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甲府戦レビュー~ジェットコースターの向こう側~

崖スレスレの土俵際で何とかしがみついているような状態が続く山雅。下からは救世主・宮崎という助け船の存在もわずかにちらつくも、周りの結果次第ではそれさえも意味をなさない状態になりつつある。

シーズンも終盤になってきており、Jリーグでは来季に向けての動きも活発になってきた。ピッチ外にも議論が及ぶことも多くなってしまいがちではあるが(自分自身そうなのでとても反省する)、それはそれとして今生き残ることに全力を注がなければならない。まあ、ピッチ外から何か働きかけることで内部の動きや重圧も変わってきそうなものだが、特に何もなさそうなのでそのつもりで問題を解決に取り組んでいくべきだろう。

まず名波体制を振り返るととにかく成績は振るわない。それは事実である。が、ハマらないパズルを何とか力技でハメようとし続けたことでピースの方が限界を迎えていた前半戦の反省を受けて、色んなハメ方でうまくハマる形を模索するところから始まった後半戦の戦いの成果は徐々に見えつつある。

それは前半戦ほぼ出番のなかった宮部や榎本の起用法、点の取れるユニットの形成、繋ぎの時間を挟んでのゲームプランの部分など……。『結果が必要な今やってる場合じゃない』というのはツッコまれるかもしれないが、これまでやってきたハードワークを主体としたハイプレス&中盤省略などの尖ったスタイルができない以上、いよいよ避けてきた道を通りつつ、それを結果に繋げなければいけないところにまで来てしまった(というのは柴田体制が失敗した時点でそうなのだが)。

状況は依然として厳しくあるが、落ちたくなければ足掻き続けるしかない。足掻くために監督交代の選択肢も目にすることもあるが、どんな名将を連れてきたとしても監督交代ですぐに上向くというのは山雅にとっては現実的ではないのでそこも腹を括るべきだと断言できる。それができるのは元の"あるべき形"があったり、経験のある選手たちで"ある程度形を作れるチーム"のみである。

話は逸れたが、まずは甲府戦を振り返っていきたい。

いきなり戦評に行きます。

<戦評>

■中盤の穴をいかにして埋めるか

山雅は前節の累積を受けて、河合・佐藤の主軸を両方欠くという今シーズン初の非常事態に。ここの穴をどう埋めるか?がスタメン選考では大きなポイントとなっていたが、負傷明けの前貴之が何とか間に合い(無理して間に合わせ?)、安東とともにボランチに入る。

GK・DF陣はは引き続いて同じメンツ。DF陣にはそもそも多くの選択肢は持てないが、ここ数試合の序列は星より野々村が少し抜けた感はある。
以前までは宮部は自らが得意とするSB的なタスクが多く、俊足の星がその分をカバーするという関係性だったが、今現在は宮部はどちらかというと大野の行っていたタスクをそのまま行っており、その代わりに野々村が中央に入りやすくなった。宮部的には一番輝いていた頃のプレーが出にくくなっているのはコンディション面以上にタスクの変化が原因だと思うが、その頃とはピースのハマり方が変わってしまったので致し方ない。CB中央で全体を動かす役割を与えられた野々村と共に宮部もルーキーながら、もう1つ先のフェーズへと移行している感がある。

そして、中盤は前・安東・セルジ。ここ最近行っていたアンカーシステムか2ボランチか意見は分かれるところだが、アンカーシステムにすると甲府側がIHセルジの後ろのスペースを狙いまくり、守備に走らせることは明確だったので2ボランチで攻守分業的な形を取り、セルジの負担を減らしたのは妥当性があったと思う。ただチームの構成という意味では佐藤河合→前安東ではできることと共にできないことも変わってくるので試し試しな感じは出てくる。

最後にFWは榎本・伊藤コンビ。何度か触れているが、榎本が得点に絡む時は必ず伊藤との2トップ時。チームとしてもここ最近得点数が伸びてきているのはこのセットが力を発揮できてるのが大きいのでここにキッカーのセルジを加えたユニットには一定の手ごたえを感じているはず。

対して甲府は野津田→中村のみ変更。どうやら体調不良だったようだが、甲府も中盤の主軸を欠くことになった。
ちなみに主軸ということでは甲府は10ゴール4アシストのエース泉澤を8月末から欠いている。それでもやり方を変えることなく、宮崎や長谷川、鳥海という若い、生え抜きの戦力でその穴を埋めているのは見事としか言いようがない。怪我人関係なく安定した戦いができているのはクラブとしての明確なビジョンと積み上げの結果だろう。

■見せつけられた手数の差

・手数勝負を避ける初手を狙う

さて、試合が始まるといきなり多彩なシステムの変化を見せる甲府とそれをさせないために手を打つ山雅という構図に入る。
あえて受けることで耐える展開に持ち込むのも戦略の1つではあるが、町田戦のように守りきろうにも守り切れない試合が多いので、この試合では先手を取る、あわよくば新潟戦のように先制点を取ることが理想だった

山雅の攻撃の中心は前節新潟戦のように榎本へのロングボール。3CB、またこの試合ではボランチの組合せ上、左の常田から放たれることが多くなる⇩

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この試合のスタートでは供給役の常田のサイドに合わせて、競る榎本、フォローのために前に出ていける安東を左に置き、さらにセルジが落ちていってもその分ボランチの安東が前線に顔を出して枚数を合わせようという意識は見えた。恐らく2点目のようにツインタワーの1枚に当て、中盤がフォロー、大外の選手がそれを追いこしていくというのは1つ決まった形として準備してきたはず。

非保持時は"相手の3CB中央の新井が上がってくる可変"のパターンをまずは牽制してセルジを中央に置き、2トップが左右CBへのプレス&ハーフスペース消しを担当。甲府WBは山雅WBが積極的に追い込みに行く。

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"曖昧なポジション"というのが1つのキーワードとして出てきていたが、システムの噛み合わせ上、そのままの形できてくれれば人を捕まえる守備で事足りる。可変してる時間が作れない序盤で主導権を握らなければ、徐々に相手は"能動的にこちら側を動かすための変化"をしてくるので、何としてでも先手を打って"こちらの攻撃を防ぐための変化"をさせたかった。

だが、この段階で早くも気になったのはリラへのロングボール。「蹴らせた」形でボールを出させていたシーンもあったが、収められたり、マイボールにされてしまうという場面が何度か見られた。野々村にとっては得意な部類の相手だったが、リラの185㎝/84kgのスケール感はなかなか体験できるものではない。さすがにここでは手を焼き、先手の奪い合いではやや後手を踏むことになる。

・甲府のオートマチックな変化

そして、かなり早い段階で甲府の配置の変化が見られる。しかも余裕を持って試合に入れたことで"能動的にこちら側を動かすための変化"をしてくる。
中央が上がる形でビルドアップが警戒されてると見るや、即座に左から配置をずらすような形に取り掛かる。

甲府側は「こういう形で来られたらこう対応しよう」という共通認識がシーズン当初どころか、前シーズンから出来上がっているチームなので、もはや選手間で話す間すらなくともこの形は描けていたのだろう。特別なことをすることもなく、自分たちにとってはオートマチックと言っていい、判断の早さでこの修正を行っていた。

これに対し、山雅は運動量のある榎本・安東を初期配置から右側に変更することでより広範囲をカバーすることになる。この判断もまた早かった。山雅の場合はある程度見極めの時間が合って、配置変更することはあってもそれ相応の時間を要するので、先手を取られた場合はこうするというのはこの試合に向けて事前に準備していたのだろう。

と同時に理想ではない方のルートに割り切って試合を進めることを選択する。

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下川はシャドーの宮崎にピン止めされてるので、名波監督の試合前の宣言通り、安東や前、そして榎本が「曖昧なポジション」を取り、時には50:50、時には60:40と立ち位置を工夫しようとする。

先ほど、「序盤で先手を打たなければいけなかった」という話をしたが、それは"チーム状況があまり良くないから""格上が相手だから"というだけではなく、榎本・安東を右のサイドに回すことにより攻撃で使いたいチームのエネルギーを守備に回さなければいけないことを意味する。
これにより山雅の攻撃の起点となる常田からのロングボールもこれまでとは違い、伊藤が受けるシーンが多くなった。本来先手を打って甲府にやらせたかった"相手の攻撃を防ぐための(守備的な)変化"を山雅側が早々に行わなければならなくなった。

・理想を言えばズラして対応したかったが…

ではそもそも「曖昧なポジションを取る」こと自体、適切だったのか?

恐らく、多くの人は"本来"この策は取らない。自分が作戦ボードを動かし、コントローラーを持って中の選手を操作できるのであれば甲府の変化に対して、こちら側も明確なマークやエリアを設定して選手を捕まえに行くだろう。

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例えばこのように下川を縦ずれさせ、荒木が中に入ってもついて行かせれば配置上のズレは無くなるし、曖昧なポジショニングは取る必要が無くなる。

もちろん監督もこれを分かっていなかったわけではないし、これまでこの形を放棄したわけではない。なぜそう言えるかと言うと就任当初、早い段階で手をつけようとしたのはこのWBを押し出す形だったからだ。5バックが5バックのまま守るのは現在のJ2ではなかなか通用せず、その後ろに重い陣形を何とかしようとしていたのが最初のステップだった。

が、山雅の抱える問題は思った以上に根深かった。
これまで5バックを一枚前に出していく形は一時的にはあれど基本形としてはやってきていない。後ろがスライドしてポジションを移動し続けるということはそれだけ最終ラインの連携やゴーとステイを判断する経験値・決断力、そして何より選手間のコミュニケーションが必要になる。

名波体制序盤、一番失点の多かった時期を振り返ると分かりやすいが、最終ライン間のギャップを使われての失点だけでも非常に多かった⇩

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この形をするにあたって後ろだけでもこれだけの問題点が浮き彫りになった。失点数を重ねてしまった上に怪我人の関係でその舵を切れる選手も欠いてしまい、後ろのキャパが限界を迎えないような現実策を取るようになっている。これはこの段階ではなく、もっと早くに手をつけるべきだった。

・新たに生じたルート

話を試合に戻すと荒木の中央侵入により、曖昧な位置取りを取らざるを得なくなった山雅はポジション修正の頻度と二度追いが多くなり、徐々に押し込まれる時間が増えていく。

さらにセルジが監視役になっていた新井はあえてメンデスのいた左に入ることが多くなり、それに伴い、中央のコースを消していたセルジもずらされる機会が出てくる。それによりCBへの牽制は薄くなり、中央に入ってきたメンデスが持つと誰もプレッシャーにいけない&中央のコースを誰も消せていないシーンが散見。

前半13分のシーンでは

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後ろに人数が余っていることにも大いに問題はあるが、山雅の初期ルールを逆手に取って、中央のコースを空け、足りなくなる中盤で一番スライドの間に合わない長谷川のコースを狙い、最短コースでリラにシュートまで行かせるという恐らくこの試合で一番いやらしい、泣き所を突かれるような攻撃を見せられた。

先制点を生んだコーナーキックを獲得した攻撃も、偽WB化する荒木と下川をピン止めする宮崎の関係性、そしてメンデス→長谷川の中央の差し込みが中心となって山雅の陣形は崩されている。

■次につながる攻撃と不協和音

そして、19分には先制点を被弾。直後の22分には給水タイムがあったがここを挟んで山雅は右の榎本を再び起点にして攻撃を仕掛けていく。本来これが最初にできれば違ったとは思うが……甲府がペースを落としたという側面も間違いなくあるだろう。

それでもあわや同点という、惜しいチャンスは何度かあった。31分にはサイドで外山と縦関係になったセルジを起点にして、前がダイアゴナルにラン。外山にいい形で預けてクロス→榎本のヘディングまで繋げるなど今後使っていけそうな再現性のある攻撃も組み立てられていた。これまでは前線で起点ができてもギャップを作り出すような効果的な追い越しが3列目以降からはなかったのでここは1つ好材料である。

しかし、この時間で気になったのはセルジの貰う位置。これは多くの人が案じており、選手側でも前や佐藤はこれまでにも何度かその点は話し合っている。安東もそこは気にしているようなポジショニングは取っているが、特に野々村や宮部が持った時のパス距離は異常に近い。素直にボールを渡してしまってるシーンも見られたのはチームの戦術的にも選手の関係性的にも良くないので、周り以上に当事者間の信頼関係で何とかしてもらいたいところである。

■狙いが見れた2点。だからこそもったいない悪癖。

そして、後半は怒涛の殴り合い。名波体制(正確にいうと三浦コーチの存在?)で明らかに改善されたコーナーキックのニアすらしは今の1つの得点源になっており、常田自身も徐々に感覚が合ってきた。最初の頃は正直上手いとは言えなかったので練習を積んできたというのは感じられる。

2点目も先ほど書いた狙いの1つで、片方のFWが起点となって中盤の1枚がハーフスペースで貰う、そこを大外のWBが追い越してクロスをあげ、もう1人のFWが空中戦を制するというツインタワー+トップ下のシステムの狙いがばっちりとハマった。この攻撃もイメージした形だろう。

これを前半からできれば……(2回目)というところだがこれを前半からやると運動量がまだまだある相手に対応されたり、後半でガス欠したりするのが今のチーム状況である。なんにせよ、相手が圧力をかけてきた時間を何とか凌ぎ、勝負の時間帯でこういう攻撃を繰り出すというのが下位チームが勝つための常套手段といったところか。

そして、全体が前がかりになった途端、守備が耐えられなくなるという悪癖もこの試合では露点した。

前がかりになるのは分かりますが、それでも自分たちがボールを握った時が初めて前がかりになれるチャンスだと思います。少しふわふわしていたのか、特に3失点目は全くやる必要のないシチュエーションでした。(無料コメントより

WBが前がかりになって裏を取られたり、マイナスに入る選手やリスタートへの意識が緩慢になるのはざっくりいうと「集中力」。さらに細分化していくと集中するポイントを見極める「経験則」や「注意力」の部分ではないかと感じる。気持ちがなかったというわけではないとは思うが、勝負の世界なので「若さ」を見せるとやられてしまう。

■最後に

最後は駆け足気味になってしまったが、、、序盤で山雅を惑わせた手数の差、チームとしての積み上げ、勝負強さ……上位に行くチームとの差を見せつけられる試合となった。しかし、自分たちにベクトルを当てるとそういうチームを相手にしても改善はいくつも見られるようにはなってきている。何よりスタッフ陣のゲームプランの構築や選手の特長の把握がようやく追いついてきたようにも感じる(ここは現場の非というより、元から山雅にいた側の人間がどれだけ伝えられていたか少し思うところはある)

焦ってバランスを崩したくなる気持ちもあるが、縦ずれのようにいきなり理想の地点には追いつけない、焦って前がかりになっても裏返されてしまうのと同じで、地に足をつけてやり続けることの重要さもある

目の前の試合に関しても『3戦全勝』というミッションをクリアするにもまずは山口戦を勝たない事には始まらない。俺たちのアルウィンでこれ以上は好きにはやられたくはないという気持ちをスタジアム全体で見せていきたい。各々思いはあるかもしれないが、それを乗り越えて残り3戦、チームのために関わる全ての人が『今できる全力』をぶつけていこう。

END

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