「口裂け女」について【2021/09/28】
「わたし、きれい?」。振り向きざまに聞く黒髪美女。マスクを取ると裂けた口が…言えば、「口裂け女」の都市伝説だ。
私が幼いころ、流行っていた気がする。先日、NHKでアナザーストリーズ「口裂け女伝説 うわさの“真相”」を見て、ふと思い出した。
「口裂け女」と言えば、怪奇ものに含まれるのだろうが、恐怖よりも悲哀を感じてしまうのは、「わたし、きれい?」の台詞から。襲いかかる前に、通りがかる人たちに問い掛けるのはなぜなのか。
生まれながらの造作はもとより、アトピー性皮膚炎による顔の赤みやかぶれに悩まされていた私は、容姿の自信がまるでなかった。「女の子はきれいでなくては」という世間の刷り込みの中で、自分はこの先、どう生きていけばいいのだろう。「そんな顔じゃ、嫁にも行けない」。心ない声を掛けられたこともある。
(女の子らしさとは一生、無縁だろう。お嫁さんにもなれないかも。だから、将来、自立して自分1人で生きていけるように、ちゃんと勉強しなきゃ)。確か、小学校時代に悲痛な覚悟を決めていた気がする。
「わたし、きれい?」と聞かずにいられない口裂け女の胸の内は、どこか分かる気がした。醜悪な顔と知りつつも、誰かに「きれいだよ」と言ってほしかった。醜くても、そのままの姿を愛してくれる誰か。でも、そんな人は現れないのに。絶望的なまでの気持ちを、私は10代のころ、抱えていた。
1970年代の終わりに現れ、数年後に噂されなくなった「口裂け女」は、どこにいるのだろう。マスク姿が雑踏にあふれる今、ここかしこに潜んでいるのかもしれない。
*すてきな画像は、みんなのフォトギャラリーから30000yen_womanさんの作品をお借りしました。ありがとうございました。
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