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小説『そもそも彼女は死んだはず』 最終話「それから」

#創作大賞2023 #小説


校庭の桜の木が白く光る花びらをはらはらと散らしていた。

「この桜も役目を終えたんだ。」

かのんが美里の横で寂しげに言った。
季節外れの桜は今、本来の姿に戻ろうとしている。
夜が明けようとしていた。
 
「先生。これからどうするの?」
「どうって……。私、てっきり成仏するんだと思ってたわ。」
「するわけないよ。だって今や先生は大悪霊にも勝った最強の霊なんだよ?」
「えぇ? 最強だなんて私、全然そんなつもりじゃなかったのに。」

桜の木を背景に、かのんが美里を振り返り微笑む。
かのんが言った。

「先生。これでお別れじゃないよ。また会いに来るからね。」
「かのんさん。ありがとう。」
「ううん。お礼を言うのは私の方だよ。先生にはいっぱい助けられたから。」
「かのんさんは本当に生きてるのよね?」
「そうだよ、先生。」
「……それじゃ、また。学校で会いましょう。」
「うん。またね。先生!」

かのんの姿が桜の花びらに隠されるように消えた。
そして校庭の桜の木も消え、校庭は何事もなかったかのように朝を迎えようとしていた。

     ◇

少女が街を歩く。ピンク色のメッシュの髪で目元の化粧をバッチリきめて。
フリフリの服装は少女が歩くたびに揺れて少女の存在を際立たせていた。

「かのん! 久しぶりじゃん!」
「うららちゃん! えへへ、久しぶり。」
「もうっ! 休学するのかと思ったよ!」
「ええ? 私、そんなに来てなかったっけ?」
「そうだよ? 一年前期からヤバイって。教授も怒ってたよ。」
「マジかー。」
「ねえ、それよりさ、なんか良いことあった?」

少女のクラスメートが少女の顔を見て聞いた。

「ふふふ。そうだよ、良いことあったんだよ。」

少女は青い空を見上げた。もうすぐ夏が終わろうとしていた。
少女の背中から数枚の桜の花びらがひらりと落ちた気がした。

     ◇

その学校には噂があった。保健室の先生に関する噂。
その女性教諭は歳を取らず何年も美しさを保っていたという。普段から気配を感じさせず、昼間の存在感はゼロ。夜間に一人で保健室にいるところをよく見かけられていた。誰も彼女のプライベートを知る者はいなかった。時折、卒業生の少女が訪ねて来る以外は。

ある時、生徒が彼女に相談をした。

「美里先生。聞いてほしいことがあるんです。」
「なあに?」
「こんなこと信じられないかもしれないけど、夢を見るんです。」
「夢?」
「はい。怖い夢。黒い影が私のすぐ横に立っていて、こっちをずっと見ている夢。それからずっと疲れやすくて。」
「なるほどね。私に任せて。」
「え?」
「ちょっと目をつむっていてね。」

女性教諭は机の引き出しから折られた紙を取り出すと少女の背後に向けた。彼女の目には黒い悪霊の影が見えていたのだ。

「すぐ終わるから。」

生徒が目を開けると、にこやかに笑う女性教諭の顔がそこにあった。

「どう? 軽くなったでしょ?」
「ほんとだ……すごい。」
「困ったことがあったらいつでもいらっしゃいね。」

その学校には噂があった。
その保健室の先生は生徒たちに慕われていて。優しくて、明るくて、どんな相談にも乗ってくれて。
悪霊を退治してくれるのだと。


終わり。

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