『妖異探偵・シャーロック=ホームズ』
「これは妖精の仕業ですよ、警部」
「気が狂ったのかね、ホームズ君」
英国は倫敦。
霧烟る都市を揺るがす怪事件に現れた名探偵の口から出たのは、名推理ではなく妄言だった。
「現場は密室。死体は人の手の届かぬ天井に磔られ、死体は傷一つなく心臓を潰されている。これが人間の仕業ですか?」
「それを考えるのが君の仕事じゃないのか!」
「ですから、妖精の仕業とお云いしています」
やはり駄目だったか、と警部は頭を振った。
ライヘンバッハの滝から落ちた彼が発見された、と聞いた時には喜んだが……頭を打ったか、それとも溺れた後遺症か。この有様では。
「しかし天井とは……手の込んだ手口だ、気性の単純な小妖精の仕業とは考えにくい。
血腥い事件にはレッドキャップが姿を現すものですが、その気配もこの現場にはない」
……これで発狂者でさえなければ。
惜しみながら現場を鑑識する警部の背後。かつての名探偵は、壁の何か擦れた痕を見つめている。
【続く】
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