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【イベントレポート】お互いを知り、チームになることがオープンイノベーションには欠かせない

大企業が新規事業創造などのパートナーとしてスタートアップとコラボレーションする事例が一般的になってきました。協業によって新たな価値を生み出す「オープンイノベーション」とも呼ばれる取り組みですが、そもそもの出会い方や、異なる文化を持つ企業同士がビジネスパートナーとして発展するプロセスなど、明確な答えのない課題も多く存在します。

こうした背景を受け、HAX Tokyoは「スタートアップと大企業のコラボが成功する3つの秘訣」と題したイベントを2022年7月1日に開催しました。この記事では、オープンイノベーションの実践者であるゲストによる講演と、トークセッションの様子をお伝えします。

オープンイノベーションを成功させる3つの秘訣

まずは大企業とスタートアップ、二つの立場でオープンイノベーションに関わってきたブルーグラフィーの伊藤景司氏による、「オープンイノベーションを成功させるには」と題した講演の様子をお伝えします(以下、本セクションは伊藤氏による発言)。

ブルーグラフィー株式会社CEO 伊藤景司氏
ソニーにて新規事業・プロダクトマネジメント・マーケティングに従事。LED電球スピーカー、グラスサウンドスピーカーの商品企画・プロダクト立ち上げ、販路開拓等を、責任者として実行。その後、IoTスタートアップにて、事業開発責任者・プロダクトマネージャーとして、野村HD、JCOM等のオープンイノベーションをリード。ミシガン大学でMBA取得。

新卒でソニーに入り海外マーケティングなどに関わった後、社長直下の新規事業立ち上げチームに配属されました。社内で山のように眠っているR&Dの成果やプロトタイプを元に、しっかりとコンセプトを作り商品として発売することに取り組みました。

退職後はIoTスタートアップのチカクで「まごチャンネル」の事業開発責任者とプロダクトマネージャーを務めました。10人くらいの会社でしたので、実証実験や販路の開拓のために、多くの企業とのコラボレーションを模索しました。多くの失敗もしてきましたが、こうした経験をもとに、オープンイノベーションを成功するための方法についてお話できればと思います。


ゴールを揃えよう

ゴールが曖昧なまま進めてはいけません。新規事業はニーズや売上の見込みが難しいので、定性的な目標を立ててしまいがちですが、できるだけ数で測れるように定量化してください。私もソニー時代には「年に2個は商品化の承認を取る」といった定量的な数値目標に落とし込んで活動していました。

定性的な目標のなにがいけないかというと、自分達の取り組みの良し悪しを判断できないことです。実証実験でユーザーから良い反応をもらえたとしても、それが大企業の経営層を納得させられる情報になっていなければ、取り組み自体が打ち止めになってしまうかもしれません。

ワンチームになる

2週間に1度だけミーティングをするだとか、たまに情報交換をするといったバラバラな関係性ではうまくいきません。私の経験上、毎週のように、時には休日さえ集まって作戦会議をするようなワンチームの関係性ができていた時には、プロジェクトがうまく回っていました。

目標が共有できていたとしても、スタートアップと大企業という立場では働く環境やコンディションも異なりますから、密なコミュニケーションが必要です。会社横断で一つのチームになり、場合によっては上下もなく、失敗さえ分かち合えるような関係になることが理想です。

お互いの事情を知る

お互いの強みと弱みを言語化して、社内の事情を共有していくことも重要です。たとえばスタートアップが資金の不安を伝えたら、大手企業側は出資やCVC部門の紹介を検討してくれるかもしれない。他方で、大手企業にはオープンイノベーションの担当者だけでなく、会社内で立場の異なる部署や関係者がたくさんいるので、なかなかスムーズな社内調整は難しいかもしれない。これは人数が少なく全体を見渡せるスタートアップとは異なる事情ですよね。

こうしたお互いの事情を正直にさらけ出すことで、深い悩みを共有し、その解決へと向かえます。お互いの事情を深く知りながら、それぞれの認識やゴールを揃え、ワンチームとして取り組んでくような関係性を築けると良いのではないでしょうか。

東急グループが進めるオープンイノベーション

ここからは、グループ全体でオープンイノベーションに取り組む東急グループの満田遼一郎氏と小林洋介氏、モデレーターとして市村慶信氏を加えた4名によるトークセッションの様子をお伝えします。

写真左:東急株式会社 フューチャー・デザイン・ラボ 満田遼一郎氏
入社後、長津田駅での研修を経てイッツ・コミュニケーションズへ出向。顧客接点部門にて訪問営業、戸建て営業チームの予算・実績管理や営業企画に従事。2021年より現在のフューチャー・デザイン・ラボに帰任し、東急アライアンスプラットフォーム(TAP)やShibuya Open Innovation Lab(SOIL)の運営担当として東急グループのオープンイノベーション推進に取り組む。
写真右:株式会社東急百貨店 事業戦略室 事業開発部 小林洋介氏
入社後、渋谷本店で自主編集からテナント管理、イベント担当として、多くの取引先を誘致。2018年より現在の事業開発部として、新規物件や新規事業の開発に携わり、同年TAPに参画。事業連携の立案や、店舗やECでのPoCを推進・実行する。

満田氏:東急アライアンスプラットフォーム(以下TAP)は東急グループのオープンイノベーションプラットフォームです。スタートアップや上場企業などの窓口となり、どのようなコラボレーションができるかを検討し、おつなぎするような役割を担っています。
具体的には、常時スタートアップからの応募を受け付けており、月次の定例会やピッチなどの場で参画企業に紹介し、東急グループの事業共創のきっかけを作っています。

小林氏:東急百貨店はリテール部門として、マーケティング・企画・EC含む接客・施設管理・外商といったバリューチェーンの中で、非常に多くのスタートアップ企業と協業しております。例えばTAPを通じて知り合った、FUN UPさん(スマホでオリジナルブランドがつくれるモノづくりプラットフォーム)のアプリを使った店頭POPUPや、Canlyさん(GBPの一括管理)のサービス導入などを行ってきました。

写真最右:HAX Tokyo Director / 株式会社プロメテウス 代表取締役 市村慶信氏
国内電機メーカーの半導体営業・企画部門に配属(電子機器製造のサプライチェーンに携わる)その後電子部品商社の経営企画部門に転職。 経営の立て直しを行いながらベンチャー企業への経営支援や提案を実施。2014年に独立してからは過去の経験を活かし国内外で複数のベンチャーや広告代理店など、非メーカーのプロジェクトの立上げなど行う。

市村氏:小林さんは百貨店という現場での感覚と、事業開発部としての大きな目線をお持ちかと思います。先ほど伊藤さんから「ゴールを揃えること」の重要性が紹介されましたが、どのように思われますか?

小林氏:耳が痛い話ですね(苦笑)。過去に行った実証実験を兼ねたPOPUPでも、PRを目標に行ったはずなのに、店頭での日常業務が始まると、どうしても目先の売り上げが優先されてしまうようなことがありました。実証実験の評価に直結する部分なので、関係者の中でKPIやKGIを揃えることは、反省も込めて強く意識しています。

満田氏:逆に、うまくいった事例では、課題がとても明確でした。東急百貨店が運営する東急フードショーとフードデリバリーサービスのChompyさんとの取り組みでは、Chompyアプリ内に出店しただけでなく、「テイクアウト&デリバリー by 東急フードショー」という東急百貨店オリジナルアプリの共同運営まで行っています。コロナ禍で百貨店に人が来られず、飲食店の売上が激減したという喫緊の課題を東急百貨店とChompyさんで共有できていたからこそ、良い関係性が築けたのだと思います。

市村氏:伊藤さんからは「ワンチームになること」の話もありましたが、アプリを開発するならば、発注者とベンダーという関係性ではダメなのでしょうか?

小林氏: Chompy さんは多くのフードデリバリープレイヤーの中でも地域特化型かつ渋谷に注力されており、当社と高い親和性がありました。良い商品を良い状態で提供したいという課題に共感し、当社のOMO推進のミッションも踏まえて一歩引いた目線から色々な提案をしてくれたので、とても信頼でき、単なる取引先というよりもチームのような感覚に近づいていきました。

伊藤氏:理想的な関係ですね。受託開発だと、言われたものを言われた通りに作るだけで、どうしても課題解決のレベルが低くなってしまいます。一緒に課題を解決するというモチベーションがあれば、プロダクトが出た後にも、ユーザーの意見を吸い上げて自然に改善が回っていきます。

満田氏:一方の課題を解決しようとする受発注のみだと、対等な関係が生まれません。2015年に「東急アクセラレートプログラム」として始まったTAPが、2021年に「東急アライアンスプラットフォーム」としてリブランディングを行った理由も、横並びの立場で共に互いの課題解決に取り組むことの重要性を強く意識したからです。

強みを把握し、刺さる相手を探す

市村氏:「ワンチームになること」を目指しても、いきなり踏み込んだ関係性を築くのは難しいように思えます。まずは「お互いの事情を知ること」から始まると思うのですが、具体的にはどのように取り組めば良いのでしょうか。

伊藤氏:スタートアップにいた時は、提案に行く前段階で、相手企業の中期計画をしっかりと調べていました。相手企業の目指すものに自分達の事業が刺さるのか、各種レポートや企業の歴史も含めてじっくりと調査する。相手の根幹に刺さらない限り、良くてもサイドプロジェクトに回されてしまい、結局うまくいかないと思います。

満田氏:東急グループは中期3か年経営計画のほか、2050年目線の未来を描く長期経営構想を公開しています。TAPが所属するフューチャー・デザイン・ラボでは次の100年を見据えた事業の種を探索するという使命を担っているので、まだ世の中にない新しいサービスも含めて提案をいただけると、私たちも社内で進めやすくなります。

伊藤氏:大企業としては、自分達に足りないリソースを持つスタートアップを探して組むことが必要です。足りないものは、技術なのか人的リソースなのか、もしかしたらスピード感かもしれません。大企業では小回りが効かず動かしにくいことを、スタートアップに率先して進めてもらうようなバリューの生み方もあり得ます。

市村氏:スタートアップと大企業がマッチングした後、良い関係を築くためにはどうすれば良いのでしょう。

小林氏:コロナ禍で多くなったオンラインMTGですが、効率的な面もある一方、コミュニケーションがとりづらい一面もあるように感じます。積極的に雑談をしたり、会議以外の場でお話ししたりすることを心がけ、早い段階から困りごとなどの事情をお互い正直に話すようにして本音を出しやすい関係性を目指しています。

満田氏:正直に話すことはとても大切ですね。TAPとしてスタートアップと大企業の顔合わせに立ち会う際には、スタートアップが過度な期待を持ちすぎないよう、できることとできないことを正直に伝える、調整役のような役割も果たしています。

大企業ならではのリソースを最大限に活かすために

会場:具体的な失敗の事例を教えていただけますか。

伊藤氏:私が取り組んだプロジェクトでは、現場のユーザーからとても良い反応をいただけたのですが、大企業側の経営層からストップがかかってしまいました。定量的なゴールを設定しておらず、プロジェクトの成功を定義できていなかったことが原因の一つですが、意思決定する方とコミュニケーションをとれていなかったことも反省点です。

小林氏:大企業側の担当者として、意思決定者の巻き込みも含め、早い段階から多くの人の注目を集めることは重要な課題だと考えています。社内報や関係者への事前インプットなど使えるものはなんでも使い、しっかり社内に伝えることを意識しています。

満田氏:スタートアップから見ると、大企業から出るプレスリリースもひとつの大きな価値になると思います。事業共創の取り組みがきちんとリリースされるように、TAP参画企業の担当者とも意思疎通を図り、TAPとしても当社の広報チームとは適宜情報共有をするようにしています。

市村氏:外部へのアピールの仕方も含めて、次のステップを決めておかないと、オープンイノベーションは一発の花火で終わってしまう。そうならないよう、スタートアップ側と大企業側、双方が腹を割って話し合い、判断の軸になる定量的なゴールを定め、更新し続けていくことが必要なのですね。

(取材・文・撮影:淺野義弘/シンツウシン)

HAX Tokyoとは

HAX TokyoはSOSV、SCSK、住友商事の共同運営による、ハードウェアに特化したアクセラレータープログラムです。

採用されたチームには、米国シリコンバレー発、世界的に実績のあるハードウェアアクセラレーター「HAX」にて蓄積された知識やノウハウが提供されます。また、ハードウェアに特化したコミュニティが提供され、ビジネスおよび製品開発の分野で世界をリードする専門家や、住友商事をはじめとする日本のパートナー企業とのコラボレーションの機会が得られます。

現在は通年採択制を採用し、各スタートアップの状況に併せたプログラムを提供しています。詳しくは公式サイトをご覧ください。


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