見出し画像

早朝のさえずり

 ここは大企業のコールセンター。顧客からのクレーム電話が、ひっきりなしにかかってくる。
 ぷるるるるるるるるる ガチャ
「はい、こちら株式会社ロイド、カスタマー担当のマキです。ご用件はなんでしょうか。はい。お客さまが住んでいらっしゃるアパートメントは、わが社が管理を任されておりますが。
 えっ、はい。隣の家から鳥の鳴き声がする、ですって!?
 大変申し訳ございません。場合によっては、私どもの方で解決しなければいけない問題です。詳しいお話を聞かせてください。
 なるほど。最近、隣の部屋から、毎朝のように鳥の鳴き声が聞こえる。ニワトリではない。小鳥を飼い始めたのだろう。睡眠を妨害されたわけではないが、ここはペット禁止なんだから、ルールぐらい守ってほしい。
 分かっておりますよ、お客さま。鳴き声がうるさいのではなく、ペット禁止にもかかわらず、鳥を飼育していることが許せないんですよね。
 はい。鳴き声が聞こえる度に、実家に置いてきたピーちゃんのことが、頭に浮かんできて懐かしい気分になる。だけどその分だけ、自分はペットを我慢しているのに、許せないと思ってしまう。
 お客さまのお気持ち、大変よくわかります。私も、コールセンターで働いていると、家に帰ってもなかなか電話の着信音が頭から離れませんから。はい。そういうことではない。一緒にしないでほしい。大変失礼いたしました。
 お客さま、いくつか確認させていただきたいのですが、隣の部屋から鳴き声が聞こえるのは、朝だけですか。なるほど。早朝だけで、それ以外はまったくしないと。隣人さまのご職業は。はい。普通の会社員で、朝から夕方まで家を空けていると。
 それでは、最後の質問です。週末に鳥の鳴き声は聞こえますか。はい。日曜日はしなかったが、週が明けてからまた鳴き始めたので、こちらに相談なさったというわけですね。
 ご回答ありがとうございます。そこで私から提案が。隣人さまとのトラブルと、お客さまの寂しさをまぎらわす、一石二鳥の解決方法がございます。
 お隣と同じように、目覚まし時計のアラーム音を、鳥のさえずりに変更なさってください」

最後まで読んでくれてありがとうございます