見出し画像

「月極駐車場が日本のEV普及率を向上させるカギを握るのでは?」②

株式会社ハッチ・ワークの代表取締役社長、増田です。

前回の記事では、EVが注目を浴びるようになった背景や、世界各国の現在の普及率と課題、思惑などを整理していきましたが、いよいよ本題に入っていきます。


EVのメリットとデメリット

まず、現時点におけるEVのメリットとデメリットを理解しておきましょう。当然ながらカーボンニュートラルに対して、走行中にCO2やその他の大気汚染物質を排出しないということは最大級のメリットですが、機能面ではどうでしょうか。

主なメリットとして言われているのは、走行中の振動が少なく快適で走行コストやメンテナンスコストがガソリン車と比較して安く、購入においては補助金や減税の対象になっていることです。これはなかなか魅力的ですね。

反対にデメリットとしては、車種の少なさや販売価格の高さ、充電に関する問題が挙げられています。

前回の記事でも参考にさせていただいた、東京電力エナジーパートナー社が運営するメディア「EV DAYS」のこちらの記事がわかりやすいので、ぜひご一読ください。

EVはスマホと同じ?

さて、充電問題です。

前回の記事でも触れましたが、大きく分けて、自宅などで行う「基礎充電」、移動途中に充電スタンドに立ち寄る「経路充電」、出先の駐車場などで行う「目的地充電」の3つに分類されています。

そして、「経路充電」や「目的地充電」に該当する充電スタンドは全国には約2万カ所があるようです(2023年4月時点、一般社団法人エネルギー情報センター新電力ネット運営事務局調べ)。

「2万カ所って多いの?少ないの?」

この数字だけを見ても、実際の状況を把握するのは難しいですが、冷静に考えてみましょう。街中に設置している充電スタンドは、スマホでいうところの「やばい、充電切れそうだ。どこかにコンセントないかな?」にあたり、基本的には家に帰って充電ケーブルを指し、朝満タンの状態で出かけるわけですから、あくまでも補助的な役割なんですね。

要するに、EVもスマホと同じ利用イメージです。「家に帰って充電する」、「立ち寄った場所で充電する」ということです。(ちなみに、テスラ車はOSのようなものが定期的にアップデートしていくので、本当にスマホと一緒です)

例えば、東京から大阪へ約500km。出発時点でフル充電しておき、後は高速道路のSA/PAに寄って、休憩のタイミングで充電すれば、ロスなく大阪へ着くことができます。

そして、大阪の宿泊地に着いたタイミングで充電します。翌日にはフル充電されており、同様に東京まで問題なく戻れます。高速道路網は、充電スタンドの整備が進んでいますので安心です。

普段の生活であれば、乗り方によりますが、多くても一日に往復100km移動するぐらいではないでしょうか。その場合、経路充電は必要ありません

充電の問題において、充電スタンドの設置に言及されることが多いのですが、実は「基礎充電の環境整備が最も重要ではないか」と考えています。なぜなら、家庭や月極駐車場での充電ができなければ、EVの利用はできません。家にスマホのコンセントやケーブルがなかったら困ります。

月極駐車場と基礎充電の関係

さて、ここで忘れてはいけないのが日本には「車庫証明」という独自の制度があること。これによって、保有車の駐車スペースを確保していることを証明する必要があり、月極駐車場を利用する方が他国に比較して多いわけです。

一戸建てならば車庫に電源コンセントがついていたり、最近ではマンションの駐車場に充電設備が設置されるようになりましたが、月極駐車場にはありません

あくまで概算ですが、日本における持ち家と賃貸の比率がざっくり6:4と発表がありますので、国内で登録されている乗用車約6,200万台(2023年6月末時点、国土交通省発表)のうち、4割の約2,480万台が普段の「基礎充電」に困る可能性があるということ。そして、EV購入が検討しにくい状況かもしれないと予想できます。

かなり大雑把な計算ではありますが、このように捉えると月極駐車場と「基礎充電」の関係が見えてきます

つまり、

「基礎充電の環境整備が最も重要ではないか」
⇒「日本では約4割の乗用車が月極駐車場を利用している」
 ⇒「月極駐車場に基礎充電の充電環境整備を促進することが最も重要だ」

という論理展開です。

「じゃあ月極駐車場にどんどん充電設備を設置していけばいいんじゃないの?」

と思うかもしれませんが、残念ながら、単純な話ではありません。月極駐車場に充電設備を設置するのは誰かと言えば、オーナー様です。そして、その費用負担を考えれば、オーナー様が設置に前向きになれないことは明白

ここで再びノルウェーの話。ノルウェーが爆発的にEV販売台数を伸ばした要因で着目したいことがもう一つ。「寒冷地がゆえにエンジンオイルが固まらないよう、エンジン車にヒーターがついており、その電源コンセントがもともと車庫についていた」ということです。各家庭の駐車場や公共駐車場にもともと電源があったわけです。

それによってあっさりと「基礎充電」の問題がクリアでき、あとは政府が旗振り役となって急速充電器の設置や事業用車両のEV化を進めていったことで、大幅な推進がなされたと見ています。

ご存じのとおり、日本の駐車場にコンセントがついているのは珍しい。つまり、表面的な普及率だけを見て「遅れている」とし、「EV購入時の補助金拡充!」、「急速充電器の設置推進!(2030年までに15万基!)」とった対策をするのではなく、本質的な問題の特定が大事なのだろうと思っています。繰り返しですが、海外と日本では状況が違うため、EV普及率向上には独自の対策が必要です。

充電設備設置の補助金対象に初めて月極駐車場が入った2022年

実は当社、2021年11月頃から経済産業省で機会をいただき、「EV普及における月極駐車場の重要性」について、課題の話し合いをしていました。

というのも、今までは経済産業省の補助金対象に「月極駐車場」が入っていなかったのです。

そこで、上述した「月極駐車場への充電設備設置がいかにEV普及に対して重要か」ということや、「補助金交付に伴う課題」について、意見交換をさせていただきました。

そして、ついに2022年3月に「クリーンエネルギー自動車・インフラ導入促進補助金」の対象に、初めて月極駐車場が加わりました。

今まで対象外だったことからすれば、ものすごい前進です。尚、補助率は以下の通りです。

・充電設備の購入費を1/2以内で補助
・設置工事費を定額(1/1以内)または1/2以内で補助

政府にはさらなる補助金の拡充を希望したいところです。

EV充電設備の採算性を確立するための運営実証

それでもなお、オーナー様、駐車場の管理会社様は、「二ーズがあるかもわからないのに、所有する月極駐車場に先行投資をして充電設備を設置する」という気にはなれないと思います。

よって私たちは、月極駐車場にEV充電設備の設置が進まない原因を、「採算性が確立されていないために、月極駐車場の所有者が設置しにくい状況である」と判断しました。

2023年7月、私たちハッチ・ワークはENEOS社と協業のうえ、ハッチ・ワークが開発・提供する月極駐車場オンライン管理システム「アットパーキングクラウド」を導入した、グランドプリンスホテル新高輪「国際館パミール」の月極駐車場にて、EV充電サービス付き月極駐車場の運営実証を開始しました。

今後「アットパーキングクラウド」を導入する不動産会社が、EV充電サービス付き月極駐車場によって、さらなる空車改善や収益向上を実現するための、需要や実態の調査、適性価格の検証などを行い、ハッチ・ワークがこの実証実験を通じて集積したノウハウをオーナー様や管理会社様に提供することで、EV充電サービス付き月極駐車場の全国普及を推進していくつもりです。

ちなみに、EV充電サービス付き月極駐車場の実証実験の内容は以下の通りです。

(1)EV充電サービス付き月極駐車場の需要調査
(2)EV充電サービスの有無による駐車場料金の適正値検証
(3)基礎充電需要の実態調査

プレスリリースは以下でご覧ください。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000108.000005153.html


まとめ

これは私たちにしかできない取り組みだと考えています。まだ始まって半年ですが、少しずつ色々なことがわかってきました。この点については、また追ってご報告したいと思います

まとめると、あくまでも目的はカーボンニュートラルのはずですが、どうやら世界各国の思惑も入り混じり、自動車メーカーの競争激化も合わさって、複雑化しているように思います。いずれにしても、日本政府は「2035年までに新車販売で電動車100%を実現する」と方針を出しており、EV普及率を向上させていく必要があります

日本は高い技術力によって魅力的な自動車が多く、航続距離やコスト面のバランスを考えると、どうしてもEV購入の意欲が削がれてしまう。ましてや、月極駐車場に充電設備がなければ、購入することは現実的ではない。この状況を打破するために、「月極駐車場に充電設備が拡充していくことが最重要課題」と考えています。

以上、「月極駐車場が日本のEV普及率を向上させるカギを握るのでは?」と題して、私たちの考えと取り組みをお伝えしました。
参考になれば幸いです。

長文にお付き合いいただき感謝します。ではまた。

この記事が参加している募集

#企業のnote

with note pro

12,529件

#仕事について話そう

110,083件