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映画「ノマドランド」感想

2021年、アメリカ。
監督/クロエ・ジャオ
出演/フランシス・マクドーマンド ピーター・スピアーズ他

原作はジェシカ・ブルーダーのノンフィクション「ノマド:漂流する高齢労働者たち」。数々の映画賞を受賞した作品です。
主演のフランシス・マクドーマンド、これまでに演劇の三冠といわれるアカデミー賞、トニー賞、エミー賞を受賞された役者さんですが私は恥ずかしながら全く見覚えがなく、予備知識もなく観始めたので、「もしかしてこの主演の女性は本当のノマド労働者なのかしら」などと思いながら観ていました。それくらい彼女の演技がもうめちゃくちゃ自然すぎて、すっかりだまされちゃいましたね。
そういう意味では、ドキュメンタリーを見ているような臨場感もあって良かった。

冒頭、字幕スーパーで説明された作品背景が、「2008年のリーマンショックによる未曾有の経済危機により、ネバダ州にある企業城下町が壊滅状態になり、町がまるまる消滅しその町の郵便番号すら抹消されてしまった」というもの。
「郵便番号が抹消されるほど町が全くなくなるってことがあるのか!」と驚いている間に、主人公のファーンはとっととバンに荷物を載せて旅立っていました。

車で各地を放浪しながら短期の仕事で収入を得ているノマドたち。
日本のノマドワーカーと言うと、スタバあたりでパソコンを使ってイキって仕事をしている若い人という印象ですが、かの地のノマドたちは違います。みんな結構なお年寄りで、公園の掃除係やアマゾンのピッキング係などの職を探しながら転々とするのです。つまり、彼らには定職もなければ家もない。
日本でも駐車場の片隅でひっそりと過ごしている車中生活者が増えているような記事を見たことがありますが、この作品で描かれるアメリカのノマドたちは行動的で元気。ファーンに「あなた、車にはGPSを搭載したほうがいいわよ」なんてアドバイスをするかっこいいおばあちゃんがいたり、ノマドたちで集会を開いて交流をしたり、これはこれで一つの文化になっているのかしらと思うほど。
トイレの不便があったり車の調子が悪くなったりと不便さもありつつ、青空の下で食事をしたりコーヒーを飲んだりする日常も、そういうのが好きな人にはたまらないでしょう。
ちなみに私はというと、家がある不自由と家がない不自由のどちらを選ぶかと訊かれれば、家がある不自由と即答しますね。根がものぐさなので、日常生活の不便さには耐えられそうにないです。

息子の家に落ち着いたノマド仲間の男に求婚されたファーンですが、彼をおいて一人、旅を続けます。ラスト、冬の日本海かと見紛うような荒れた波が打ちつける暗い海べりをファーンが一人、歩いてゆくシーンを見ていると、この荒れた海と彼女の求める自由は似合っているなという気持ちになりました。

この作品、大きな出来事が起こるわけでもないのに、最後まで興味深く見続けることができます。やっぱりドキュメンタリータッチという点が効いているのかしら。とてもおもしろかったです。

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