風景画杯 優勝作品発表

こんばんは。
講評を書いただけなのにほうぼうから偉い偉いと言われてニマニマしているハクゾースです。こんばんは(二度目)。

講評の公開から優勝作品発表まで間をあけたのは、単純に一度冷却期間を置きたいなと思ったのが理由です。甲乙つけがたいものがたくさん。具体的に数えてみても10作以上、メチャクチャいいなと思っているものが並んでいます。どうしても読んだ順とかに影響されてしまうのと「好み」というのを排除できないので逆贔屓が発生してしまうんですね。
ですが幸いにして、わたくしの特技の一つに「忘れる」があります。
これは、常時発動のデバフでもありますが、アクティブスキルとして使うこともできるからこその特技です。よし、忘れるぞ、と決めると割とマジで忘れることができるため、一度脳を更にして、新しいゲームとかも初めて、自分の連載作も再開して、そんで、もう一度優勝候補作を読みました。
読み始めたらやっぱりどの作も面白くて、何度か読んでしまいました。今回、色々なとこからこのコンテストを探して、見つけて、送ってくれた諸兄ありがとう、言質とって追いつめた諸兄ゴメン。ともあれ皆さま、本当にありがとうございました。

はじめに

真面目な話をすると、このコンテストの目的は実はマジで「なんもない」のがスタートでした。自分の書いたものをたくさんの人に読んでもらえる機会があるといいなあ、とかその辺のことをぼんやり考えていましたが、どっちかというと、自分と似たようなものを書いているひとや、好んでいる人がどのくらいいるのかなあ、という興味のようなものが一番だった気がします。

実益という話から言うと、マジで特にありません。ここからオンラインサロンに勧誘して月会費でガッポガッポとかもありませんし、投稿いただいたものを勝手に出版してガッポガッポもありません。まさに清貧、商売下手。タイムラインのディオゲネス。いつか食うのに困ったら、いつか諸兄のとこに「悪いけど百億円貸してくれ!」って尋ねていくかもしれませんが、いまのところ大丈夫ですからご安心ください。
まあ、与太はともかくとして、全作レビューも何かの修行のつもりとかではなく楽しんで書けましたし、自分でも参加作、まあまあ満足のいくものが書けました。だからわたしは今、たいへん晴れ晴れした気分でいます。

体感的に、風景画のような小説を好む人というのはそんなにいない気がしてました。ふたを開けてみたら、意外にもこういうの好き、と言ってくれる人が多くてびっくりです。嬉しい誤算ですね。
でも、それはもともと名前のないカテゴリでした。どんなの書いてんの、と問われて答えられない場面を割と何度か通ってきました。

「特に何も起きない小説を書いてんだよね」

要約するとこうなってしまうのだけど、誰がそんなものを読みたがるものか、という話です。なあんだ、という目で見られて何度か口惜しい思いをしました。でも、これからは「風景画みたいだけど、読んでて面白い小説」を書いてるんだよ、と言えるような気がします。今回、応募してくださった皆様のおかげで「風景画みたいな小説」という概念にメチャクチャ箔が付いた気がします。
これ、今回出品してくださった皆さんも使っていいですからね。どんなの書いてんのって言われて困ったら「風景画みたいだけど、読んでて面白いやつを書いてんだよ」って言っていいです。これは一つ目の副賞です。そう答えて、もし、何言ってんの、って顔されたら鼻もいでやりましょう。わたしは躊躇なく、耳たぶまでもぎます。

さてあんまり前置きが長くなってはいけませんね。カリフォルニアロールと朝礼の談話は短いほうがいい、と申します。ささっと発表してしまいましょう。

栄えある第一回風景画杯を手にしたのは、なんと二作品です。そんなのありかよ。ありです。ひとつに決められなかったら両方とも優勝。わたしはいつの世も自由だ。

ひとりめ

ひとつめの作品はジュージさんの、「指を拾う」です。

投稿一作目、トップバッターが優勝というのは実際のところどうなんだろう、という逆贔屓の目で何度も読み返したんですが、この鮮やかさ・完成度はどうやってこねくり回して悪いところを探そうとしても、一切毀損されることがありませんでした。
これね、皆様まだ読んでない方なんてのはいらっしゃらないと思うんですが、もう一度読み返してもらいたいです。国語の教科書に載ってもいいと思います。どこにも詰まるところがない。ぜんぶが平易で、ぜんぶが名文。これを教科書に載せて、面白さを損なわずに要約しろ、という課題を出して全国の小学生を泣かせたい。
しかもここには、ただ指を拾うという異常な面白さだけを書くのではなく、きちんと詩情もあり、情景もあり、「指」のパートを全部カットしたとしてもじゅうぶん成立する面白さ、異常さがあります。
その面白さに飽き足らず「落ちてる指」を拾って食べてるひとという要素を他の部分と同じ解像度でぶち込んでくるというのはちょっと常人では辿り着けないすばらしい才だと思います。順序としては逆で、「指の落ちてる川原」の奇想から始めて他の部分の解像度を上げる書き方だったのかもしれないけど、だとしても異能。ちょっと正気ではなかなか為しえない領域です。部分部分の粒のそろい方がすごい。しかもヘッダ画像まで作ってらっしゃる。あまつさえレタリングまで。これで投稿一番乗りですよ。完璧超人か。完全降参です。
というわけでおめでとうございます。一人目のチャンピオンはジュージさんです。

ふたりめ

ふたつめの作品はmidoriFantaさん「あんなに月が綺麗なのに今夜は月が出てない」です。

こちらも、わたしがゴニョゴニョ言う前に作品を読んでもらった方が早いと思います。まず読んでみてください。
正直なところ、完成度がメチャクチャ高いという小説ではないと感じます。散文的な部分もあり、ブロックごとにジャンプする視点、話題、それらが計算されつくしたものとは言えないとも感じます。説明が不親切な部分もあります。アレレ。なんか褒めてないみたいですね。でも違うの。
重要なのは、その欠片たちを通して見えてくる登場人物たちの、一貫したトーンの心地よいこと。そこに「知らない人」がいる、ということを書いている視点の距離感のすばらしいこと。
もっともよいと思った点は、この作品が「2021年の現在」を描いているところでした。後年、振り返ってわたしたちは現在の社会状況をどうやって思い出すのだろうと考えることがあります。主観、いやだとか不安だとか、対立するものや許せないもの、悲しい出来事、その中で生まれた新しい文化、そういったものは色々な人が書いていますし、確かに残っていくと思います。
ただ、このタッチで、いま、この風景画が描かれた、ということをわたしは覚えておきたいと思いました。
というわけでおめでとうございます。二人目のチャンピオンはmidoriFantaさんです!

賞金も振り込んでおきましたので、ふたりで仲良くわけわけしてください!
気持ちが高まったのでなんか副賞もつけます。なんにしようかな。

おわりに

今回、惜しくも優勝に選ばれなかった作品がいくつもあります。講評を読んでいただくとわかる通り、どれも甲乙つけがたい魅力がありました。レギュレーションによる加点、減点、もうほとんど難癖みたいなイチャモンをつけて絞っていくのは正直つらいとこでした。こんなに切ないなら投票制とかにしてやりゃあよかった、とも思いますが、提示されたレギュレーションを遵守するコンテストなれば、採点するのは主宰の義務ですね。

そんなわけで、まとめです。
今回、小説としての面白さってなんだろう、ということを講評書きながらメチャクチャ考えました。
多分、小説というのは複層的な芸術なんだと思います。いろんな角度から見ることのできる、複数の軸を持ったもの。見せ方の問題もありますが、いろんな角度から見られるように丁寧に「描く」ということ。あるいは、丁寧に「描かないでおく」ものをつくること。
文章の構成素として、想像していなかったもの、意外なもの、というのも大事です。見たことのないもの、聞いたことのないものはいつだって面白いものです。ですがそれは、描かれる事件やモチーフがわかりやすく刺激的だったり、新奇だったりすることをそれほど必要としません。

その源泉は何だろうと思うと、やはり「視点」なのかなということを思います。今回の投稿作を見ていただくとわかるように、日々暮らしているだけでも面白いものは面白いんですね。ご飯を食べる、それだけを書いたものでも、角栓を出すだけの話でもメチャクチャ面白い。ありえない刑の話、見たことない異世界の話、架空の世界の通勤の話、ぜんぶ面白いんです。そのどれもが、作者の目、視点というフィルターを通したものです。
フィルター自体に魅力のあるもの、いわゆる定番ものというのもありますが、どれも最後はやはり作者の目が重要になります。

描いておくものと描かずにおくものの取捨選択、フォーカスの問題というのもありますがこれは副次的なものかと思います。幾らかテクニックの部類に入るかもしれません。物語のギミック、モチーフなどもテクニックの部類ですね。そういったものを配置して、作り上げるうえで大事なのは、作者の目を通して、一体何を描きたいか、という話だと思います。作者の目には、世界が、描かれている風景がどんなふうに見えているのか、という話です。
そしてそのイメージは複層的に色を塗られることによって、複数の角度から読まれる作品になります。フォーカスの問題は、その色味を散漫にさせないための工夫です。線画のない絵もあります。線画だけで十分魅力的な絵もあります。
文章と絵は、ほんとうに似ているなあ、といつも思います。

今回の、この「全部入り」の風景画杯マガジンが、単純に読み物として面白いという楽しみ方のほかにも「面白いって何だろう」を考えるためのハンドブックのような役割ができたとしたら大変幸せです。ご参加いただき、ほんとうにありがとうございました。

おまけに

そして、最後にオマケとして、わたし自身の宣伝をしておきます。
ここんとこ、自分でも「なんでそんなことしてるの?」と言われると、うーん、というようなことをしてます。単純には「面白いと思ったので…」としか言えないのですが、ひとつめには今一番わたしが読まれたい小説、連載している小説の話をさせてください。
今回の風景画に出した「in other words」とは毛色が違うんだけど、ぜひ読んで、何かコメント貰えると嬉しくて踊ります。ぜひください(本気)。

これは、風景画杯と同じように、ちょっとカテゴリが難しい小説になります。いわゆるファンタジーの一種、ファンタジーパルプというカテゴリになるのですが、要はオシャレで知的でブッ飛んでるお姉さんたちが、剣と魔法で丁々発止やる話です。
第一話は、主人公のお姉さんがかわいそうなエルフを縛り上げて語りかけるシーンから始まります。朗々と、なんで自分がここにいるかという話から、どんどん脱線していって、ルールとマナーの話やら、暴力と歴史の話なんかをしているうちに、段々楽しくなってきちゃう。
こう要約するとあんまり面白く見えない気もするんですが、これがね、面白いんですよ。作者だからそりゃ自作を面白いって言うだろうとは確かに思うんですが、とにかく面白いから読んでもらいたいんです。続きも面白い。読まれたい。今現在、読まれが少ないわけじゃないんだけど、もっと全人類に読まれたい。

その気持ちが高まったあまり、その第一話、プロの声優さんにお願いしてボイスドラマまで収録してしまいました。嘘だと思うでしょ。マジなんですよ。しかもメチャクチャ出来がいいの。これ。冒頭聞いてみてください。びっくりすると思います。

これも、とにかく出だしを読んでもらいたいという一心でやったやつなので、ボイスドラマ収録分、無料で全部公開してるんですよ。マジで二心ないやつ。まさに無私。私はさすがにあるか。ともあれ。

そんなわけで今回の風景画杯も、こういうのやりたいって思ったので賞金自腹で用意してます。何してんの、って言われると本当に、なんでだろう、って思うんですよね。風景画小説界の発展に寄与するために、とか、いつかはマネタイズして仕事しないで暮らしたい、とかじゃなくて純粋に、面白がってほしい、面白いの書けてるから読んでほしい、それだけなんですね。ある種の狂人だと自分でも思います。でもそういう世界に生きていきたい。

当面のところ、この小説の続きを書きながら、その他のことをほてほて進める感じで生きていこうかなとは思っております。
「#ハニカムウォーカー」のタグで感想とか頂けると、わたしの人生の幸福度が爆発的に上がって、書くもののクオリティが上がったりしますので、よかったらぜひご協力ください。
第二回風景画杯も、どっかで気が向いたらやります。

では、またどこかでお会いできると幸いです。またねー。


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