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映画「ドライブ・マイ・カー」感想

2021年、日本。
監督/濱口竜介
出演/西島秀俊 岡田将生 霧島れいか 三浦透子 他

さすが村上春樹原作の作品。上映が始まるまで、周囲のハルキストたちは文庫本を熱心に読み込んでいました。
ちなみに私はハルキストではありません。村上作品で読んだものは数えるほど。だからなのかな、難解というのか、理解が及ばないシーンがところどころありました。

テアトル梅田の紹介文を以下に。
「舞台俳優であり演出家の家福(かふく)は、愛する妻の音(おと)と満ち足りた日々を送っていた。しかし、音は秘密を残して突然この世からいなくなってしまう――。2年後、広島での演劇祭に愛車で向かった家福は、ある過去をもつ寡黙な専属ドライバーのみさきと出会う。さらに、かつて音から紹介された俳優・高槻の姿をオーディションで見つけるが...。
喪失感と"打ち明けられることのなかった秘密"に苛まれてきた家福。みさきと過ごし、お互いの過去を明かすなかで、家福はそれまで目を背けてきたあることに気づかされていく」

最近の映画って、「雪・タバコ・韓国」が流行っているのでしょうか。こないだ観た「ユンヒへ」という映画でも同じような場面がありました。タバコってすごく懐かしい小道具という印象なのですが、こうも立て続けに見るとは。まあでも、そもそも村上春樹といえば「バーにたゆたうタバコの煙と低く流れるジャズ」ですものね(違うかな笑)。
それと、大胆なベッドシーンもお約束なのかな。

家福悠介が演劇の稽古をつけているシーンなのですが、最初の段階では、わざと全員に棒読みで本読みをさせるのです。それは稽古の一つの手法なのかもしれませんが、なんだかドライバーのみさきがロボットみたいな、まさに棒読みなんです。これは何か理由があるのでしょうか。感情の薄い子を演じているのかな。ちょっとよくわからない。
夜の仕事をしている母親の送り迎えをするために中学時代から車を運転していた話、その車中でぐっすり眠る母親を起こさないようにするために気を付けているうちに運転がうまくなったエピソードなどはおもしろかったけれど。
ただ、母親が多重人格であったエピソードは盛り込みすぎじゃないでしょうか。

悠介に隠れて、自分の脚本に使った俳優と次々に体の関係を結ぶ音。だけど、悠介のことは愛している。悠介は音の裏切りに気づいている。でも音を失うのが怖い彼は、音に事実を突きつけて問い詰めることはできない。
こういう女々しい男の描写、私はすごく好きなんだけど、西島の演技にそういう男の哀しさとか色気みたいなものが全く感じられなくて、ちょっとぽか~んとしてしまった。

それと音は確かに魅力的なのですが、性交をした後に憑りつかれたように物語を語りだす(それが後々テレビの脚本になる)、という巫女的描写はほんとに胡散臭い。でもまあ東洋の神秘っぽく映らなくもない。外人受けしたのはここらへんでしょうか。よくわからないけど。

イケメン俳優・高槻を演じた岡田将生は良かった。
高槻は芝居には本当に真摯に向き合う良い役者なんだけど、心に空虚を抱えてて、感情のコントロールがきかない。家福に対する直情的なまでの遠慮会釈のなさと音への憧憬、芝居への情熱、身の内を吹き抜ける空虚。そんなものがない交ぜとなった高槻の強い感情が、岡田によってうまく表現されていたと思います。
ちなみに、高槻は音と体の関係にあり、彼女の死後、彼女が巫女的に物語った話を家福に語ってきかせます。家福もその話は途中まで知っていたが、彼女の死によって途切れていた。高槻は物語の最後まで知っていた。つまり、音の巫女的要素を引き出す役割が家福から高槻に取って代わられていたのでしょう。

家福がつけていた芝居の設定も良かったです。役者たちが多国籍で、それぞれの母語で演じるというもの。多言語というだけでも驚きなのに、中に、手話を操る役者がいてびっくり。
この手話役者がいたことで、ラスト近くの劇中劇がすごく光りました(原作にも手話役者はいるのでしょうか)。
チェーホフの「ワーニャ伯父さん」のソーニャのセリフを手話で語るのです(字幕が出ます)。

「仕方ないわ。生きていかなくちゃ…。長い長い昼と夜をどこまでも生きていきましょう。そしていつかその時が来たら、おとなしく死んでいきましょう。あちらの世界に行ったら、苦しかったこと、泣いたこと、つらかったことを神様に申し上げましょう。そうしたら神様はわたしたちを憐れんで下さって、その時こそ明るく、美しい暮らしができるんだわ。そしてわたしたち、ほっと一息つけるのよ。」

めっちゃいいセリフですね。私は結局、「ワーニャ伯父さん」に感動したものと思われ、ここのシーンで泣いてしまいました。

と、ここまで書いたところで、すごくこきおろしているように見えたかもしれません。でも不思議なことに、何がどうってよくわからないのですが、なぜかおもしろかったのです。一緒に行った、映画の途中で何度か睡眠するクセのある友人も、今回はなぜか全く寝なかったのです。どこがおもしろいのかよくわからないのに、全然眠くならなかったらしいのです。

おそるべし、村上春樹…。

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