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昭和のトップスター「腸炎ビブリオ」は、場末のレコード店ドサ回りに落ちぶれた

腸炎ビブリオが、我が国の食中毒の世界に登場したときは、世間に大きな衝撃を与えました。
1950年に、大阪で行商のしらす干しを食べて、272人の患者が発生、20人が死亡しました。
原因菌は不明でしたが、大阪大学の藤野恒三郎教授が特定して、病原性好塩菌と命名しました。

塩が好きで海水中に生息しています。
海水の温度が20度Cを超えると、海水中の腸炎ビブリオ菌が増加します。
海水温が高くなる夏から秋にかけて多くなり、海水の温度が低い冬には見られません。
まさに、生で魚介類を食べる日本人を標的にした食中毒菌。
北極圏に暮らす、同じ生肉を食べるイヌイット(エスキモー)には無縁の菌です。

秋に気温が下がっても海水温はしばらく下がりません。そのために秋に多く発生していました。

食塩を好み、真水が嫌いというキャラクターが特徴です。
ナメクジとは真逆です。
水道水で魚介類を十分に洗うと、表面に付着した腸炎ビブリオの菌量は減少し、食中毒の予防になります。

我が国の公衆衛生学のテキストには、食中毒のトップバッターとして登場しますが、欧米のテキストには全く登場しません。
欧米には、生で魚介類を食べる習慣がないからです。

日本の食中毒の世界に長く君臨したトップスターでしたが、夏に多く真水に弱いという特徴が調理人に知れ渡ったこともあり、最近ではほとんど見られなくなりました。
場末のレコード店ドサ回り的な状況となっています。しかし、今はそのレコード店さえ見なくなりました。

ちなみに、「腸炎ビブリオ」という名前がつけられたのは、1963(昭和38)年で、私が生まれた年です。還暦プラス1。
対策の手を緩めることなく、このまま我が国の食中毒の世界から退場していくのを、見送りたいと思います。
食中毒の世界で、トップを維持することは厳しいのです。

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