縁切り神社の思い出

昔、母を京都へ連れて行ったことがある。

当時私は社会人六年目くらいで、もう実家は出ていて、それなりに生活も安定していた。
多分親孝行的なあれ。
どういうきっかけだったのかは思い出せないが、元々示し合わせて休みを取ったわけではないから、思い付きで行ったんだと思う。
母と、母の友人と、私の分の新幹線代を私が払い、日帰りで京都に行った。

ちょろっと神社にお参りして、あんみつかなにかを食べて、和小物のお店を見て帰って来た。
日帰りだから、大して観光は出来なかった。
でも、縁切りで有名な神社には行った。
母が希望したからだ。

母は当時、ある男性と縁を切りたがっていた。
話し合いがもつれ、なかなかうまくいかなかった。
だから縁切り神社の御利益に縋ろう、という動機だったと思う。

私は当時縁を切りたい人はいなかったから、本当にただ付き合いで行った。
そして、母がその人と縁が切れますようにと願うのを見守った。
母の友人もその人と縁が切れますようにと願っていたように思う。
私も巻き込まれて、その男性に嫌がらせを受けたりしていたから、「母の願いが叶いますように」とは思った。
でもそのときはそこまで信じていなかった。
そんな都合よくことが進むはずないよな、と思っていた。

それから一年もしないうちに、その男性が錯乱し、母と母の友人が乗っている車に凶器を持って襲い掛かり、逮捕された。

母と友人は病院に運ばれた。
職場で連絡を受けた私は早退して病院に向かった。

もう本当、そういうときって心臓が口から出るかと思う程緊張するよ。
日常にドラマみたいな出来事が起こった感。
帰りの電車がやたらゆっくり進んでいるような気がしたよ。
まあ結果母もその友人も無事だったんだけどね。

事件前に何度か警察には相談していたんだけど、そのときは地域課だった。
でも事件後はそのとき対応してくれた警察官じゃない人に事情を聞かれた。
警察署の廊下の夜って意外と怖いよね。
音が響く感じがこう、ねえ?

その男性は裁判を受けて、結果刑務所に入りました。
危ない凶器持ってたんで、殺人未遂だったと思う。
裁判には行ってないから詳しく知らないけど。
裁判所から来た通知で、有罪判決を受けたことを知ったくらいの感じ。

裁判もそりゃあ気にはなるけどさ、裁判所行ったらその人と対面しなきゃいけないじゃん。
折角逮捕されて身の安全が確保された平和な生活を送れるようになったのに、わざわざ会いに行きたくない。
だから誰も行かなかった。

事件後すぐは、あんまりその話もしなかった。
まだ思い出になる前だったからね。
色々怖い思いもしましたし。

事件から数年経って、母と「そういえばあれはあのときの縁切り神社の御利益かもしれないね」という話になった。
確かにそうかもしれない。
危なかったけど、結果的には縁切れたからね。
母は一歩間違うと殺されるところだったけど。

私はもうよっぽどのことがなければその縁切り神社には行かない。
結果縁は切れるかもしれないけど、切り方が選べないの怖すぎる。
気付いたときは震えた。
神様半端ねえと思った。

軽々しく神様に頼ってはいけない場合もあるのかな、と思った話。
オチもなにもないけど、思い出したので書いてみた。
本当にあった怖い話。
残念ながら実話です。

最後まで読んでいただいてありがとうございました。
次回以降もお付き合いいただけると嬉しいです。
それではー。

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