マガジンのカバー画像

非当事者研究

9
運営しているクリエイター

記事一覧

非当事者研究その1

 「#非当事者研究」は、その名の通り「当事者研究」に便乗していますが、私自身が「非当事者」という「当事者」としてあーだこーだ考えているので、「当事者研究」と言えるかもしれません。

 今年の7月に岩波書店からその名もズバリ『当事者研究』が刊行されました。著者の熊谷さんは、東京大学先端科学技術研究センターで「当事者研究分野」の代表をされており、『当事者研究』の刊行は一つの到達点と言えるかもしれません

もっとみる

非当事者研究その2

 「当事者」はそもそもドイツ語の”Partei”を翻訳した言葉で、法律の専門用語として、裁判の原告と被告の双方を指していました。それが障害者運動で本人を指す言葉として使われ始め、社会的困難に遭っている人にも浸透し、現在では、ある事に関係している人を幅広く指すようになりました。「事に当てはまる者」としての「当事者」と言えばいいでしょうか。

 「当事者主権」や「当事者研究」では、「当事者=統治者」(

もっとみる

非当事者研究その3

 「当事者」という言葉が法律用語から社会用語へと連続する裏に、私は断絶があると見ています。それが「非当事者」の登場です。「当事者」以外を指す場合、法律では「第三者」としていましたが、障害者運動以降は「非当事者」ともするようになりました。

 「非当事者」は不思議な言葉です。「当事者」は名詞であるのに対して、「非当事者」は「当事者に非ず」すなわち「当事者でない」という文になっています。「非当事者」が

もっとみる

非当事者研究その4

 「非当事者」についてもう少し考えてみます。「非当事者」という言葉が言わんとすることは、「あなたは当事者でない」と拒否するだけにとどまりません。「当事者」でなければ何者なのか。この問いに障害者運動は「介助者手足論」で応えています。

 「介助者手足論」とは、「支援者は、たとえ善意であっても先回りせず、障害者の指示に忠実に従う手足に徹するべき」(『当事者研究』)という考え方です。こうした考え方が出て

もっとみる

非当事者研究その5

 「当事者」に関わる人を指す言葉はないわけではありません。たとえば「支援者」はその代表的な言葉です。一般的にも広く用いられており、そう名乗れば、「当事者」にとってどういう位置づけかすぐにわかってもらえるでしょう。しかし「支援者」はどうにも違和感があります。

 「支援者」は「当事者」の「保護者」のように見られやすい。たとえば言語障害がある成人障害者と街に出れば、多くの人は「支援者」をマジマジと見て

もっとみる

非当事者研究その6

 「当事者」に関わる人を表す適切な言葉の条件には二つあると考えています。

 一つ目の条件は、「当事者」という言葉を想起させる言葉です。「支援者」から連想するのは、「当事者」よりも「被支援者」であり、受動的なイメージから免れないでしょう。そのほかにも「伴走者」がありますが、「当事者」という言葉を連想しにくく、むしろ「独走」あるいは「暴走」しかねないから「伴走者」が必要だとされかねません。

 「当

もっとみる

非当事者研究その7

 「当事者に関わる人」を表す適切な言葉の条件は、まず「当事者」を想起させること、次いで差異も含むことです。

 とりわけ差異を考えるのは重要です。「非当事者」という言葉は、「当事者に関わる人」も、関わらない人も、敵対する人も、無関心な人も、みなすべて一括りにして名指し、積極的に否定してしまうからです。こうした問題意識からすれば、同様に、「当事者」と「当事者に関わる人」とを一括りにして差異をなかった

もっとみる

非当事者研究その8

 「当事者に関わる人」とは、「味方するよそ者」です。「味方するよそ者」を、「当事者」を想起させ、差異を含む言葉に言い換える前に、いま一度「当事者」について整理します。

 「当事者」は、一方で障害者や女性といった属性に該当する人、すなわち「事に当てはまる者」として使われます。他方で「事に当たる者」としても使われます。つまり行為としての「当事者」です。

 たとえば上野千鶴子さんは『ケアの社会学』で

もっとみる

非当事者研究その9(終)

 「当事者に関わる人」は「非当事者」ではなく、「当事他者」である。これが「非当事者研究」の結論です。しかし「当事者」にはまだ課題があります。それは翻訳の問題です。

 「当事者」は翻訳できない言葉だとよく言われます。英語には、「『当事者』を一語で表現する単語がない」(上野千鶴子)、「『当事者』という言葉のもつ日本語の真剣さ、重さ、方向性にぴったりあてはまる単語が、どうしても見つけられない」(北原み

もっとみる