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母の箇条書き

著者:杏ワイルダー


新型コロナが大流行中の昨年8月、87歳の日本の母がiPadを買った。


母が、というより、自粛生活で一人暮らしの母がボケてしまわないようにと、姉2人と相談して購入した。LINEのビデオ通話で毎日様子をチェックしようということで。


姉がLINEの使い方を必死で教えて、母は1〜2カ月ほど「顔が見えない」「声が聞こえない」を繰り返したが、今は階下のおともだちを招いて、「ハワイに住んでる娘よ」と、私を紹介するまでに上達した。


家族のグループLINEにも参加して、「みなさん、おやすみなさい」とか「お誕生日おめでとう」などとメッセージも送れるようになった。つい最近は「私も可愛いスタンプが使いたいな」などとわがままを言い、孫に渡辺直美ちゃんのスタンプをプレゼントしてもらったらしい。


姉2人はアラカンの今もフルタイムの仕事をしており、それぞれ孫がいて、週末はお守りを任されたりしているらしく、母とのLINE通話はもっぱら私の役目だ。

夕飯を済ませて、熱いコーヒーを淹れてから、母にLINEをする。ほぼ毎日。お昼は何を食べたか、どこか出かけたか、「おちょやん」観たか、スクワットやったか…


先日気づいたのだが、母は話をしている最中、ちょくちょく下を見て、何かを読んでいるようだ。


「原稿でもあるの?なんかアナウンサーみたい」


すると母は、広告の裏に走り書きしたメモを見せてくれた。


テレビのインタビュー番組に出てた作家の名前や、面白かったテレビ番組、新聞で読んだ長寿のための健康法など、箇条書きにしてあった。


「LINEで話すときに、忘れないためよ」と母。


箇条書きはどんどん増えてきて、最近は1時間では済まない。先日は「3時間14分」という新記録を達成してしまった。


母がこんなにおしゃべりだとは知らなかった。


母がこんなにゲラゲラと笑う人だったとは、知らなかったよ。


若い歌手の音楽もよく聴いているらしい。あいみょんの「裸の心」が大好きだ、と言うので、ユーチューブのリンクを送ってあげたら、毎日朝晩と2回、練習をしているという。


「うまくなったらユーチューブに投稿すれば。話題になったらあいみょんとデュエットできるかもよ」


絶対嫌がると思ったら、「投稿って誰でもできるの?」って。


LINEのビデオ通話をマスターした母、ユーチューバーに挑戦する日も近そうだ。

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