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鳥取戦レビュー~網を超えるのは槍か回り道か~


<両チームスタメン>

・松本

優位に試合を進めた愛媛戦からメンバーは変更なし
安永は加入後から3戦連続先発。国友も同じく3戦連続となった。

サブは宮部に代えて龍平が今治戦以来のベンチ入り。
また、榎本に代わって住田がベンチ入りしている。

・鳥取

前節は鈴木の出場停止を受けて4バックにシステム変更。これが功を奏し、北九州を相手に3-1で快勝。

増本監督からは北九州の5バックを想定してのイレギュラーなシステムという話は出ていて、加えて今節は鈴木が戻ってきた代わりにSB/WBの田中(恵)が出場停止。スタメン表からはシステムが読めないところからのスタートだったが、ふたを開けてみると4バックの継続を選択。

普段はCBを務める鈴木が右で起用され、それ以外は変わらず試合に入った。

<記録>

・ゴール(33)
13:小松
5:菊井
3:村越、滝
2:パウリーニョ、野々村、鈴木
1:榎本、山本、渡邉、OG

・アシスト(23)
5:菊井
3:小松、下川
2:山本、滝、常田
1:鈴木、野々村、榎本、住田、渡邉、村越

・警告・退場(27・2)
5:菊井<1>
4:野々村<1>
2:山本、パウリーニョ、滝、藤谷
1:小松、住田、榎本、下川、喜山、渡邉、常田、安東、安永(武石C<1>)
0:村越<1>

<総括>

■対策を乗り越えるには……

・序盤の流れを引き寄せた今年の"型"

八戸戦、愛媛戦と優位に試合を進める時間を多く作れていた山雅。監督・選手からも内容面での手応えの声は聞かれ、これをベースに戦い方を固めていくとともに鳥取戦は今度こそ勝ち点3を狙う。

一方、こちらも監督交代から無敗を続けている好調・鳥取。以前は4枚の前線が精力的にハイプレスをかけて即時奪回からのポゼッション&前線4人の個人技での突破が持ち味だったが、交代後はプレスの部分を修正。ミドルプレスも交えながら相手の良さを消すことに重点を置き、それがうまくハマっている。

今節も引き続き、最近の戦い方・良い流れを継続してやっていきたい山雅とそれを消すことに重点を置き、自分たちの流れにもっていきたい鳥取という構図で試合が進む。

試合が始まると山雅側は相手のシステムや配置に対して様子見感があったが、そこを掴みだすと徐々に流れを引き寄せる。

開始5分には右サイドでボールを回していたところから常田→下川へと大きく展開。これによりSHの守備網を超えることに成功し、SBが下川のところにスライドすることに。

そのタイミングで中に潜っていた滝が裏のスペースに走り出して、CBを釣りだすところまでは左サイドは何度か再現性をもってやれていた。

この左サイドの常田→下川→滝の裏という流れはシーズンが進むごとにオートマチックに繰り出せるようになっている。相手の体力がまだある序盤でも、相手がどこであっても、一定有効性のある手段であり、誰かが無理をしたり奪われたりするリスクもそれほど多くない。

"相手のSHを超すための立ち位置"は霜田監督が開幕当初からこだわっている1つの型で、この試合でも"いかにサイドが高い位置を取って相手のSHを越すポジション取りができるか?"はポイントだったように個人的には思っている。

一方、最近ではSBが下りてきてボールを受けたり、ボランチの個人戦術を存分に使って狭いエリアを掻い潜ることでうまくいっていたところもあるので、この試合ではその成功体験に頼り過ぎてしまっていた部分は少しもどかしさを感じた。

・山雅のプレスを裏返す鳥取の準備

そして試合が進むにつれて鳥取の山雅対策は随所に見られるように

例えば、1点目に繋がった野々村と重松のマッチアップ1つ取っても、純粋な競り合いでは勝てないのは織り込み済みで、KOの競り合いからCB陣のタイミングをずらす、飛ばせないような競り方をしてきていた。

さらに試合を通してほとんど掴められなかったプレス面(鳥取の保持面)は、鳥取側が山雅のプレスの特性を逆手に取っていて、序盤の山雅寄りの流れを変えた大きな要因だったように思う

鳥取は低い位置から1-4-2-3-1でビルドアップをするのに対して山雅はボランチを上げる4-1-3-2のプレス。

これまではボランチが上がり切れず相手のアンカー役を使われた時もあり、安東安永ではその問題は解決されたが、鳥取は長谷川&世瀬のキープ力と技術がある2枚が底にいてゲームを作っていたので、安東が出て行っても的を絞り切れず。GKやSB経由で逃げられるということが多かった。

時間が経つと、これを捕まえるために安永も高い位置を取って2トップ+2ボランチで相手の5枚を捕まえにいくようになったが、これは織り込み済みと言わんばかりに次はロングボールを使われるように

前線では重松がCBを飛ばせないようにして、競り勝てなくても縦関係にいる普光院がこれを回収する流れを作られる。

まずはCBが重松の妨害を受けてもボランチまで飛ばせるのが理想。だが、そうは言っても相手のGKからDFラインの背後に蹴られると下がりながらのヘディングになるのでなかなか難しい。

蹴らせるにしてもCBの手前や普光院の位置に蹴らせれば、2CBは前に出て弾くことができ、両選手の噛み合わせ的にも負けることはなかった。

この試合でもそこからチャンスを作れていたので前線に6枚割くのであればもう少し楽に蹴らせないようにしなければいけないという見方もできそう。

(あるいは2ボランチが両方出て行かなくても済むように2トップにもう少しボランチのケアをしてもらうのも手)

・尖らなさの代償

保持時にも4-4-2で山雅のボランチを消しながらビルドアップを監視。ボランチに入ったらFWがスプリントしてでも潰しに来ていたのでチームの共通認識としてボランチに持たせないことは徹底されていた。

シーズン序盤はSBは下がらずにWG化を続け、CBとボランチで何とかするを続けていたが、この数試合はSBが下りてきてボールを受けることが多かった。

ここ数試合はSBが個人で打開したり、ボランチが受けて展開が1つのパターンになっていたが、鳥取SHは下りてくるSBにはついていかずに無視。これまでとは違い、SBへのプレスは捨ててボランチのコースを消すことを徹底していたのでそこからの展開が限定され、再びCBに戻すというシーンが多かった。

一応、後ろを3枚にしてSBを押しだそうという動きも見えたが、消すボランチが1枚になったことでFWのカバーシャドウの負担が減り、それほどの効果は見られず。何度か菊井が下りてきてそれまで安永がやっていたタスクを行うようになって一見ボールは回っているように見えたが、その先の前線やサイドで枚数が足りなくなり、結局スローダウンすることに。

結局、SBも下りてきて後ろが5枚近い状態で重たくなっているだけになってしまっていたので、根本的な問題解決からはより遠ざかっていたように感じる。

もちろん理想は2つのモードを状況に応じてスイッチすることだが、それは基本編を一通り終えたビルドアップ巧者のチームの領域。山雅は明らかに基本編も終えられていないのでもう少し鍛錬を積まなければならない。

■遠かった2点差

・ハイリスクをプラスにできるか

また、選手コメントからも多く聞かれたが、根本的な話として「先制点、そして2失点目を先に取られてしまった」ことがゲームを難しくした。

1失点目は相手のゴールキックから。
CBと重松の競り合いは何度か反則を取られることもあったが、このシーンでは(背後からではあったものの)比較的クリーンに重松が胸で落としてみせ、そこから3vs4の数的不利に。山雅は元々相手の4枚に対して4バックが対応する形なので、カバー役は全く残していない。DFからするとシュートの確率を減らす選択をするのが精いっぱいという感じか……。

2失点目は山雅の左サイドから。
大元を辿れば、2CBに前進を許して混乱が生じたのも2トップを当てている山雅の構造上痛かったが、その流れで増谷のクロスが上がり、GKとFWが接触している間にマイナスで待っていた牛之濱にヘディングを叩きこまれた(接触が無くても止めるのは難しい絶妙なコースだったが)

相手の公式コメント

増本(浩平)監督やコーチからの情報であのポジションが空くということだったので、チームとして狙っていたところでゴールを決めることができました。

というコメントが出ている通り、サイドでクロス対応している下川のスペースは安東が埋めていたので構造上あそこは空きやすくなってしまう。もう1枚のボランチかSHが埋めるしかないが、相手の方が1枚上手だった。

これで前半36分までに2失点。
メンタリティ的にも戦術的にも、一応「2点を取られたとしてもやることは変わらない」「殴り合い上等でいく」のが今のチームの本来の良さだが、相手はそういうわけではなく、2点を取ったことで余裕を持ってミドルプレス&カウンターにギアチェンジを行ってきたので、ゲーム全体を見るとここから大きく変わることになったのは否めない。

その前に山雅が相手ゴール前まで迫るシーンも何度かあったので、そこで決め切るところにももう少しフォーカスしていきたい。

・本来の強みを取り戻しての追撃弾

後半に入ると菊井と国友のポジションをチェンジ。
非保持ではいまいちスイッチが入らなかったプレス面では小松菊井の組み合わせで安定。保持面でも基本に立ち返り、左右SHがどちらもSBに近い距離にポジションを取り、滝・国友ともに相手のSBの裏を取る、中で受けてSBとのコンビネーションでサイドを攻略する攻撃が増えていく

恐らくボックス内での仕事を期待されていたであろう国友が、サイドでの仕事に追われて良さが出せなくなっていた点は少し気になったが、それでも全体の立ち位置は前半よりもいくらか整理されていたと思う。

後半11分には下川に代えて龍平、14分には安東に代えて住田を投入。アクシデントもあり、かなり早い時間に2枚の交代カードを切ることになったが、左利きの2人が入ったことによって左サイドが活性化。相手の2トップの脇に住田が下りて龍平を押し出し、相手を押し込むようになっていく。

菊井のゴラッソFKを生んだ流れも、同じような仕組み。
常田→龍平と受けたところで住田が裏のスペースへラン。そこで生まれた手前のスペースで安永が受けたところ、相手からのファールを貰ってFKを獲得した。

交代直後で体力面での分があったとはいえ、ボランチが相手の動きを見ながら形を流動的に変え、SBは高い位置を取ってサイドでの数的優位性を作るという基本に立ち返るような攻撃の流れから得点が生まれたのは好材料。2人目の交替からの10分以内、試合時間も残り20分ある中で1点返せたのは希望が持てるような展開だった。

・システム変更も無力化……

そこから得点の直後に3バックへと布陣変更。3バック+1アンカーの実戦では初めて見るような配置に形を変える。良い流れから同点に追いつき、流れを掴んだところでさらにその勢いを加速させようと仕掛けにかかる。

交替意図としては①3バックで早めにサイドへと配球する狙い②SBを高い位置に上げる狙い、③ボランチ(IH)を飛び出しやすくする狙い④前線に2枚のストライカーを置く狙いがあり、78分にはそのお手本のようなシーンが見られた⇩

だが、流れの中からの大きなチャンスはこのシーンくらい。

その直後の81分には鳥取が3バックに変更。ユーティリティの普光院が右に入り、いつも通りの3バックに布陣を戻す。

①の3バックには1トップ2シャドーで対応②両SB(WB)にはWBを③のIHの飛び出しは3枚目のCB④2枚のストライカーにも残り2枚のCBを当てて、山雅のシステム変更で生まれた位置的優位性を潰しにかかる。

こうなるとズレは生まれないので、個人で打開するか新たに自分たちで能動的にズレを生むしかない。しかし、住田が下りなければ3バックに蓋をされ、下りて4バック化してもその先のWBは捕まっており、このシステムの肝である安永菊井は時間が経つにつれて疲弊していくので2トップまでなかなかボールが運ばれない。

残されたメンバーの中では右サイドの藤谷が一番個での打開を狙えるポイントになるが、彼のスピードでもさすがにこの時間は縦に抜ききるのは難しかった

鳥取は最後の交代カードで長谷川に代えて知久、牛之濱に代えて遊馬を投入。前線の3人を全員フレッシュにしてさらに前からの圧力を強めていく

そのまま最適解を見つけるどころか、残り時間の少なさから徐々に強引に前線にボールを送るパワープレー気味になっていき(いっそCBの1枚を前線に送った方が結果的には良かったかもしれない……)、そのままタイムアップ。1点が遠く、痛い敗戦となってしまった。

■痛恨の8敗目で直接対決へ

これで成績は8勝8敗5分けのイーブンに。順位も8位に後退

上位陣が揃って勝ち点を積めず、昇格圏との差は「8」なので"絶望的"とまではいかないが、18位(ワースト3位)福島との差も「6」しかなく、混戦模様が良い方にも悪い方にも転ぶ立ち位置となっている。

そんな中、次節は"昇格圏"である2位・富山との対戦。
山雅にとっては6ポイントゲームどころか、1年の分岐点になりかねない直接対決となる。

ここまで山雅と2失点少ないだけの27失点も、得点数は前節の2得点で山雅の35得点に並び、リーグ最多に。トップスコアラーは高橋の7得点(山雅は小松の14得点)と突出した選手はいない一方で、それだけまんべんなく点を取れているのが特徴的。

また、期待値自体はリーグ全体でも高いほうではなく、流れ関係なくゴラッソを決めてしまうことが多い。スタッツで見ても30m侵入は17位、PA侵入14位、シュート数14位、チャンス構築率15位とチャンス数や確率の高い攻撃を実行できていないにも関わらず、得点数はリーグトップなので、要はコスパが圧倒的に良い。少しの隙も与えない集中力が必要となってくる。

さらに厄介なのが守備面(非保持面)
失点数自体は先ほども書いたように決して少ないチームではないが、前向きに矢印が向いた時のハードプレスが連動性があって非常に圧が強い。前回対戦でも先制点はビルドアップから徹底的にパスコースを消され、蹴らされた形になったところから回収→ショートカウンターでわずか3タッチで得点を決められた。

これまで突破できていたようなSBや国友の個人突破も奪いどころにされているシーンも多かったので、そこに頼るのは諸刃にもなってくる

勝ち点差を考えれば、なりふり構わずなんとしても勝ち点3を取りに行きたくなるところだが、焦ってチームのやり方から外れ、雑になったり、苦しくなって個人勝負で突破を図っても、そこを奪いどころにして素早い攻撃から得点を奪う富山の思う壺になりかねない。

絶対に勝ち点3を持ち帰るというパッションは持ちつつ、今年大事にしているロジックの部分はこれまで以上に強く、冷静に持ち続けることが強敵撃破のカギになってくるだろう(口で言うのは簡単だがこれが一番難しい……)。

負ければ11差、勝てば5差。
状況は好ましくないが、富山という昇格圏の"壁"を乗り越えることで得られるものは大きい。勝利を掴み取り、これを転機の1戦にしたい。

END

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