『ローグ、ローグ、ローグ』

泥棒だけはやっちゃいけねえ、って、爺さんはことあるごとに俺に言い聞かせた。俺は尋ねた。置引は?泥棒だ。賽銭拾うのは?泥棒だ。死体漁りはどうだ?それはいい。人の名前を借りるのはダメか?だから泥棒だって言ってんだろ。
爺さんはしまいにはガッチリした拳骨で俺を殴った。目から火花が出た。いいか、オレたちはな、悪党ばかりのクソみたいな血だって言われてる。合ってる。でもな、泥棒だけはダメだ。爺さんは何度も俺に言った。

じゃあ、毎日親から殴られて痣だらけのかわいそうな女の子を、屋敷から助け出すのも泥棒なのか?

爺さんはにっかり笑って親指を立てて言った。坊主、そいつは全然、泥棒じゃねえ。だから俺はあの子を拐って王都を出た。

女の子には名前すらなかった。人の名前をつけるのは泥棒だっていうから、女の子には俺の名前をやることにした。タンゴ。いい名前だろ。会ったことはないけど親父がつけてくれた名前なんだそうだ。似合うかどうかは分からないが、どんなボロでも裸でいるよりはマシだ。
名前がないと不便なような気もしたが、爺さんも死んじまったことだし、もうタンゴ以外は俺を呼ばなかった。不便なことは何もない。しかも、死ぬまえの爺さんが、なあ、なあ、と俺を呼んだから俺の名前は「ナアナ」。タンゴはそうやって覚えちまった。
ガーティアの男が旅をするのは、いつだって女のためなんだと爺さんは言っていた。タンゴはまだ若くて小さいが、まあ、こいつのために旅ができたならそれはそれで良かったんだろう。

ナアナ、とタンゴが俺を揺すぶって呼ぶ。泣いてやがる。泥のように身体が重い。なんだこれは。そうだ。俺は思い出した。ウェコムの貴族連中に後ろから斬られたんだ。
俺はタンゴの頬を撫でようとしたが、左手がなかった。

「ごめんな」

タンゴが涙を拭いて、俺の短刀を抜いた。やめとけ。勝手に取ったら泥棒になっちまうぞ。俺はうめいた。
【続く】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?