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なぜ住友商事はHAXと組んだのか、なぜHAXは日本に進出したのか

HAX Tokyoは2019年7月にローンチし、これまで2回のプログラムを通じて9社を支援、現在は2021年1月からのBatch 3に向けた準備を進めています。

今回はこれまでのプログラムを振り返るとともに、HAXの運営母体であるSOSV InvestmentsでHAX Tokyoを担当するミキ・ワタナベ(Miki)と、住友商事でHAX Tokyoを担当する村木祐介にHAX Tokyoを立ち上げた背景やこれまでの振り返りから見えてきた日本のスタートアップ・エコシステムについて聞きました。

HAX Tokyoがスタートした経緯

――総合商社である住友商事が、ハードウェアに特化したアクセラレーターを始めた理由を教えて下さい。

村木:IoTが多くの産業分野に浸透したことによって、ハードウェアはどの場面でも必要不可欠な存在になりました。私は住友商事のシリコンバレー拠点でスタートアップへの投資や事業開発に従事していましたが、ITやソフトウェア分野のスタートアップと比較すると、ハードウェア・スタートアップへの投資は遅れを取っている印象を持っていました。

一方でDX(デジタルトランスフォーメーション)が加速していく時代に、総合商社として広範囲に事業を展開していく中で、ハードウェアとの関わりは不可避です。さまざまな産業におけるハードウェアの知見やネットワークを生かして、ハードウェア・スタートアップを支援することで、新しいビジネスチャンスを開拓する——この思いに通じる活動をしていたのが、VCであるSOSV Investmentsが運営しているHAXでした。

日本はモノづくりに対する技術力や品質に対する評価は国際的にも高い一方で、開発はスピードに欠けるため、グローバルに事業を展開しきれない状況を商社としても現場で感じていました。不確実性が高く、スピード感をもって取り組むためには、業界のトップランナーと組んでスタートアップを育成し、事業開発のスピードを高めていくことが最適解だと考えました。

――立ち上げから一年半が経過(インタビュー時点)しましたが、住友商事、HAXそれぞれの感想はいかがでしょうか

村木:スタートアップと住友商事の関係には大きな変化があったと思います。2018年に専任組織であるDXセンターが設立され、イノベーションに取り組む姿勢が明確になったことも後押ししていますが、スタートアップと接する機会が増え、自分たちが抱える課題解決や新規事業を推進するパートナーとして、スタートアップと組むということが現実的な選択肢の一つになりました。それまではスタートアップがどのように事業開発をしているのか、どのようにコミュニケーションを取ればいいのか手探りの状態でしたが、この2年でオープンイノベーションの土台が出来上がったと思います。

Miki:本格的に日本での活動を開始してわかったのは、想定以上に起業家人材が多いということです。製造業大国として、エンジニア人材が多いことは理解していましたが、大学発スタートアップや企業からスピンアウトするケースも増えている点は、アクセラレーターとしては非常に喜ばしいと思います。

事業開発面でもグローバルに事業を展開する住友商事とタッグを組んだことによって、日本をベースにしてグローバルな事業開発ができる点はHAX Tokyoの大きな特徴であり、メリットであると思います。リスクを取るマインドセットとスピード感を高めていけば、村木さんが課題視されていたポイントもクリアでき、日本の存在感を高められるのではないでしょうか。

村木:スタートアップはビジネスに対する経験値は少ない一方で、大企業はリーチできる現場を多く有しています。特に総合商社は幅広い事業の現場あるという面で、スタートアップにとってはアイデアを生かせる可能性がたくさん眠っていると実感しています。

−−スタートアップから見たHAXの特徴を、あらためて教えて下さい。
Miki:日本国内のアクセラレーション・プログラムと比較すると、HAX Tokyoには3つのメリットがあります。

ビジネス現場との距離が近い
製品を開発してから顧客を探すのではなく、シード期から見込み顧客層にアプローチし、一緒にビジネスモデルを形成できるので、市場ニーズに沿ったものができるので、結果的に事業化の角度が高くなります。

世界に進出できる
東京で事業計画を作り、深センでプロトタイプをブラッシュアップさせ、サンフランシスコで提携先や投資先を募るという流れを通じて、海外に対して事業を展開できる点は国内のアクセラレーターには無い点ですね。特にHAX Tokyoは住友商事を通じて、海外にリーチできる環境もあるので、スタートアップにとっては強力なバックアップが得られるプログラムだと思います。

長期的な支援と、早期からの投資が受けられる
一般的なアクセラレーション・プログラムはスタートアップへの投資が無く、デモデイ終了後になると関係が希薄になるのに対し、HAXは深センに進む段階で、SOSVと住友商事から投資が受けられます。つまり、プレシードからサポートを受けられ、シリーズAの調達をして、ビジネスモデルを確立し、量産して事業を立ち上げ、さらに加速するためにシリーズBの調達をするまで伴走するようにしてサポートします。

HAXは地元政府と連携して、中国・西安でもプログラムを実施していますが、東京では住友商事という日本の大企業とのプログラムという特徴を活かし、早期から事業開発に力を注いでる点がポイントだと思います。一般的な外資のアクセラレーターと異なり、日本企業がバックアップするのは、日本のスタートアップにとっても心強いのではないでしょうか。

既にHAX TokyoからHAX Shenzhenに進むスタートアップも決まっています。詳細は近いうちにアナウンスする予定ですが、既に世界への足がかりも着実に進んでいます。今挙げたようなメリットを生かしたスタートアップの事例が今後も増えていくと思います。

――2021年以降のHAX Tokyoの展望について教えて下さい。
Miki:アクセラレーション・プログラムとして、国内のパートナーシップを強化して、大学や研究機関、さまざまな企業や政府・自治体との連携を通じて、スタートアップに選ばれるプログラムに進化させていきたいと考えています。

村木:地道な取り組みが必要だと思いますが、さまざまな連携先と成功事例を積み上げていきたいですね。プログラムとしても絶えず進化を続けながら、サステナブルな仕組を作り、ひいては日本のスタートアップ・エコシステムに寄与したいと思います。

Miki:実は、当初からの構想では、アクセラレーション・プログラムはHAX Tokyoが持つ機能の一つでしかありません。スタートアップがアクセスするプラットフォームとして、HAX Tokyoを進化させることが中長期的な目標です。そのためにもSOSV以外のVCやCVCも含めた資本連携も視野に入れて、さまざまな機能を追加・拡充していきたいと思います。

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村木祐介
1998年 住友商事(株)入社以降、食料事業本部にてトレード・営業・事業開発等に従事。2014年より米州住友商事ポートランド店長として食料・農業ビジネスを中心とした新規事業開発に取り組み、2017年シリコンバレー店に合流。住友商事のCVCであるPresidio Ventures, Inc.と設立した共同ファンドを運用し、総合商社として広域分野のスタートアップとの共創、事業開発に従事。帰国後、2020年よりHAX Tokyo運営に参加しスタートアップ支援、エコシステムの構築、事業開発等に取り組む。

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ミキ・ワタナベ
Miki Watanabeは、世界最大のハードウェアアクセラレータプログラムであるHAXにおいてHAX Tokyoをリードしています。彼女は日本において、起業家、企業パートナー、投資家によるHAXのグローバルなエコシステム開発に取り組みながら、スタートアップにおける製品開発や市場参入の戦略策定を支援しています。
HAXへの参画以前は、McKinsey and Companyのコンサルタントとして、東京、シカゴ、エチオピアをベースに、企業および公共部門のクライアントに対し、成長とイノベーション関連のトピックについてサービスを提供していました。またMikiは中国、日本、アメリカで育ち、中国語、日本語、英語の3カ国語を話すことができます。

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HAX Tokyo オフィシャルウェブサイト https://www.hax.tokyo/

(取材・文:越智岳人