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箱根駅伝おカネの流れ

箱根駅伝2020、展開派手で超おもしろかった。NIKEヴェイパーフライNEXTのワンメイクレース状態になって不平等がなくなり、ピコーンピコーンと1時間ごとの新記録でテンションも上がる。この靴、3cmくらいアキレス腱(=脚の長さ+反発力)が伸びて、短足日本人がケニア人体系に少し近づけるという指摘がある。足を前に転がせる効果も高い。脚を蹴らずに済む分、強い腕振りによる上体からのコントロールが重要であるように見える。大きくて美しい走り。昔ならケニア留学生だけができた走りを、日本人トップ層も見せていた。世界に近づく感は気分アガる。

箱根人気も続いてゆくだろう。その人気は学生たちの本気な競技活動に由来するもので、そこから価値は:

学生ランナー → 大学 → 大会 → 日テレ → スポンサー → 消費者

とつながっている。バリューチェーン全体の経済的価値は巨大で、ここまで育ててきた関係者の働きはすばらしい。この価値が、どの程度、学生+大学側に還元されているのか?その配分が適正なのか?という議論が、Twitterで気になった。

まずはTwitter48万フォロワーの全国的有名人、為末大さん:

反応するのは現役トップランナー、アメリカ拠点で独立性の高い大迫傑さん(14万フォロワーは陸上競技者としてのトップレベルかな)

この問題が「問題」とされる背景には、時代の変化がある。アマチュア・スポーツの経済価値は1984ロス五輪を境に急上昇した(若い方へ:五輪がアマチュア専門だった時代があったのです)。メディアも単なる公益的報道者から、巨額放映権料の支払者へと変身した。

箱根駅伝や高校野球は、この変化に、いまだに対応できていない。

一方でアメリカには大学スポーツでの強烈な成功事例があり、この明確な利益分配システムは、時間差はあってもなんらか輸入されるだろう。おそらく日本版NCAAの流れの中で、箱根もなんらか取り込まれるのではないかな。

2019年から続いている「スポーツの透明化」という変化の延長線上にもある。早ければ五輪終了後の秋あたりから、遅くとも2020年代のどこかでは、変化があるのではないだろうか。そのときには高校野球もね。

必然性

そもそも、なぜおカネの流れを透明化しろという話になるのか?

前提として、私企業の活動なら、株主・税務署・監督官庁など当事者にだけ報告すれば十分だし、問題あれば当事者間で決める。たとえばトライアスロンのアイアンマン主催団体も大儲けしてるけど、嫌なら出なければいいだけ。アメリカのメジャーリーグでは選手会が当事者マインドを発揮して度々のストライキで年俸を高騰させてきた。ツール・ド・フランスでも主催団体ASOと主要チームのスポンサー(INEOSなど)が派手な綱引きを展開中だ。ASOのパワーは強いけど、INEOS級の太客からカネひきあげるで?と脅されると弱い。それが当事者で決めろという話。

ただ箱根は、公益性も認められている学生の教育活動であり、それが私企業の側で大きな経済効果を生んでいる。状況が違う。

国際比較

そもそも的に、日本の学校スポーツの位置づけを国際比較すると、中高の部活含めて「部員の自主性」が特徴。対してアメリカでは、NCAAが全米を統括し、傘下の全大学ではAthletic Departmentが設置されて、大学経営の重要な対象としてマネジメントされている。

日本の学校スポーツが「自主的」である、とは意外に思われる方も多いかもしれない。

・自主=レールは大人が敷く
・主体=ルートから自分で決める

という定義による。

箱根の関東陸連も、学生の自主活動が基本であるはず。だから明確な統治者がいない。

もちろんNCAA型が正義とも限らないけど、日本の大学スポーツで経営的に成功しているといえそうなのは、東京の有名大+立命レベルの10校程度ではないだろうか。地方創生を含めて、大学スポーツ全体の開拓余地はまだありそうな気もする。

全体構造

箱根の場合、価値の流れはざっくり以下の通り:

1.大学生ランナーによる競技活動 → 2.関東学生陸上競技連盟による大会運営 → 3.主催メディア系企業による経営(CM販売など) → 4.スポンサー企業の広告効果 → 5.最終消費者(ビール消費者など)

この流れの中で、誰かがトクをし過ぎていないか? 損し過ぎていないか?という話。でも情報公開されていないから判断材料がない。そこで以下、一般論として考えていこう。

まず公/私の区分けとして、3−5のゾーンは私企業の経営判断だから自由にさせとけばいいけど、1−3のゾーンは公的な性格が強い。

境界線にいるのが、3.のメディア企業=読売新聞社&日テレ(+大手広告代理店)。1970年代までなら、「新聞がスポーツを報道するのは当然」という理由で問題なかった。高校野球も「国民的関心事をNHKが放映するのは当然」という理由で、放映権料は問題にならない。NHKはCMもつかないし。

しかし1984ロス五輪以降、アマチュアスポーツに巨額の放映権料がつくようになっている。その流れの1987年にTV中継が始まる。(1979−1986は録画ダイジェスト)この先見性は日テレのスポーツ局さすがだ。

おカネについては、3-5間では「価値」が「おカネ」として交換されている。1は明らかに無償。2が不明だ。

問題の整理

上記の流れの中で、仮に、

A) 2−3間で十分な対価が払われていない場合… つまり日テレが巨額のCM収入を上げ、かつ関東陸連に十分にコンテンツ料を支払っていない場合には、3.メディア側が不当に儲けている構図になる。もちろん、マイナー時代から育成してきた読売新聞と日テレの投資活動は十分に報われるべきではあるけど、仮に対価が不十分なのであれば、アンフェアなブラックビジネスとなってしまう。

B) 2−3間で十分な対価が払われている場合… 関東連が十分おカネもらってる場合、じゃあその使いみちはどうなってるの?という疑問が出るのは当然。学生の教育活動なんだし、警察も投入して大都会の公道を200kmにもわたり使用する公的活動なのだから。

これに対して、「まあまあ、関東陸連さんもがんばっているんだから」となあなあで良かったのが20世紀。日本に限らず、IOCのような貴族社会もそうだろう。「貴族の活動をいちいち公開してられねーよ!任せろよ!オレら貴族なんだから!」というのも、まあわかる面もある笑

実際これまで、五輪も箱根もなんでも、こうして育ってきたわけだ。

たとえば、日本テレビで箱根駅伝初の生中継など担当してきた大物、現WOWOW代表取締役社長の田中晃さんの著書『準備せよ。 スポーツ中継のフィロソフィー』(2019/03 Number Books)を以前読んだけど、重ねてきた工夫がよくわかる。

しかし昨今、スポーツ団体のガバナンスの問題が注目されるようになってきた。スポーツに限らず、公的要素の強い活動は情報公開すべきだという流れだ。2019年の1年だけでも随分と空気感が変わった。

C) 1−2間、学生への正当な還元がなされているか?という論点もある。これは上記Bの、2−3間でおカネが流れてるケースだ。これは、世間のブラック労働・やりがい搾取への批判とも通じていて、昔は当然とされてきたことが、今では問題視されるようになった。

もう1つ、分配金の透明化、というテーマがある。こちらはアメリカでの成功事例があるので、無視できないはず。

分配金

アメリカの場合、学生スポーツが巨額のおカネを動かしていて、学校&選手側に還元するルールが明確にある。こちらUCバークレー大で陸上してた岡田さん:

日本人はアメリカの成功事例への信頼が高く、お手本にしたがる。アメリカ大学スポーツについては岡田さんブログより:

・テキサスA&M大学のスポーツ収入約200億円(2014-15年)

・Jリーグ最高の浦和レッズ79億1000万円 (2017)

・UC Berkeley大は Under Armour と10年$86 million=93億円の契約(2016)

大学の経営者が、これらを「大学の権利」と明確に認識しているということだ。

箱根も、既に「ある程度」分配されているようだけど、情報公開されていないので「どの程度」かはわからない。

・・・

仮に今後、分配金ルールが明確になるとする。

※ここから先、推測度を上げているので注意

すると、「これだけのカネを東京圏の大学だけが独占していては、地方創生しないじゃないか!」的な議論が自民党の地方選出代議士から出てくることが予想される。既に東京23区の大学には新規学部など規制がかけられている中で(それでも少子化の中で入試倍率が落ちないのが都心の大学)、政治的な課題になりかねない。

箱根の全国化

ここで、「全国化」という青山学院の原晋監督のアイデアが浮上するかもしれない:

これ正論なんだけど、そもそも箱根は関東支部が主催するローカル大会、外部者を混ぜれば中のメンバーにとっての既得権が薄まってしまうから、あくまでも未来の話。(※ここで既得権という言葉は、正当な権利として使っています)

でも、政治家など外圧が高まれば別。その時に、地方予選突破して分配金ゲットしてね、といえるから。

逆にいえば、そのタイミングまで実現しないのをわかった上で、原さんは言っていると思う。どうせ時間がかかるものなら、それまで言い続けるのは大事なこと。それができるのは、青山学院大学はポジション的に強いから、というのもあるだろう。「改革者」のポジションを、リスクゼロで取ることができる。競技成績で大学ブランドに貢献し、さらには知力、改革力もアピールできる原さんは青学にとって超重要な存在だ。(ちなみに原さんTwitterフォロワー数7万で彼の存在感からは少なすぎ。彼はむしろTVなど既存メディア主体の人だ)

全国化すると、関東で資金なりブランドなりで選手獲得できず脱落する大学がでてくる。そうなると困るから、できるだけ現状維持をしたい、という力も当然に働くだろう。

時期

一方で、先に書いたような時代の変化は、いちど動き始めると大学レベルで対抗できるものではないので、いつか起きるだろう。僕の想像では、早ければ、2020五輪終了後から関心が高まる気がする。五輪までは「お祭り!盛り上げよう!」てなるから無理。パラも終わり、銀座パレードで感動をありがとう!てなり、メダリストの本とか出て、冷静な振り返りモードに変わってゆくその頃あたりから。最速シナリオとしては。

たとえば、Netflixあたりが金額公表して放映権獲得を表明したりして笑 まあ国民的な箱根はネットよりも地上波TVであるのが必須なので、むしろ地方大学×政治家セットからの仕掛けのほうがインパクトあるかな。

より現実的には、日本版NCAAとかができて、その影響を受けて(=吸収はされず、独立したままで、と予想)変わって可能性は高いと思う。

・・・

まあともかくも、この価値の源泉であるランナー、指導者、すばらしいですよ。そりゃあビッグビジネスになる。

memo:金額について 

日刊ゲンダイdidital2020/01/09では、「サッポロビールのスポンサー料は8億とも10億円ともいわれ(他に協賛企業もあり)、主催の関東学生陸上競技連盟(以下関東学連)には、毎年2億~3億円の収益が入るともっぱらだ」とある ↓

この金額は、下記のネット情報と一致し、ゲンダイさんの言う「もっぱら」とは、ネットで拾ったもっぱらなのかもしれない笑

と冗談はさておき、さすがにゲンダイさん取材網もってるはずで、まあ、下記ネット情報がまあまあ当たったと解釈しておこう笑笑

フェルミ推定(という名の雑な計算)で、CMだけの相場は19億円。さらに協賛費込では×1.5-2=30−38億円になると見込まれる。そこから代理店+大会運営側が手数料1割をとると3−4億円、これを配分する。

sapporoスポンサー料は10億は超えるとの2013年記事。上の話からも整合的

ちなみに世界最高額のCM、アメフトNFLのスーパーボウルでは30秒CM1つで$5.1 - $5.3 million = 最高6億円近い。2分間だけで箱根(の相場)2日間を超えるわけだ。

この30年間、値上がりし続けている。この間、アメリカの人口も経済規模も大きく成長しているので、この時点で日本と全く違うわけだが…

スクリーンショット 2020-01-07 午後10.18.55

その結果、スポンサー各社がTV局に払う総額は、" $419 million and $408 million during the 2017 and 2018 Super Bowl games " なので値上げした2019年は500億円規模になる。すごい。

スーパーボウル視聴者数は1億超、日本1つ分がある。ただ箱根駅伝も視聴率30%超といわれ、人数比だけでいえば3割分くらいの価値がある。しかもこちらは2日間、合計10時間。

2019年の全CMがこちら ↓ こんなのできる注目度すごい

1/16追記:note公式 "#スポーツ記事まとめ" に掲載いただきましたー。お隣が為末大さん!これでたぶん3回目くらい。


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スポーツコミュニケーションアドバイザー/トライアスロン年齢カテゴリ4連覇〜ハワイ世界選手権の経験をエスノグラフィー社会学で書籍化、中央公論,中日&東京新聞ほか書評掲載(楽天→ http://bit.ly/2Oe32j0 /日本女子体育大キャリア講師/東大(経)→法政院キャリア修士