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新型コロナウイルス(COVID-19)に伴う、HAXの投資環境見通し

本記事はHAX ShenzhenのDuncan Turnerが4月15日に投稿したブログ記事Our Investment Outlook in the Wake of COVID-19 を翻訳し、最新情報を追記したものです。
新型コロナウイルス(以下、COVID-19)の影響を受けながらも、HAXが「COVID-19以降」を人類が生き抜くために必要不可欠な技術は何か、投資先のスタートアップにおける実例も交えながら紹介しています。
※記事の最後に5/19に開催するオンラインイベントのご案内もあります。
(HAX Tokyo)

長年かかってもおかしくないような変化が、ここ数ヶ月の間に一気に訪れたように感じます。最も大きな拠点が中国・深圳にあるHAXは、2020年1月にCOVID-19の影響を最も早く受けました。

COVID-19による影響は極めて不確実性が高く、HAXのスタッフや投資先企業は、あっという間に実施されたロックダウン(都市封鎖)によって孤立しました。厳しい時代に突入していることは間違いありませんが、少なくとも今のところは、深圳に新たな日常に戻り始めたことで、世界をとりまく状況にも希望が持てるようになってきています。

このような厳しい時代を乗り越えられないスタートアップも多いでしょう。しかし、それと同じくらい(それ以上ではないにしても)、多くのスタートアップは、目の前にある大きな新しいチャンスに追いつこうと戦っています。

私たちは毎日、投資先企業の創業者たちと頻繁に電話会議をしています。彼らは絶え間ない変化に直面していて、今後数年の会社の方向性に影響を与える難しい決断を日々迫られています。アウトブレイクの最前線に立つ私たちは、人類の健康に著しい悪影響を与えかねない危機の裏側がどのような構造になっているのかを把握し、投資先であるスタートアップの創業者が「COVID-19以降の世界」を理解する手助けができるよう努めています。

HAXはCOVID-19を先取りするために進化しています。私たちの投資方法も進化しています。COVID-19はもはや中国のみにおける危機ではありません。うまくいけば、世界の他の国々も近いうちに危機から脱するでしょう。
しかし、治療法やワクチンができるまでは、COVID-19は医療や働き方、エンターテインメント、教育などの将来に影響を与え続ける可能性があります。移動が減り、活動が分散し、より小規模なロックダウンが各地で起こることになるでしょう。つい最近、中国ではウイルス流行の第2波が発生したため、1つの郡が封鎖されました。香港は対応の初動が早く、一度は感染を食い止めることに成功しました。しかし、人々の間でソーシャルディスタンスの意識が弱まったことで、COVID-19の新たな感染流行が発生し、今では対策をより強化し、旅行者の入国禁止政策がとられるようになりました。

HAXでは、既にスタートアップ企業との連携の仕方を変えつつあり、当面は世界中のどこからでもスタートアップの成長を支援し続けられるようにしていきたいと考えています。私たちは今、世界的な不況の脅威に直面しています。確実なことは何も無い中で、ハードウェアを基盤にしたソリューションを開発しているスタートアップが、今後10年で構築するであろう長期的な未来を見据え、事業の進め方や投資先を検討していく必要があります。

デジタルヘルスが主役になる

COVID-19は、医療システムを限界に追い込んでいます。感染者数増加を示すカーブが緩やかになることは、感染拡大の状況が緩和したことを意味します。しかし、ワクチン(あるいはより良い治療法)ができるまでは、人々への負担は存在し続けるかもしれません。

病気にならないようにするのではなく、皆が病院に入らなくて良いようにするのです。

トリアージは大量に患者が発生し、人工呼吸器に足りなくなった際に、どの患者に人工呼吸器を使うのか、医師が優先順位付けすることをサポートするように設計されています。
しかし、この仕組みは遠隔医療におけるイノベーションとしては、あまり適切ではないかもしれません。というのも、入院しなくても済むようにすべきなのは高齢者だけはなく、喘息やその他の呼吸器疾患、冠動脈疾患、糖尿病、免疫に障害や問題を抱えている人々も含まれるのです。

私たちの姉妹アクセラレーターであるIndieBioは、検査結果がより早くわかるCOVID-19検査キットを開発する投資先のスタートアップCaspr Biotechに対し、当社のリソースを動員し、素晴らしい仕事を成し遂げました。IndieBioに採択されたチームはHAXのリソースも利用することができ、あらゆるハードウェアの開発を加速させることができます。

HAXでは、以下のような疾患を持つ患者向けに、新たなソリューション提供を目指しているスタートアップ企業との連携に特に力を入れています。

・肺疾患
・成人型糖尿病
・循環器疾患
・関節炎
・うつ病
・腎臓と膀胱の問題
・脳卒中リハビリテーション

これらは、危険な状態にある患者の看護において、テクノロジーが貢献できる分野です。こうしたテクノロジーの中には高齢者医療だけでなく、多忙を極める病院スタッフが重篤な患者の治療や看護に集中し、命を救うための適切な判断ができるよう支援するものもあります。

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(左) Stardos Labs Remote E-Stethoscope Platform(RESPTM)は呼吸器系の異常を遠隔でモニタリングできるよう補助します。
(右) Axem Proは動作を制御する脳内エリアの挙動を観測し、運動機能の更生に向けた、さまざまな情報を提供します。

イノベーションを牽引するのは「分散型」

完全にロックダウンが実施されたからといって、在宅勤務が単純に増加とは限りません。封鎖されたからといって、人々がずっと自宅に閉じこもりっきりになることは考えにくいからです。しかし、地元のショッピングモールやトレーニングジム、ボーリング場や映画館、バーなど、人が密集する場の娯楽は、自宅で楽しむ形に置き換えられる可能性があります

2012年に創業し、自宅でエクササイズできるアプリをサブスクリプションで提供するPelotonは、バイクマシンに特化したジムを2006年から英米を中心に展開しているSoul Cycleから市場シェアを奪っています。こうしたトレンドは、今後より加速する可能性があります。

また、生活必需品の輸送にかかる時間を数時間から数分に短縮するなど、物流にも、同じようなイノベーションを起こす余地があると考えられています。ロックダウンなどにより、人や物が自由に行き交うことができずに閉じ込められるようになれば、マイクロロジスティクスの効率化や、地域密着型の配送システムが今後より一層重要になる可能性があります。人と人との接触が少ない環境下での荷物追跡などの新技術の開発は、成功への道筋がはっきりしています。

私たちは、リモートワークの未来をイノベーションの真のチャンスと捉えています。当社は以下の分野への投資を積極的に模索しています。

・従業員のメンタルヘルス
・電話会議サービスの提供
・仮想空間と生身の身体とのコラボレーション

教育もまた、ソーシャルディスタンスの加速によって、より注目を集める可能性のある分野の一つです。中国ではeラーニングが爆発的に普及しており、既に多額の投資が集まっています。学生が日々の勉強に集中できる仕組をスタートアップが提供し、各家庭への普及が進むことで、自宅からでも授業に参加できるなど柔軟なスタイルの勉強が可能になるでしょう。

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(上図)Feelは開発した感情センサーと認知行動療法を組み合わせることで、人の情緒状態を定量化し、心の健康を保つためのサポートを必要に応じて常時提供します。

信頼性の高い労働力と技術向上

施設や建物はこれまで以上に清掃やメンテナンスが必要となり、工場のラインは絶えず製造し続けなければなりません。人間は常に労働力の礎となる重要な存在ですが、サービスロボットや産業用ロボットは、今後新たに生まれる仕事の要件をサポートするために、益々増加していくことが見込まれています。

製造業の自動化が進むのは間違いありませんが、短期的には検討すべき点が残されています。工場は現在、世界的に需要低下が見込まれています。利益も低いので新規の設備投資を行う余裕がありません。また、それまでの製造プロセスにロボットを導入し、組み込む作業には数ヶ月を要するなど、工場の自動化におけるコストの大部分はロボットそのものにかかる費用ではなく、システム統合におけるプロセスの長さにかかっています。当社では、以下の分野における新技術を積極的に探しています。

・高速プログラミングされたロボティックスの集合体
・資本的支出の低いオートメーションシステム
・遠隔操作ロボット
・人間に訓練されたロボット
・低コストサービスロボット
・自動化プロセスのための思慮と知性

2020年3月にこの分野における新たなソリューションを発表したスタートアップが、いくつかありました。深圳を拠点とするロボット新興企業のYouibotは、広い公共エリアに配置できる消毒及び検査ロボット「Aris-K2」を開発しました。
Aris-K2は紫外線(UV)ライト及び赤外線温度監視カメラを搭載した、ウイルス除去を目的とした自律移動型の屋内用ロボットです。昼間の温度監視及び夜間の消毒作業に利用できます。UVライトの放射照度は最大270uv/cm2 と消毒・殺菌に最も効率的な数値で、最大99.99%のウイルスを除去します。このロボットは、ショッピングモール、駅、オフィス、工場など、人の流れが多い場所で移動しながら消毒することに適しています。検査ロボットは税関、病院等混雑した場所での警備及び人の体温の検知に適した「Aris-C」も開発しています。

社会には多くの課題がありますが、私たちは技術や科学がそうした課題の解決に向けた希望となることに楽観視しています。人類の生命を守る新技術のテスト段階において、難しい課題を突破したといった良い知らせが、私たちが投資しているスタートアップからは毎日飛び込んできます。スタートアップや投資家の方は、ぜひHAXまでご連絡ください。

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(上図)YouibotのAris-K2ロボットは床の表面と空間をUVライトで消毒し、ロボットの脇を通過する人の体温をサーマルカメラで検知します。既に中国の病院や空港に導入されています。(写真提供:ニューヨークタイムズのJupiter Lau氏)

翻訳:HAX Tokyo
編集:越智岳人

【無料】大企業担当者向けウェビナー
「新型コロナウイルス(COVID-19)禍におけるハードウェアイノベーション」のお知らせ

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5/19(火)AM10時から無料ウェビナー(webセミナー)をZoomで開催します。当日は大企業でスタートアップとの協業やオープン・イノベーションに携わっている方に向けて、「新型コロナウイルス(COVID-19)禍におけるハードウェアイノベーション」をテーマにキーノートスピーチやスタートアップによるピッチなどを予定しています。

お申し込みはmiki.watanabe@hax.coまでメールでご連絡下さい。