『されど愛しきお妻様 「大人の発達障害」の妻と「脳が壊れた」僕の18年間 鈴木大介著』を読んで思うこと

定型発達者が感じる発達障害の「何故できない!?」を理解する一助に


【分類】
著者:定型発達→高次脳機能障害→定型発達
誰向け:定型発達で発達障害の予備知識や興味がある人
ASD者へのオススメ度:星4つ  ★★★★☆
周囲の方へのオススメ度:星5つ ★★★★★


定型発達の人が特殊発達(発達障害および作中では不定形発達)の人の辛さ(=何故できないのか)を当事者レベルで深く共感し理解することはかなり難しいのではないでしょうか。
それは本や専門家の話、そして身近な当事者と接すること等から理屈として理解したとしても、感覚的に掴むことができなければなかなか腑に落とし納得するまでには至らないものだからです。
簡単に言うと、感覚的に掴めないものは理解しにくい、ということです。

本書は定型発達として生まれ育った著者が、ある日突然『高次脳機能障害』という、後天的な発達障害とも言える状態になったことによる、生活や心境の変化を綴ったドキュメントです。

定型発達から特殊発達になり、回復してまた定型発達になるという稀有な経験により、基本的にはあり得ない“2つの当事者性”を例外的に獲得したからこそ語れる中庸なものの見方が「お妻様」との関係とともにハートフルに描かれている作品です。


大人の発達障害の妻と脳が壊れた僕の18年間

初めのほうの章では「お妻様」と「僕」のなれそめを中心に、定型者から見たADHDやASDなどの特性を持つ特殊発達の人への印象が語られています。
ここは定型者やカサンドラさんにとっては共感ポイントなのではないでしょうか。
「やっぱそう感じるよね~」「この状況は自分だけじゃなかった」と気持ちが楽になるかもしれません。

一方、特殊発達の人はイライラしてしまうかもしれませんが、後のほうの章ではきっとその気持ちが解消されると思いますので、途中でやめることなく読み進めてほしいと思います。

その理由は著者が「まえがき」に書いている「現在はとても平和に暮らしている」という一文に表れています。
著者がこの本を書くに至った想いを、最後まで読むことで感じてほしいと切に願います。


心穏やかに「平和」に暮らす秘訣

相互理解というのは簡単そうでいて、実は本当に難しいことです。
人は、自分にはない要素を想像することが本当に苦手な生き物だと私は感じています。
それは定型発達だとか障害者だとかには関係なく、自分が持つ属性以外のことはほとんど分からないのが普通なのだということです。

そのような世界にあって、著者の鈴木さんは定型発達と特殊発達の2つの属性を行き来することで両者に対する理解を得ていきます。
この2つの属性の違いについて理解したことで、「現在はとても平和に暮らしている」の言葉に繋がっていきます。
これは受容のプロセスです。

「自分とは違う属性を持つ人のことを理解し受容すること」が「平和」に繋がるのです。
この本には、たった1つかもしれないけれど現実に起きた物語が描かれています。
それを読み、疑似体験することできっとあなたにも「平和」が訪れることを私は願ってやまないのです。



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