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大増殖天使のキス

スポーツをしていると、特定のプレーに関して、突然「何かを掴んだ」瞬間が訪れる。
私たちはそれを「天使のキス」と呼ぶ。天使のキスをものにできた選手は大きく成長できる。


春高バレーの府予選で初戦敗退した私達は失意の中練習していた。

初戦敗退したのにも関わらず今までと同じような練習。改善は見られない。
来年も再来年も初戦で負けるのだろうな、と憂鬱な気持ちで練習に参加していた。

しかし、そんな私の気持ちとは裏腹に体は良く動いた。

苦手なストレートスパイクが面白いように決まる。二段トスは百発百中で、サーブもいつもより格段に落ちた。
偶然かと思い何度も試してみたが、その度に上手くいった。

これは天使のキスだ。天使のキスが私の元へ来たのだ。しかもこんなにたくさん!
高揚した気持ちを抑えきれず何度もスパイクを打った。休憩もせずにサーブを打った。
本選出場も夢じゃない。本気でそう思った。


現実というものは非情なもので、寝て起きたらすべて忘れていた。天使は気まぐれなのだろう、二度と私の元へは来なかった。(437字)



田原にかさん主催の「毎週ショートショートnote」に参加させていただきました!

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