母とホットケーキ
子供の頃、母親とよくホットケーキを作った。
たくさん作って冷凍して、それを何日もかけて少しずつ食べていくのだ。
わたしは母とホットケーキを作るのが大好きだった。
ホットケーキ自体ももちろん美味しいのだけど、
まだかき混ぜている途中のホットケーキミックスと卵と牛乳が混ざった液体がそれはそれはとても甘くて、
混ぜている最中についついぺろりと舐めるのが好きだった。
母親は「お腹壊しちゃうから少しだよ」と必ずわたしを諫めるのだ。その時わたしは、はしたないからダメだということをお腹壊すから、という理由にしているのだと思って半信半疑だったのだけど、
この年齢になって初めて、火が通っていない小麦粉はお腹を壊すということを知って、
あの時の言葉は嘘じゃなかったのだなぁと思った。
けれども記憶の中の母の声は少し呆れながらも明らかに優しく、愛に溢れた声色で、わたしはそれを聴きつつ横目で、出来上がるホットケーキよりもずっと甘いその液体を口の中にほおりこむ、何故だかそのシーンをよく思い出すのだ。
あの空間は世界で一番幸福な場所だったように思う。
そういう絶対的に平和で敵がいなかった、優しい記憶が、きっと誰にでもあって、わたしはそんな記憶を忘れないで生きていきたいな、誰かにも与えたいなと思う夜だった。
とても励みになります。たくさんたくさん文章を書き続けます。