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長野パルセイロを舐めるな!!

今日は仕事始め。
物書きとしての戦闘的な姿勢を示そうと思う。
文章とは戦うための道具なのである。

ぼくは松本山雅がとても好きだ。大好きなクラブの一つといってもいいし、松本という街も好きだ。歌舞伎町のようにふらふらと飲み歩くことができるし、小さな田舎町なのでぼったくりなどもほとんどないらしい。

え、歌舞伎町?客引きについて行ったら、雑居ビルの中で、30分で3万円くらい取られるなんていう話もあるし、それはだいぶいい方だ。

そして物書きとしても松本という街と松本山雅は非常にやりやすい。ちょっとみつければネタが見つかるし、記事を書いた時の反響も大きい。とにかく松本は物書きに優しい土地だ。良い読者がいる街といってもいいと思う。

ぼくの松本に対する愛は揺るがない。一人で飲みに行ってもかなり楽しめる街だと思っているし、上高地とか美ヶ原とか大町あたりに足を伸ばしてみても面白いかなと思っている(先日の滞在では、そのへんのプランも練ったのだが、冬であることとコロナ禍のあおりが残っていたので諦めた)。

これからも松本には行くし、松本のことを書いていこうと思っている。

その松本山雅が来年ダービーを戦う。FC東京と川崎フロンターレが戦う「多摩川クラシコ」のような非自然発生的なファミリー向けお祭りではない。

もっとも、年々本当に川崎が嫌いになってきているので、ダービーというのは恐ろしいものだ。ダービーなどないほうが平和なのである。ダービーはお互いの腹の底にあるヘイトをぶつけあう代替の戦場として機能する。

従って、サポーターも「試合を楽しむ」というよりも「戦争に巻き込まれる」という状態になるのだろう。

松本山雅サポーターに聞いても、長野パルセイロサポーターに聞いても「ほんとにやる?しんどいんだけど……」というような反応が返ってくることが多いのもよくわかる。ダービーを楽しみに待つというのは少しニュアンスが違うのだろうと思う。

試合があるからにはやる。でも、ダービーだろうがクラシコだろうが関係ない。もちろん隣に住んでいる地域で思うことがないわけでもない。すごく気があうわけでも敵意があるわけじゃない。憎んでいるということもないし、友達だっている。


だけど、あいつらだけには絶対に負けたくない!!!それが信州ダービーだ!!!


この言葉を聞かせてもらったのは、何年前だっただろうか。松本サポーターからではなく長野パルセイロのサポーターから聞かせてもらった言葉だ。

彼は常々、長野パルセイロが松本山雅の引き立て役のように扱われることに不満を言っていた。自分達の思いがどうしても届かない。メディアはいつも松本山雅寄りの目線をもっている。

俺たちは刺身のツマじゃないぞ、と。

その根本は映画『クラシコ』にもあるのだろうと思う。ぼくは、あのドキュメンタリー映画は罪を犯したと思っている。ドキュメンタリー映画は真実を追求したものだと勘違いされることがしばしばあるが、実際は違う。


あの作品の罪は、地域サッカーの本質……、というよりも信州の本質に迫るというよりも、その中で映画という題材に落としやすいテーマを集めたポピュリズム的な作品だということだ。ウェブライター風にいうとPV主義的な作り方をした作品だと言える。

松本山雅サポーターと、長野パルセイロの監督をしていたバドゥを対比させたという説明を聞いていたのだが、比較の軸が揃っていないので、そのへんもモヤモヤする。

焼き鳥ハウスまるちゃんのインパクト、松本山雅の歴史の浅さ、チャントの面白さなどが中心に語られ、長野パルセイロは刺身のツマだし、他の地域についてはまな板にもなっていない。

だからぼくは初見からかなり憤っていたし、二度目見た時にはイライラしてしまった。三度目はないだろうと思ったので、誰かにあげたか貸したかしてしまったので、もう手元には残っていない。誤解のないように言っておくが、ぼくは松本が好きだから、松本が魅力的に語られることについては異論がない。作品として十分ではないと思っているからイライラしたのだ。

ぼくが知っている信州はもっと奥が深いし面白い。

松本の魅力を見つけることよりも、長野や上田の魅力を見つけるほうがはるかに難しいのは承知の上だが、そこをやってこそ作品性があがると思っているのだ。

もちろん、松本山雅サポーターがあの作品が好きなのはわかる。気持ちよくもなるだろうし、友達がたくさん出ているから楽しいというのも間違いないだろうと思う。だから『クラシコ』が好きな松本サポーターのことを否定するつもりはない。

だけど、ぼくが好きな信州と『クラシコ』の世界は少し異なっていた。信州を本気で扱うなら、やはり北信vs中南信という歴史を踏まえた上で、伊那・飯田や佐久・上田などのフットボールの源流もしっかり対比させるべきだろうと思う(当時それが非常に難しいことは明らかだが)。

松本・伊那・佐久・善光寺の4つの平があるからこそ信州は面白いのであって、松本が主役で、他の3つは刺身のツマという世界観は間違っていると思う。特に、偉大なる長野が悪玉とか、引き立て役とかになってしまうのは違う。

これはぼく個人の感想としても違うし、長野という地域にパワーが集まるため、知恵を絞って対抗しようとしてきた松本の文脈とも異なる。パワーハウスは本来長野であって、松本はパワーがないからこそ工夫を凝らしてきたところなのである。

まるで信州の主役が松本であるかのような描き方は、表現側としてはやりやすいことはよくわかるのだが、それは本質的ではないと思う。

ぼくは、長野パルセイロに同情しているのだろうか?
いや、違う。
松本山雅が素晴らしいクラブであることは間違いない。でも、それと同じくらい。場合によってはそれ以上に、強く、勇敢で、格好良いのが長野パルセイロなのだ。正直結果は出ていない。本当に間が悪いチームなのだ。でも、刺身のツマにされるようなチームでないことは間違いない。

だから、ぼくが言いたいのは、「長野パルセイロをなめるな!!」ということ。新年に仕上げる長野の原稿は、そういう気持ちを込めて書いている。

松本サポーターだけを気持ちよくさせるような本ではダメだ。それは信州の本じゃない。松本伊那佐久善光寺すべてを均等に……というのは正直かなり難しいのだが、なるだけ信州の多くの地域が自分の地元のサッカーが載っていると思ってくれて、同時に「あそこも載っていやがるんだけどね」と苦々しく思ってくれるような本を作りたい。

そのための最初のキーワードは「長野パルセイロをなめるな!!」。信州本は、ぼくの長野・松代への旅からはじまるのである。そのあとに続く、伝説のサポーターの記事が難航しているので、1月は何度か松本に行ってテコ入れをせねば。

長野があってこその松本のなのである。

「長野パルセイロをなめるな!!」


ん?おまえはどっちの味方なのかって?
東京生まれの人間にはどっちの味方もない。どっちにも大事な友達がいるし、どっちも好きな地域なのだ。

イギリスとフランスのどっちの味方かといわれても余所者には明瞭に答えられない。しかし、イギリスもあって、フランスもあるからヨーロッパが魅力的なことに異論はあるまい。

「だから長野パルセイロをなめるな!!」

長野があってこその信州なのだ。そして長野パルセイロは本当に勇敢なチームだった。初めて見たときの長野パルセイロは、まさしく王者の風格を持っていた。横浜F・マリノスをすんでのところまで追い詰めた試合は本当にすごかったのだ。

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有料部分では、上記の内容を踏まえて、長野パルセイロとの出会いの話と、全国47都道府県へのサッカー旅を扱う『すたすたぐるぐる』企画、第二弾「信州編」についての話にも触れる。

まだ買ってない方はオフシーズンの間に是非!


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