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【コラム】海馬回旋遅滞症

ご覧いただきありがとうございます!

このコラムでは、子供の発達に関する内容を、医療、福祉、教育などさまざまな立場から考えていきたいと思います。
どうぞよろしくお願いします。

今日の内容はこちら!

海馬回旋遅滞症

科学に基づく支援

近年、脳科学の進歩により、数多くのことが明らかにされるようになってきました。

医療の世界では、Evidence Based Medicine(EBM)といって、科学的根拠に基づいた治療、というものが重要であるということは常識になっていますが、発達に遅れのあるお子さんの療育支援についてはいかがでしょう。

いまだに、発達障害はこども個人の問題、親のしつけの問題、生活環境の問題などと捉えられてはいないでしょうか。

そのお子さんの支援を考えるとき、このような個人やそれを取り巻く環境のせいにしてしまうのは、関わるものにとっては幾分都合がいいものです。

何か成果が出ない、伸び悩む、トラブルが起きる場面があっても、それらのせいにしてしまえばそれである程度議論は収束してしまうからです。そういった説明が、関係者含め大多数の納得が得やすい、というわけです。

しかし私たち、医療、福祉、教育のプロとしてかかわっていく支援者は、そういった心構えで本当に良いのでしょうか。

私たちは、発達に特性を持ったお子さんを、第3者が主観的に見るように見てはいけないのではないかと思います。

客観的に、あるいはその子自身の心理的な状態、思考などにも思いを寄せていくことや、さらには奥深く脳の発達段階や偏りについても、思慮を巡らせていく必要があると考えています。

脳機能の偏り

前置きが少し長くなりましたが、発達障害という言葉は、2014年ごろから神経発達症という表現にかわっています。これは、発達の遅れ自体が原因で日常生活に障害を呈する、というのではなく、神経系、つまり脳の発達に起因する発達の偏りがある状態のことというふうに定義を変更したからです。

今までは発達障害の器質的な原因というのはよくわかっていませんでした。
しかし、近年のMRIなどによる脳神経系の鮮明な画像化や、機能的MRIなどによる脳の活動をとらえる技術の発展などにより、多くのことがわかるようになってきています。

その中でも代表例として挙げられるのが、今回のお話の本筋、海馬回旋遅滞症です。

海馬とは

海馬という言葉は、脳科学の用語の中でも広く知られている用語だと思います。

認知症を患っている方などは、この海馬という部分が小さくなっていき、ひどい物忘れを引き起こすということは、一度は聞かれたことがあるかもしれません。

このことからもわかるように、海馬というのは「記憶する」という事柄にとって、重要な部位だということがお分かりいただけると思います。

海馬は、脳の奥の方に守られるようにして存在しています。海馬とは、魚ではタツノオトシゴを意味する言葉です。その名の通り、脳の海馬は、タツノオトシゴのようにくるくるとねじれていることから名づけられました。

通常、海馬は成長と共に「Z型」といって、しっかりとねじれた形をしていますが、その形成に遅滞があると、「S型」などのようにねじれが不十分なもの、さらにねじれの少ない「I型」といわれる形成が不十分な海馬となってしまい、これを、海馬回旋遅滞症と呼んでいます。

海馬の働き

先ほど、海馬は記憶する、ということにかかわるということをお話ししました。
正確には、「記憶を正しい脳の場所に分配するため、一時的に情報をとどめておく場所」と解説する方が正しいと考えています。

海馬自身に、すべての記憶情報を保管しておくわけではなく、脳の様々な部分に、自身の経験した事柄や意味や情報などをそれぞれ適切なところに移し替える、いわば「コップ」のような機能を持っているからです。

そのコップの中に、記憶のもととなる情報の「スープ」を注ぎ入れて行き、適切な記憶の保管場所に移しているのです。

神経発達症の子供のハンディキャップ


そこで通常のZ型のコップの海馬だとうまくいきますが、形成が不十分な「S型」や「I型」では、いわば「スプーン」や、「扁平な板」の上に情報のスープをドバドバと注いでいくようなイメージをしてください。

スプーンや板では、コップに比べて、十分に情報をとどめておくことが出来ないばかりか、正しいところに移すということも難しくなります。

神経発達症、とりわけ自閉スペクトラム症ではそのような脳構造的な変化が左右共にみられる場合があると言われます。

脳の構造から、ハンデを持っている、ということです。

そのようなお子さんに、定型で発達しているお子さんのように多くの情報を一度に与えたり、同じようなスピードで物事を習得させたりしようとすることは、過酷な事ではないでしょうか。

また、水を移す手段としてコップを持っていない子に対して、無理にさせようとしたり、頑張らせようとすると、こちらも疲れてしまいます。

そのような労力をかけるのではなく、合理的配慮を考えていく必要があります。

私たちにできることは、お子さんの、情報を記憶するための海馬の「コップ」が、「スプーン」や「板」になっている可能性も踏まえたうえで、適切な指示や環境設定を行ったうえで、支援を行っていくことが重要であると考えています。

ワカメや昆布を引っ掛けよう!

通常の物事がスープや水だとすると、なかなか思うように情報をすくうことがでぎせん。

ただ、すくうものが、ワカメや昆布なら、スプーンや扁平な板でも引っかけることができます。

なにがそれに当たるのかというと、感情です。

嬉しい気持ち、達成感、褒められた!などの感情は具材として大きいワカメで、海馬にも引っかかりやすい情報です。

留めておきたい情報は、嬉しい楽しい気持ちとセットで、記憶に残してあげるといいでしょう。

ただし、注意が必要なのは負の感情です。
こわい、いや、恥ずかしいなど。
これらは昆布です。

負の感情はそれだけで大きく、その他の情報が入り込む隙間のないくらいに占拠してしまいます。

こわい、怒られた、という気持ちは残っているのに、何を怒られたのかわからない、というのはこういう現象です。

できる限り、負の感情ではなく、良い感情を出させるようにしながら、記憶を定着させていけるように支援を心がけましょう。

そうすることで、支援者側の気持ちもだいぶになります。


今日は海馬回旋遅滞症についてお話をしてきました。

このコラムが、日々、育児に奮闘していらっしゃる保護者の皆様、学校教育の現場で指導に当たってくださっている皆様、または療育の現場で支援をしてくださっている皆様の日常の一助になれば幸いです。

それではまた、次回をお楽しみに!

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