2018年8月の記事一覧
キャロルの庭 vol.4
平成のダビデ像、田町は私のことを「先生」と呼ぶ。
「先生じゃないです、やめてください。」
「じゃあなんて呼べばいいの?」
「知る必要、ありますか。」
ないけどお、と言って、田町はへらへらと笑う。
今日の私は、カウンター内のキッチンでゆで卵を茹でていた。
ランチに出している日替わりサンドイッチの中身は青ちゃんが決めるので、私はそれに従って調理をする。
今日はゆで卵ときゅうり。オーソドックスな中身
キャロルの庭 vol.3
またやられた。
無機質な扉の前で考えた。
さてはて、どこへ逃げたか。
東雲先生には「どこにいますか。夏樹ちゃんと一緒ですか。」とメッセージを送ったけれど、多分読んでいないし読まない。
痛いほどの強い日差しだが、今日の私は帽子をかぶっているので勝ち組だ。
キャロルにいるかとも考えたけれど、キャロルに行っているということは飲んでいる、ということだ。すなわち今日の東雲先生は使いものにならないし、原稿
キャロルの庭 vol.2
酒屋の名を、タマチという。
タマチはいつも間延びした声で挨拶をするけれど、目の奥には決して笑みが感じ取れない。
深い彫りからなる陰影は、きっと夏の日差しによく映えるのだろう。
そんな顔立ちを青ちゃんは「さながら平成のダビデ像だ。」という。
「それにしても今日暑いっすねー。」
タマチはにこにこしながら今日も軽トラックの荷台から荷物をおろしていた。
今日の私は、できたてのキャラメルみたいな扉を開けっ
キャロルの庭 vol.1
電子書籍を毛嫌いしたまま数年が経つ。
紙の匂いが、とか、めくる動作が、なんて耳障りのいい言葉は数あれど、一番の理由は「かっこいいから紙の本がいい」でしかない。
好きなのだ、紙の本を選び、購入し、持ち歩き、読んでいる自分が。
「青ちゃん、バルサミコ酢がもうない。」
青ちゃん、というのは私の高校時代の後輩だ。
「へー。」
「へー、じゃないよ。青ちゃん、頼んでおいてよ。」
私が週に4日、金土日、そし