤のタスクを分け合う」という結論になったのだと思われる。

だが、苦渋の決断だと感じたのは名波監督が求めてきた「後ろにかかった重心の改善」「先制点を取ること」など他にも様々なことは一度優先順位を下げ、まずはゲーム全体のバランスを崩さない事を重視してやっているような修正である点。負けはしなかったが、2トップの適性もその後ろの3枚の活動範囲も「このまま試合を重ねれば良くなっていく」というような次元の話ではなかったので設計としては致命的な欠陥はあった(これは恐らく監督・スタッフも織り込み済みなはず)。しかし、この試合では付け焼刃でも無失点に抑え、勝ち点を持ち帰れたのでこのギャンブルは成功と言っていいかもしれない。

・出場停止の鈴木の代わりに入ったのは…

対して、前節群馬・前々節愛媛と共にウノゼロで連勝を達成した千葉は出場停止の鈴木に代わって、ボランチやトップ下を主戦場とする高橋壱晟が左のCBとして抜擢。天皇杯ではこのポジションで試されたこともあったようだが、高校時代から攻撃的なポジションで将来を期待された選手なのでかなりサプライズ起用となった。

ただ、台所事情の苦しさからの苦肉の策・ギャンブル性の高い奇策というわけでもなく、ミラーゲーム気味になる山雅に対して、左サイドで高橋が起点となり、数的優位性を作って押し込もうという狙いが見えた。

山雅は左の河合がシャドーやトップ下でサイドまでカバーできるのに対して、右サイドは先発だった山口だけではなく、代わりの選択肢となる選手もどちらかというと攻め残りする選手が出ることが多いので対面する相手に左で高い位置を取られるとバランスは崩されることになる。そこを狙っての人選だったかもしれない。

■想定内と想定外の入り混じる右の攻防

・両者の変化によって起きた現象

そんな両者の思惑が組み合う形で始まった試合。
これまで千葉は3CBはそれほどリスクをかけず、攻撃参加する時もシンプルな関わり方がほとんどだったが、この試合では高橋は左で幅を取るような位置に立たせ、積極的にゲームメイクに参加させる。

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千葉のパターンとして同サイドのシャドー・WB、そしてボランチが底に関わり、枚数をかけずにシンプルに攻略しにかかるというのが基本だったのが想定よりも1枚多く、攻撃の選手(高橋)がそこに参加。

対面の平川・下川・大野のラインもマークを入れ替えながら、数的同位もしくは不利のサイドで粘り強く対応するも挟みこめないので奪いに行くまでは難しく、何度もクロスを上げられることになった。

これに対し、途中からは前線の伊藤や山口が戻って数合わせを行おうとするも、先ほども書いたように山雅は全体のバランスは崩された形になる。逆の河合も中央に絞って中央をケアしている状態なので前線は孤立状態に陥る。後ろの選手は繋ぐこともままならず、前線もタメを作れないので陣地を挽回する手立てが見つからないまま時間はすぎていくことに

ただし、3CHが失敗だったかと言われるとそうは思わない。特に「無失点・負けない戦いをする」という『目的』を遂行するのに中盤の枚数を増やすという『手段』をとったのは理にかなった策ではあった。またその目的を一度無視したとしても、これまでだと下手をしたら初手でこの数的不利を作られた時点で先制点を奪われていた可能性も十分にあるので、攻撃に迫力がなくなってしまったとしても中盤を3枚にしたのは致命傷を防ぐことに繋がっている。

もちろん、勝ち点を拾うことを重視=勝つ気がないではないのでここまでボコボコのワンサイドになることは想定はしていなかったはずだが、仮に押し込まれて挽回できない展開になっていたとしても終盤まで耐えきれるだけの準備はできていたと思われる。

・山雅の勝ち筋はどこにあったのか?

では、勝つための『理想』と『現実』の差はどこにあったのか。また、352のシステムでどこに勝ち筋を見出すべきだったのか。

今日でいくと、シンプルに前線を削ってでも中盤を厚くしているのでそこで攻撃でも守備でも+αを作りたかったのが正直なところだ。しかし、蓋を開けてみると、田口・熊谷の激しい寄せやボールを動かしてのゲームメイク、つまりは『ゲーム支配力』にほぼすべてのフェーズ(保持・非保持・トラジション)で圧倒されてしまったのは痛手だった。こうなると勝つのは難しい。

田口と熊谷は潰しも早いですしリスク管理した中でバランスも保っていました。クリーンシートが多いチームならではの立ち位置だったと思います。後半は少しプレスの強度が落ちて、我々にチャンスが来ると思っていました。恐らくプレスの強度自体は落ちたと思いますが、我々が出ていくパワーがなくて、後ろの選手がスローインをクイックで始められないくらい疲労していました(松本山雅公式より)

と話しているように共に90分の出場となった田口・熊谷の2人のところで、中盤3枚として入った5人の選手(村越は正確にはシャドーだが)が個or集団で上回る時間を作らなければ前の2枚と後ろの5枚が遮断されてしまうのは当然と言っていい。河合の個人技や平川の天才的なパスで一時的に打開できることはあったが、ここでもう少し上回る時間を作りたかった。

また、仮に遮断されたとしても成立するように横山や田中パウロらをベンチに置いておけば……というのも試合を見終わった上での1つの解ではある。ただし、試合後ではなく、試合前の視点で考えると

・千葉は本来はライン設定は低い
・先制されるとそれがより顕著になる
・現段階の最大の得点源は放り込みとセットプレー
・あくまで第一目標は「勝ち点を持ち帰ること」

などが主な情報としてあるので、守備で叱責されたパウロやスペースを好物とする横山よりも他の選手がベンチに置くのを優先されたのも納得感はある。一番恐れないといけないのは"先制された時に自陣を固められてカウンター戦術に切り替えられること"だったので、そこまで想定した時に限られたベンチ枠がこのように埋められることになったのだと思われる。
カードトラブルや、平川・橋内と怪我や疲労によるアクシデントの交代も重なったため、なかなか難しい試合ではあった。

■「ホームで勝負する」意図と展望

・重要なのはチーム内の意思統一

ただし"今後"という意味では、この試合で勝ち点獲得&クリーンシートを達成したからと言ってこれを続けていけば残留ができるかと言われればそれには疑問符がつく。

結果として勝ち点1を持ち帰るというのは一つ成長したところですし、負けなしのゲームが3つ続いたのもポジティブなものです。それからクリーンシートは13試合ぶりということで、長らくゼロで抑えられなかったところを、チームバランスが崩れていない相手、得点数こそ少ないですが攻撃力の迫力がある相手にゼロでやり切ったことは収穫だと思います。

まさに現時点の山雅だからこの勝ち点1は大きな価値があるのであっていつ何時でもそうというわけではない。

個人的にも試合後には嬉しさ半分、不安半分だったが⇩

試合後コメントや栃木戦にむけての事前情報を踏まえるとそこもクリアにはなった。チームの中ではこの試合では負け無しを続けることにこだわり、次のホームゲームに繋げるという意識の統一ができていた模様。レースに例えると、最低限の差を保ちながら勝負所はまだ先と見定め、どこかでスパートをかけていくのは戦略としては理解ができる。

・なぜこの試合で勝負をかけなかったのか

では、勝負所を先に置いたのはどういう要因があるのか。ホームとアウェイの違いか、怪我人の復帰状況か……。後者の話はここでは避けるべきなので、ひとまず前者のホーム&アウェイでのデータを振り返ると

■ホーム:16試合5勝5分6敗 平均得点 1.1 平均失点 1.6
→勝ち点平均1.25 
■アウェイ:16試合2勝5分9敗 平均得点 0.6 平均失点 1.8
→勝ち点平均0.6875
(データはfootballlabから引用)

勝ち点平均でおよそ2倍の差、得点数では0.5点と大きな差がついており、すでに30試合以上やってきているため明らかな差が生まれていると言っていい。さらにアルウィンというスタジアムの特性上、ここからコロナによる制限も緩和されていくのも後押しになるかもしれない
いずれにしろ、残り10節は『山雅はホームに強い』『ホームで勝つ』という意識の元でクラブが一体となって戦っていく事になるだろう。

ちなみに残りのホームゲームはこちら。

第33節 10.10 (日) 栃木
第35節 10.24 (日) 琉球
第38節 11.7 (日) 新潟
第40節 11.21 (日) 山口
第42節 12.5 (日) 長崎

理想は全勝、少なくとも3勝はしておきたいといったところか(アウェイでの直接対決は制す前提として……)。
現在の順位だけ見ると相手はアウェイよりも厳しいものがあるが、ここ5戦で勝ち点1しか積めていない琉球や去年39節ホームで快勝している新潟、最終節となる長崎など順位が離れた相手から勝ち点をぶん取れるか?はいかにも残留争いで生き残れるチームか否かが表れそう。

そして、特に栃木戦、山口戦は落とせない試合になってくる。ともに一時は安全圏ラインに踏み込みかけるもそこから再び降格圏辺りまで落ちてきた2チーム。何としてでも勝利をモノにして勢いをつけることでそのまま入れ替わってシーズンを終えたいところ。

現在15位の栃木は山雅と勝ち点差2。乾が契約上出場できないので前節からのメンバー変更は余儀なくされるが、代わりに出てくるのは久々の先発となる192cmの三國が有力。圧倒的に高さは増す一方で懐に入られた時の対応やカバーには難があるのでそこをうまくついていきたい。

前半戦では後味の悪い負け方をしたことで、強くその時の思いが心に刻まれたままの選手・サポも多いだろう。この段階で栃木に対してその時のことを責めるつもりもないが、その借りを返すのは今年=次節しかない。あの前半戦の相手に絶対に2度負けられないという強い気持ちを持って"ホームで"連勝を飾りたい。

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残り10節、恐らく最後の方まで辛くて厳しい残留争いは続くと思いますが、まずはその大きな一歩をアルウィンで踏み出したいです。栃木から勝ち点3を掴み取ることで順位もひっくり返し、残留圏を掴み取りましょう。一つになろうOneSou1!

END

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