「こりゃイップス研究は嫌がられてきたわけだ」の連続

いよいよ、ずっと計画してきたイップス研究のクラウドファンディングをスタートさせて頂きました。

今年の5月に国際誌「Scientific Reports」に論文を掲載させて頂き、イップスの罹患者に特有の脳波が見られることを明らかにすることができました。

『がん(cancer)』と医療論文検索エンジンで検索すると400万件以上の文献がヒットします。
「テニスエルボー」(tennis elbow)も2500件近くの文献が。

そんな中、イップス(yips)は、なんと50件にも満たないという数。

さらにその中の、ほぼ全てに近い大半を占めるのが、「シングルケーススタディ」と呼ばれるタイプの論文です。

どんなものかというと、

「こうなのかなと思って、こういう人(たち)にこういうことを試してみました。うまく行きました(うまく行きませんでした)。」

のようなカテゴリーであり、科学的に一定の水準の事実を認められたものであると言い切れるものではありません。

つまり、私たちが発表した論文は、イップスに関するものとしては、世界でも、また歴史的にも非常に貴重なものであり、踏み出した一歩としてはまだまだ小さいものですが、非常に「強い」ものであったのではないかと考えています。

ーなぜ、イップス論文は少ないか

すごくよくイップスというワードは聞くようになったし、結構周りに悩んでいる人もいる。

それなのになぜ、発見からのこの約100年、研究は進まなかったか?

それは、簡単です。

ー「めっちゃムズイから」。

何が、ムズイか?

まず、①画像初見がない。

折れたり、伸びたり、切れたりしてたら、それがどういうことをしたら結果、こう変化したよ、という客観的なデータが取れます。

そして、②いつ起こるかわからない。

折れたり、伸びたり、切れたりしてない上に、いつも症状が出るとは限らない。実験で症状が出て欲しい時に正常運転、なんてことはザラにある。中には、

「試合のこの場面のこの距離のプレーの時にだけ症状が出る」

なんていうシャイイップスさんもいる。

「試合のこの場面のこの距離のプレーの時」なんて、実験の場で再現できるわけがありません。だから身体や脳に何が起きるがイップスなのかのデータが非常に手に入れづらい。

最後に③名乗り出ない

肩痛、肘痛など、痛みや損傷では練習や試合を休んで病院に行きますが、イップスの方はなかなか名乗り出ないのが特徴です。それは間違いなく、「名乗り出たってしょうがない」「どこに相談すればいいのかわからない」からくるものであることも関係しているとは思いますが、やはり少し「メンタル関係」というイメージからくるスティグマが大きな要因ではないかと一貫して現場では感じます。

このように考えると、総じてイップスの研究は非常に難しい。

難しすぎる。だから、楽しい。

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